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アレルギー予防。今わかってきていること、最近の研究結果を振り返る。

最近、アレルギーを予防することに関して、「できることはなにかありませんか?」というご質問をいただきました。

アレルギーの予防に関しては、過去さまざまな方法が試みられましたが、多くの方に推奨できるような方法はなかなか見つかっていませんでした

そして最近になって、検討が急速にすすみはじめています。

その歴史を簡単に振り返ってみます。

ただし、それでもまだ確定といえることは少ないですし、多くが5年以内くらいの新しい話であることがおわかりになると思います。

でも、これから新しい事実、対策もわかってくることでしょう。そんな話です。



1. 「アレルギーマーチ」を御存じでしょうか?

アレルギーマーチ(アトピーマーチ)とは、アトピー素因のある人にアレルギー疾患が次から次へと発症していく様子を「行進曲(マーチ)」に喩えたものです。



この概念を提唱した馬場先生は、初発のアレルギー疾患のうち72.4%がアトピー性皮膚炎だったと報告しています(馬場 実: アレルギーマーチ事始め. アレルギー・免疫 2004; 11:736-43.)。
そのため、アトピー性皮膚炎を予防することで、他のアレルギー疾患をへらすことができるかどうかに関して、多くの基礎研究・臨床試験が行われてきました。


2. 過去実施されたアトピー性皮膚炎予防研究

乳児期のアトピ—性皮膚炎が、お母さんもしくはお子さんの食物除去により改善する例が一部あるのは事実です。
そのため、妊娠中や授乳期にお母さんの食物除去を行うことで予防を試みた報告はあります。しかし、多くは失敗し、むしろ弊害すらでました


一方、ダニはアレルゲンとして悪化要因になり、皮膚を傷害することがわかっています。そこで、ダニを減らすことで予防を試みた報告が複数でましたが多くは失敗し、最近のメタアナリシスで効果が否定されました。

そのような経緯から、2010年前後まで、これという有効な方法が見つかっていない状況だったのです。


3. 皮膚バリア機能とアトピー性皮膚炎

2006年に発表された「フィラグリン遺伝子」は、最も有力なアトピー性皮膚炎の発症リスクを予想する遺伝子として発表されました(Palmer CN, et al. Nat Genet 38: 441~6, 2006.)。最近の検討では、臍帯血中のフィラグリン遺伝子変異は子どものアトピ—性皮膚炎の発症を予測すると報告されています。

フィラグリンとは、角質層や天然保湿因子をつくるために必要な蛋白質で、遺伝子変異を起こすことでアトピー性皮膚炎の発症リスクがあがることがわかっています。


一方、保湿剤をアトピ—性皮膚炎の炎症を改善した後に定期的に塗っていくと、炎症がない状態が長く続く、もしくはステロイド外用薬の使用量を減らすことなどがランダム化比較試験で複数報告されていました。

そうして、皮膚バリアを強化することで、アトピ—性皮膚炎の発症を抑えるのではという期待が高まっていたのです。


そして、2014年10月、新生児期からの保湿剤の使用によりアトピ—性皮膚炎の発症を減らすことを証明したランダム化比較試験の発表につながりました。

この記事を書いているのは2019年1月です。そう、この研究結果の発表から4年程度しか経過していないのです。


余談ですが、フィラグリンの発現は、皮膚の炎症が進むとさらに低下しますので、「後天的にも」減ることがわかっています。皮膚の炎症を残したままにしないことをおすすめする理由のひとつです。

すなわち、炎症が起こったときには、早めに治療を行った方がよいと言えるでしょう。

そして、もしフィラグリン遺伝子変異があっても、温暖な気候では差が出にくくなることがわかっています。


そして元々皮膚バリア機能が低くても、しっかり保湿をすれば皮膚バリア機能が高い群と差がでにくくなることもある程度わかっています。



4. 皮膚の炎症とアレルギー発症まで。

さらに、「経皮感作」という概念が、広く認知されるようになってきています。


これは、2003年の疫学研究からはじまっています。
英国において、ピーナッツの入っているスキンケア用品をつかっていた乳児にピーナッツアレルギーが頻発したという結果が報告されたのです。


ピーナッツオイルの報告は、あくまで後ろ向きの観察研究(後から見直すと、こんな現象がありました、ということ。エビデンスレベルは低い)でした。

そこで、前向き研究(事前に”この検討をします”と公表してから検討する)が実施されました。

そして、ハウスダスト中のピーナッツ蛋白質の量に応じ、ピーナッツアレルギーが増えるという事実が発表されました。この報告が2015年です。まだ3年ほど。

この検討では、「湿疹がひどくなるほど」「ピーナッツアレルギーのリスクが増える」ということが判明しました。

すなわち、「経皮感作」は「経湿疹感作」ともいえます。


5. 食物アレルギーを直接予防する

経口免疫寛容」という考え方があります。

「症状がない量での蛋白を摂取していると、体が受け入れるようになる」という考え方です。

そしてピーナッツを乳児期に開始した方がピーナッツアレルギーが減るというランダム化比較試験が、2015年にはじめて報告されました。


ピーナッツに関しては初期の研究であきらかな差が証明されたのですが、卵に関しては、失敗した研究も多く何故なのかが十分わかっていませんでした。

そして2017年にようやく予防に成功した結果が報告されました。


これをもとに、「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の発表につながっていくことになります。

卵アレルギー予防は「条件」が必要であろうと考えられています。

ブログ記事でも説明しましたが、これらに重要なのは、

「皮膚の炎症をおさめること」「微量で食べはじめること」「加熱卵ではじめること」です。



6. 皮膚治療と食物アレルギー予防がつながってきている。

すなわち、皮膚の治療と食物アレルギーの治療が連動していることがわかってきたのです。

このレビューが発表されたのが2018年です。

これらの研究の流れや情報を、ブログではお伝えしてきたわけです。もちろんまだまだ検討はこれから続いていくでしょう。

皮膚と経口免疫寛容以外の検討はこれからであり、まだ日常に使えるような検討は少ないです。そのうちのいくつかをご紹介します。


 6.1. ビタミンD

まずビタミンDです。

米国におけるアドレナリン自己注射液(エピペン®)の使用頻度が北部のほうが多いことが報告され、これは日照時間に伴うビタミンDの産生量によるのではないかと推論されました。

ビタミンDに関しては、気管支喘息や感染症への有効性の報告があるものの、食物アレルギーに関しては不十分です。
またアトピ—性皮膚炎予防に関しても、まだ賛否両論の状況です。


 6.2. 魚・魚油・n3系多価不飽和脂肪酸

青魚にはn3系多価不飽和脂肪酸、マーガリンなどの植物油にはn6系多価不飽和脂肪酸が含有されますが、n-3系多価不飽和脂肪酸は魚油に多く含まれ、n-6系多価不飽和脂肪酸に比べアレルギー予防に働く可能性が示唆されています。
ただ、これも結果はまちまちのようです。


 6.3. 衛生仮説(hygiene hypothesis)

衛生仮説(hygiene hypothesis)という用語は1989年にストラカンという英国の疫学者の論文にはじめて登場しました。

1953年3月に生まれた英国人17414名に関し、花粉症や湿疹の保有や既往の割合は、生まれたときの上のきょうだいの数が多い方が低いという統計からです。

衛生仮説をそのまま日常生活に取り入れることは相当困難です。
アーミッシュという、昔ながらの農場生活をされている民族がいらっしゃって、その方々では喘息は極めて少ないことがわかっています。電気もないような生活です。


 6.4. 抗菌薬・制酸剤

衛生仮説の逆の考えですが、不要な抗生剤や制酸剤の使用も、アレルギーのリスクをあげることが報告されています。
この種の報告はとても多いですが、だからといって必要な抗菌薬を避けるべきでもありません。

医療上のメリットデメリットをよく考える必要があります。


 6.5. プロバイオティクス/シンバイオティクス

プロバイオティクスやシンバイオティクスの話も多くあります。


私も一定の効果はあると私は思っていますが、現状ではどんな菌種をどれくらいの期間、どれくらいの量で使うか明らかになっているとは言えません。


7. さいごに

ご紹介した研究結果は、まだまだほんの一部です。

まだ確定していないことも多いですし、スキンケアなどに関する報告もまだまだ日が浅いことがおわかりいただけるでしょう。

より安全で効果的な方法が模索されています。

そしてようやくアレルギー予防の扉が開き始めているのではないかと期待と願いを持っています。

専門医だって、毎日勉強しないとすぐ知識が古くなってしまいます。ですので、がんばって勉強したいと思っています。優秀でもないアタマですので、端から忘れていくのですけどね、、、汗

noteでは、ブログでは書いていない「まとめ記事」が中心でしたが、最近は出典に基づかない気晴らしの文も書き散らかしています(^^; この記事よかった! ちょっとサポートしてやろう! という反応があると小躍りします😊