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小児科学卒試/小児科専門医 〜総論〜 予想問題

 医学生、看護学生、小児科後期研修医の方々へ 試験予想問題を作成しました。作成するのに7日間かかりましたが、その分解答内容を濃くし、また私の私見、最近のトピックスを加えております。小児科専門医試験は日本専門医機構の介入もありここ数年明らかに難易度が上っています。皆様の合格の一助になれば幸いです。

問題1. 乳幼児の検査値が成人より低いのはどれか。
a.  LDH
b.  アルカリホスファターゼ(ALP)
c. 血清免疫グロブリン
d. 心胸郭比
e. 白血球数

問題2. 同じ疾患であっても成人と小児で異なる臨床像をきたすことがある。小児における正しい組み合わせはどれか。
a.  糖尿病      2型糖尿病
b. 関節リウマチ   関節症状
c. ネフローゼ症候群 膜性腎症
d. 急性白血病    骨髄性白血病
e. 結核菌感染    粟粒結核

問題3. 小児の健康と環境・生活習慣で重要でないのはどれか。
a. 受動喫煙の禁止
b. 適正な食生活への配慮
c. 3歳までの母親による保育
d. 事故を防ぐ環境の整備
e. 環境ホルモンの抑制

問題4. 病気の早期発見・早期治療のために小児全員を対象に行われていないのはどれか。
a.  学校健診
b. 新生児マススクリーニング
c. 予防接種
d. 乳幼児健康診査
e. 出生前診断

問題5. 小児科学の中で誤りを2つ選べ。
a.  生活習慣病の下地は小児期から始まる。
b. 小児期の教育環境は人格形成に関わる。
c. 成人になった慢性疾患患者は内科で診療する。
d. 小児科診療では15歳未満を対象とする
e. 小児医療は成育医療ともいわれている。

問題6. 好発年齢が学童期のものはどれか。
a.  突発性発疹
b. 川崎病
c. 溶連菌感染後急性糸球体腎炎
d. 熱性痙攣
e. クループ

問題7. 近年減少している疾患はどれか。
a.  悪性腫瘍
b. 気管支喘息
c. 慢性腎疾患
d. 心身症
e. 重症感染症

問題8. 少子化を防ぐための公的育児支援として行われていないものはどれか。
a.  病児保育
b. 育児休暇
c. 出産費用の補助としての出産育児一時金
d. 幼稚園の増設
e. 延長保育

問題9. 小児科学に含まれない分野はどれか。 
a.  発達生物学
b. 発達行動学
c. 人間生態学
d. 小児保健学
e. 経済学

問題10. 8ヶ月の乳児(男)で異常値はどれか。
a.  身長70cm
b.  体重8kg
c.  収縮期血圧:100mmHg(安静時)
d.  LDH値:400 U/L
e.  ALP値:1200 U/L

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解答1. c
 検査所見でも年齢により正常値に大きな差があるものがある。
・乳児では白血球は多い(乳児 vs 成人:1万 vs 6000)(数字覚える!啼泣するだけで白血球数増えるが、乳児で白血球:2万だったら異常です)
・ALP(アルカリホスファターゼ)は骨の発育過程を反映して小児期では高値。(小児 vs 成人:1000 vs 200)(5倍も違う!ある程度の数字は知って損はない) 
・免疫グロブリン値は10歳頃に成人値になる。(乳児 vs 成人:400 vs 1000)(数字は覚えなくていいが乳児期は成人の1/2〜1/3程度 小学校入学ぐらいの6歳には実感として肺炎で入院する割合は格段に減る(マイコプラズマ肺炎、コロナ肺炎は除く)。免疫グロブリン値もほぼ成人に近い値となるため免疫力としては乳児期早期に比べ非常に高くなることは予想できる。

解答2. e
a. 糖尿病は成人型ではインスリン感受性が低下する2型糖尿病が主体だが、小児では膵β細胞の破壊によるインスリン分泌不全が原因の1型糖尿病が多い。
b. 関節リウマチ(小児期発症の場合は若年性関節リウマチ(JIA)(古い呼び名はJRA、今は世界的にJIAに統一) JIAは小児期では関節症状がはっきりせず、弛張熱が続く全身型が多い。
c. ネフローゼ症候群は、小児ではステロイド薬に反応しやすい微小変化群が主である。高齢者のネフローゼは症候群だけあってステロイドではなかなか治らない。
d. 急性白血病ではリンパ性が3/4を占める。
e. 結核菌感染では成人では見られないような重篤な結核性髄膜炎や粟粒結核がみられるため、生後5-7ヶ月にBCGの皮内注射(はんこ注射)します。海外では以下の写真のように皮下注射ですが、WHO標準液はBCGは日本の1/160と非常に薄いため皮下注が可能。日本のBCGで皮下注するという事故が実際起こっており発熱、蕁麻疹、血尿などの健康被害が起こる。(BCG接種がコロナに効くとは到底思えないが、疫学的にそういう傾向が認知されており、現在ドイツでの臨床試験が行われている)

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解答3. e
 小児の健康を考える場合には、生活・社会環境への配慮が重要。事故を防ぐ環境の整備、環境ホルモンや大気汚染の抑制、適正な食生活への配慮、良好な人間関係の形成などが考えられる。3歳までの母親の保育(3歳児神話)は論拠がないものとされつつあるが、幼小児にとっては絶対安全基地の存在は必要。それさえ確保できれば育児は母親の社会的活躍を阻害するものではない。小児科学会での最近のトピックスとして、「多価不飽和脂肪酸=良い」「トランス脂肪酸=悪い」がある。
・n-3系多価不飽和脂肪酸(n-3系PUFAs):DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸) 脳には多価不飽和脂肪酸が多く含まれており、神経の新生に必要。摂取することで認知機能向上に期待できる。
・血漿および血液中の DHA 低値は小児の視覚や神経の発達を妨害し、また成人の認知症や認知機能低下の原因となっている→摂取することで認知機能向上や視覚改善に期待。抗うつ薬の使用が困難である小児うつ病への効果は!?
・DHA/EPAは体内で作ることができない必須脂肪酸。母乳にはDHAが含まれているが牛乳には含まれていないため母乳の方がいいかもしれない。(ただし、離乳後にDHAを添加した加工食品を与える方が知能が高くなるという研究報告はない)

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解答4. e
 病気の早期発見・早期治療のためにスクリーニング、予防接種、乳児健診、学校健診が行われている。出生前診断(NIPT)は保因者診断や遺伝相談に役立つが、倫理面を考慮した当事者への慎重な対応が必要。妊娠中絶を目的にした出生前診断は、基本的には行うべきでないが、海外では標準的なスクリーニング検査となりつつあり、結果をめぐる家族の葛藤や選択的中絶など社会的な要素も強い。

解答5. c、d
 日本国内での法律上は20歳から成人となっているが、小児科では便宜上15歳までを取り扱っていることが多い。しかし、身長の伸びが止まり、二次性徴がそろい、社会的な分別がある程度つくようになるまでを対象にする必要がある。日本小児科学会では、診療する対象を「成人するまで」という曖昧な表現としています。ちなみに海外では小児科は0-18歳を対象としており、筆者は国際学会で発表の際に対象年齢の違いに気づいた。
 小児科学では小児のみを取り扱うのではなく、胎生期からの配慮が必要であり、遺伝相談や妊娠指導にも関与する必要がある。また子どもたちが正しい生活習慣を身につけるように指導する。小児期の精神環境や教育環境は人格形成の大きく関わる。成人になった、長期管理を必要とするものはその後の管理に適切な助言を与える必要がある。小児を扱うものは人間の人生を見渡すという視点が重要である。そのような意味で小児医療という言葉の代わりに成育医療という言葉も使われている。東京世田谷区にある国立成育医療センターは厚生労働省所管の国立研究開発法人(つまりナショナルな研究施設)で「成育医療=小児科」を取り扱っている。

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