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ミラネーゼというボタンホールについて

概要

通常、ボタンホールは以下のような見た目をしている。

通常の手縫いのボタンホール

それに対して、ミラネーゼと呼ばれるボタンホールは、以下のように1本の紐のような見た目をしている。

ミラネーゼと呼ばれるボタンホール

ミラネーゼはその名前に反して、ミラノ仕立ての特徴というわけではない。むしろCifonelli, Smalto, Camps de Lucaなどパリ仕立てによく見られる仕様だ。

「ミラネーゼ」と呼ばれる理由は、かつて主にフランスで用いられていた芯糸(gimp)のブランド名La Milanaiseに由来すると言われる。
(なお、このブランドは現存しない。現代では芯糸はGütermann Agremanのものを使うのが一般的である[要出典])。

ちなみにミラネーゼはイタリア語だとAsola Lucida(光沢のあるボタンホール)と呼ばれる。
現代ではフランスでよく用いられるとはいえ、その起源はイタリア・ローマの東、アブルッツォ州にあると言われる。この地方のボタンホールでは昔から“Asola Lucida”がよく使われていたらしい。

ミラネーゼは、ヨーロッパのみならず日本でも、繊細かつ上品な雰囲気から一部で人気のあるボタンホール仕様である。
とはいえ既成服であまり見かけることはなく、主にビスポークのスーツ・ジャケットに見られる仕様だ(既製品でもTom Fordのスーツなどで見受けられる)。

なお、ミラネーゼが用いられるのは多くの場合、ジャケットやコートのフラワーホール(ラペルの上のボタンホール)だが、袖ボタン等までミラネーゼにするケースも稀にあるようだ。

縫い方

通常の手縫いのボタンホールの縫い方

仕立て服で用いられる通常の手縫いのボタンホールを縫う際は、基本的に以下の手順を繰り返す。

通常の手縫いのボタンホールの縫い方(例)

糸の種類、穴の開け方、針を刺す位置、力加減、カンヌキなどで違いが出るが、通常のボタンホールであれば、基本的な縫い方はこのようになっているはずだ(機械縫いは別)。

ミラネーゼの縫い方

他方、ミラネーゼに関してはいくつか縫い方があるようだ。とはいえ、要は以下の断面図のように芯糸を絹の穴かがり糸で包み込むような形になれば良い。

服地の上に載った芯糸のまわりをかがり糸が覆っている図
ミラネーゼの断面図

最も簡単な縫い方は、以下のように通常のかがり縫い+芯糸の周りを1周回すイメージになる。

ミラネーゼ風ボタンホールの縫い方(例)

ちなみに上の動画(GIFアニメーション)はわかりやすいように穴かがり糸・芯糸の色を変えているが、糸の色は生地の色合いにあわせるのが基本である(ミラネーゼの場合、理屈上は綺麗に縫えれば芯糸はまったく見えなくなるので何色でもいいのだが、目立たない色にしておくのが無難)。

仕上がるとこんな感じ

資材

本来のヨーロッパ式のミラネーゼでは芯としてgimpと呼ばれる芯糸を用いることは既に書いた通りである。日本ではこのgimpは手に入りづらい。

そのためなのか縁起が良いからなのかよくわからないが、日本では伝統的にミラネーゼ風ボタンホールを作る際は芯に水引き(または元結)を用いることがある。

芯糸に絹巻水引(黄色)を使っている

水引きと言っても種類があって、シンプルに紙を撚っただけものもあれば、表面に加工が施されているものもある。個人的には絹巻が使いやすいとは思う(絹巻と言っても使われているのはシルクではなくレーヨン)。
ただしモノにもよるかもしれないが、ミラネーゼ用のgimpのかわりに水引きを芯に用いるとやや見た目が太めになるかもしれない。

なお、実はgimpっぽいものは自作も可能だが、細かい話になるので割愛する。

また、穴かがり用の絹糸についてだが、国内で流通している製品は16号で糸が太く、そのままではあまり綺麗に仕上がらない。穴かがり糸は3本撚りになっているので、1本抜いて2本撚りにして使うとちょうど良い。
(未検証だが9号の絹手縫い糸を使っても良いかもしれない)

私見

「ミラネーゼは高度な技術が求められる」的な説明をたまに見るのだが、ミラネーゼでは縫い部分が隠れてあまり目立たないこともあって、適切な資材さえ揃えば一見綺麗に仕上げやすいし、そこまで難しい縫い方ではないように思う。

むしろ通常のボタンホールのほうが力加減など微妙な要素で見た目が変化しやすいので、通常のボタンホールが乱れなく繊細に仕上げられているときこそ「職人すげーな」と思う

作る側の都合はともかく、ミラネーゼはドレッシーなスーツのフラワーホールで用いれば雰囲気が華やかになり、服の良さが引き立てられるだろう。

みなさんの手持ちの服のフラワーホールもミラネーゼに縫い替えてみてはいかがだろうか?

参考


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