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「トンコハウス・堤大介の『ONI』展」へ

現在東京都立川市のPLAY!Museumにて開催されている「トンコハウス・堤大介の『ONI』展」を訪れました。

子どもの頃に河童と出逢って以来見えないものや不思議な世界に興味を持ち、最近は古来日本において大切にされていた目には見えない移ろいゆくものとの関わり方や「八百万の神」的なイマジネーションに関心があるため、直感的に「これは行こう!」と思ったことがきっかけ。

企画展のポスター。登場するキャラクターたちが可愛いです。

原風景的な世界に包み込まれる体験

場内は、まるで作品の世界に入り込んだかのように映像作品の一部が所々で上映されているほか、設定資料や制作の様子、作者の方々の思いなどが展示されていました。入り口近くでは「おなり」たちが棲む森や学校を映した映像が流れていたのですが、この時点でなんだか懐かしい気持ちが込み上げてきて、思わず泣いてしまいそうになりました。私にとっての原風景は、木々が生い茂り、様々な植物が生えた水無し沢。山へと続く道を、よく仲間たちと探検していたことを覚えています。そんな記憶…というよりも感覚が、ふと蘇ってきました。とてもCGとは思えないリアルな質感。けれど、こうした実物らしさの中に本物の自然からは感じられない人の手の温もりが混ざり合っている気がして、だからこそ懐かしさや温かさに包まれ感極まったのだろうと感じました。

水の表現も、例えば川と水溜り、涙、河童の頭から溢れるものでは質感を変えて表現しているそう。
屋久杉のような雰囲気の大樹。質感がリアル。
闇と光の表現が本当に美しい。

それにしても、こうした日本の原風景的なものだと認識させられる要因ってなんなのだろう。本当にラッキーなことにロバート・コンドウさんによるライブ・ドローイングを観ることができたのですが、質問コーナーの中で「リズム」(線の濃淡や太さ・細さのことだろうか)という言葉を繰り返しおっしゃっていたことが印象的でした。舞台となる「神々山」の詳細な世界観づくりの軌跡が展示されていましたが、様々な大きさや種類の樹木や植物、生き物、まさに八百万たちが絶妙な調和を保ちながら共存していた日本の原風景的世界の「リズム」と、ドローイングの技法としての「リズム」との繋がりを感じました。

ゼロから世界を作る…本当にすごい!
原風景的な世界観を生み出すにあたっての細かな設定資料を会場で見ることができました。
木の質感までこだわられて作られている。

「鬼」というモチーフを登場させるということ

順番が前後してしまいますが、場内の入り口には「鬼」についての説明が掲示されています。そして、その近くには物語の主人公である「おなり」と「なりどん」が飾られていました。後の展示でも明らかになりますが、作品のメインに「鬼」というモチーフを登場させることにより、「ちがい」を差別や偏見、排除・排斥へと繋げてしまうような人間の心に潜む「闇」、そして「鬼」というレッテルを貼られることで理不尽な差別・偏見を受ける側に蓄積される悲しみや苦しみなどが大きなテーマとして描かれていることが窺えました。

様々な日本の妖怪的な存在の中から「鬼」を選び、かつその由来の中から「よそ者」に対する差別偏見としての説を採用したところに堤監督の実体験が強く作用しているように思う。
メインキャラクターの「おなり」と、父の「なりどん」。

こうした「鬼」観を採用した背景には、堤監督の実体験があるとのこと。マジョリティが作るコミュニティの中に入ることができない苦しみは私自身も痛いほど感じていますが、「闇」に飲み込まれながらも(『ONI〜神々山のおなり』や『ダム・キーパー』でも「闇」に飲まれるシーンが描かれている)、様々な方々と出会い語り合う中でその体験が作品として昇華されていく〝動き〟に感動しました。

こうした実体験に触れることで、一層作品を観る視点が深まる。
「心の闇」を共有することで「鬼」というイメージをはじめ、登場人物の揺れ動く心境を理解し合えるだけでなく、共に作品を創る上での関係性が深まったのかも知れない。

また、こうしたマイノリティとしての生き苦しさを体験されたことも影響してか、トンコハウスの作品には理不尽に差別や偏見を受ける主人公を無条件に受け入れてくれる存在が登場することが印象的。カルピンという登場人物や、『ダム・キーパー』に登場するキツネがそれに当たるのですが、一方的にケアする−されるという関係を越えた関係性について学ぶところがありそうだなと感じました。ヒトや動物だけでなく山川草木や「九十九神(付喪神)」のようなものにまで生命を見出した古来日本人の感性に最初から「ウチ」と「ソト」という二元論的な・差別や偏見に繋がる視点があったのか、それとも後の文化の流入や政治的文脈の中で生まれたのか、歴史を学びたいなぁと思いました。

日本らしい世界観の中に海外からの留学生を登場させたことは、堤監督の原体験と重なるように思った。
企画展の最後にはトンコハウスの作品が上映されており、差別や偏見、社会や世界の「闇」を風車によって守り続けるブタと、ブタを無邪気に受け入れ関わるキツネたちが織りなす物語が上映されていた。ミュージアムショップにてキツネのぬいぐるみを購入。

太鼓を叩く体験

会場内には「見る」だけでなく、体感することができるコーナーも設けられています。物語の中で大きな場面となるシーンで登場する太鼓を擬似体験できるのですが、叩くと天井から吊るされた灯りがキラキラと輝きます(これも重要なシーンです)。すぐ近くには大きなスクリーンでこのシーンの映像が上映されており、ここに辿り着くまでは「なんだかどこかから太鼓の音が聞こえるなぁ。ホームページに書いてあったなぁ」程度で会場内に響く太鼓の音を聞き流していましたが、いざ映像を観ると、もういろいろ考えさせられることがたくさんあり、再びうるうるしてしまいました。音や鼓動に願いを込める…音楽というものの力を感じました。

太鼓を叩くと…
それに呼応する形で灯りが光る。

まとめ

トンコハウスについて十分知らず、何度か訪れてすっかり好きになったPLAY!Museumのホームページをチェックする中で今回の展示を知ったため、訪れるまでは「子どもたちや親御連れの方が多いのかな?」と思っていましたが、もちろんお子さんも楽しむことができるけれど、むしろ大人の方々にこそ観ていただきたい展示だと感じました。設定資料だけの展示とは異なり、映像作品や実際に体験できるスペースを混ぜながら物語の世界観を深く知ることができる展示方法に引き込まれ、一気にトンコハウスのファンになりました。4月2日まで開催ですので、ぜひ皆さんも訪れてみてください。

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