コーヒーブレイク

「わたしから聞いたことは言わないで」というリクエストの危険性

 組織にパートナーシップの器を創り上げる組織コンサルタントのHOSUです。パートナーシップが組織に広がると、どんな状況になるか? 何が可能になるか? どんな結果が手に入るか?ということを綴っています。

「わたしから聞いたことは言わないでください」

 よく同僚のことで不満がある時に、こんなこといわれません?

 「わたしから聞いたことは、言わないでください」

 当の本人に、自分からは言えないからと、上司に話をもってくるパターンの時に、最後の最後にこのセリフを言う人いるでしょう?

 これ、困りますよね。そのエピソードを聞いたことをいわずに、かつ、その本質的な問題点をフィードバックするって、こんなにむちゃくちゃなリクエストはないわけです。

 「いや、それ、誰から聞いたか言わないと、具体的な話ができないよ」と伝えると、「だったら、いいです」といって、相談したことをなかったことにしようとします。
 なかったことにはならないし、扱わなければ、いつもその人の前で不満に思う出来事が、これからも続いていくわけですから、ちっともいいことないはずなんですよね。

 そして、仮にね、当の本人に具体的なエピソードは言わずに伝えたとしましょう。
 そうすると、オブラートにつつみすぎて、核心に触れることなく、ぼんやりとした話で終わってしまうため、これまたリクエストをしてきた人が不満に思う出来事は、その後も訂正されずに続いていく可能性が高いわけですよね。

 エピソードを話さなければ、リクエストをしてきた人の身の安全は確保されるけど、事態は一向に上向かないことになりますね。

直接、本人に言わないことで失うもの

 まず、直接、本人にリクエストができないということは、パートナーシップに欠けている状況です。
 その人とその人の関係だけじゃなく、その組織(部署、ユニット、チームなど)内にも、パートナーシップが欠けている可能性があります。

 同僚の気になる言動に接して、それを良くないと感じたり、不愉快な思いをしたのは、自分自身なんだから、自分で伝えるのが効果的でしょう。

 ところが、いろいろ理由をつけて、直接本人に「言えない」人、自分がイヤな思いをしたくないからという理由で「言わない」人がいます。自分が問題解決の当事者になることを避け、上司にその対処を委ねる形をとる。

 これが、ある程度、市民権を得た解決方法のように横行しているのは、上下関係の中で問題を解決するというコンテクストに、わたしたちが慣れすぎていて、その弊害から目を背け続けているからかもしれません。

 直接、本人に言わないことの弊害はいくつもありますが、「わたしから聞いたことは言わないでください」と上司に解決を持ち込む人には、何が起きるでしょうか。

・直接、本人に言わなかった後ろめたさが残る
・後ろめたさから、本人との関係がぎくしゃくする
・上司も間接的にしか言えないから、本人が問題点にピンと来ない可能性がある。結果、状況が変わらないので、不満は変わらない。
・上司に対する不満も抱えることになる
・上司に対する不満をもっていく場所がないと、同僚にグチを言い始める
・そのグチを聞かされ続ける同僚から距離を開けられるようになる
・「目の前の状況は、いつも”誰か”や”何か”が悪いためだ」と物事をとらえるようになり、「状況を打開する力が自分にはない」と自己肯定感が下がる

 まだ、これはほんの序の口の影響ですが、これだけでも職場にいづらくなるもの満載ですね。

「◯◯さんから聞いたよ」と言っても安全な場をつくる

 『ティール組織』(英治出版)で登場するトラブル解決の仕組み(p.190)が、わたしはとても印象的でした。
そして、これを可能にするのは、パートナーシップがあってこそだと思います。

1)まずは二人で話し合って解決しようと努力する
2)合意できる解決策が見つからなかった場合、二人が信頼できる同僚を調停者として指名し、話し合いに参加する
3)それでも調整がうまくいかなければ、社内に委員会をたちあげて、多くの同僚を交えて話し合う
4)最終段階では社長が委員会に呼ばれることもある

 この1)に取り組めれば、どんなにオープンな話し合いが可能になるでしょうか。
 このプロセスには、常に当事者としていることになるので、解決に向けて、わかってほしいこと、ここだけは譲れないというラインが示せたり、逆に相手の背景や、本心を聞くことができたりするでしょう。それらを通して、人間に対する理解が深まったり、状況に対する理解が深まったりするのでしょう。

 「わたしから聞いたことは言わないでください」と上司に持ち込む人も、一度は本人にそのことを自分から持ち出せれば、「あなたのその行為が、わたしには気になっている」というサインは相手に伝わるでしょうし、上司が「◯◯さんから聞いたけど」とあなたから間接的に聞いたことを伝えても、一度は直接言えていたら、相手の受け取り方も違うでしょうね。

 そう、だから、社内をパートナーシップのある空間にしようと思ったら、あなたが言いやすい相手か言いにくい相手かに関わらず、「自分はこれが気になっている」と、率直に自分にあることを相手に持ち出すことが、出発点かもしれませんね。

 そういう積み重ねで、場のコンテクストは出来上がっていきますからね。がんばって!

記事に価値があると認めてもらえることは、何より嬉しいですし、とても力づけられます。いただいたサポートはパートナーシップの価値が大きくなる使い方につなげます。