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激推しアニメ『NO.6』

アニメ『NO.6』といえば、あさのあつこ先生の小説を原作に、2011年の夏アニメとして制作会社ボンズが手掛けたSF作品だ。

若者向けの小説でありながらストーリーがシリアスに進み、登場人物の心理描写が繊細で、当時高校生だった私はすぐに虜になった。

この物語が長年にわたって私を魅了し続ける理由は何か考えてみると、泥の中に咲く蓮の花のように、人間の醜悪さの中にある一筋の美しさと出会うことができる作品であるからだと思う。

今年の9月7日で、エンディングテーマである『六等星の夜』が発売されて12年となる。『鬼滅の刃』で話題となったアーティストAimerのデビューシングルだ。
また、作中で主人公の紫苑が、自身の運命を変えるネズミという少年と出会ってから、10年という節目の年でもあったため、今回この記事を書くことに決めた。

アニメ『NO.6』の見どころといえば、私はやはり声優陣の演技力と、エンディング楽曲の素晴らしさにあると思う。

紫苑の声優を梶裕貴さん、もうひとりの主人公ネズミ役を細谷佳正さんが務めている。梶さんは、優しい性格だけど闇落ちする主人公を演じることが本当に上手な声優ということもあり、アニメ版紫苑はネズミと対照的な人物として、とても分かりやすく描かれていた。

一方、ネズミも細谷さんの持つ太く落ち着きのある声は、包容力のあるイケメンにもってこいなので、素晴らしいキャスティングだった。細谷さんが喉を壊し休養する前の作品ということもあり、さわやかな低音での演技で、歌唱シーンもあるため個人的にはその点にも注目したい。

そして、なによりも作品の世界観をしっかりと補完したのはAimerさんの歌う『六等星の夜』だった。当時はまだ無名の歌手だったこともあり、初めて聴く独特な彼女の歌声と、歌詞に強烈に引き込まれたことをよく覚えている。

殺伐としたストーリー展開にも関わらず、優しく切ないこの曲が、懸命に生きるふたりを包み込んでいるかのように聴こえるのだ。
また、劇中のここぞという最高のタイミングで流れるため、何度涙腺をゆるませられたことかわからない。まだ聴いたことがない人は、この曲だけでもぜひ聴いてみて欲しい。


さて、本作をご存じない方のために、まずはこの物語についてご紹介していこう。
※ストーリーの詳細を知りたくない方はスキップしてください



アニメ『NO.6』ストーリー


1話『びしょぬれネズミ』

紫苑は、理想都市NO.6の高級居住地であるクロノスで暮らしていた。彼は幼い頃から最高レベルの教育を受けたエリート少年だった。母である火藍との二人暮らしではあったが、沙布という聡明な良き親友にも恵まれ、何不自由ない生活を送っていた。
そんな紫苑は、12歳の誕生日の夜、嵐と共に突如現れたネズミと名乗るVC(凶悪犯罪者)を匿ったことにより、その特別待遇のすべてを剥奪されてしまう。


2話『光をまとう街』

紫苑と火藍は市内最下層の居住地に移り住むことになり、火藍は生活費を稼ぐためパン屋を営み始めた。それなりに充実した生活を送っていたが、紫苑はネズミという存在を忘れることができなかった。
それから4年後、公園管理事務所で働いていた紫苑は、公園内で起こった不審死を目撃してしまう。幼馴染の沙布に変死体について相談をしたが、原因は分からずじまいだった。
その際に、沙布から明日から別の都市に2年間留学へ行くこと、彼女が紫苑のことを愛しているということを伝えられる。
その沙布の思いにこたえられなかった紫苑は、2年後にもう一度答えを伝えると約束し、沙布と別れる。
その後、紫苑は同僚が奇病で亡くなるのを目の当たりにし、市はその変死を隠蔽するため、目撃者である紫苑を矯正施設と呼ばれる犯罪者隔離施設へ連行しようとする。が、護送中の紫苑を救うべく、再度現れたネズミの助けを借りて、紫苑は外の世界に逃げることとなる。


3話『生と死と』

無事に理想都市NO.6の外にある西ブロックと呼ばれるスラム街へ脱出した紫苑だったが、自らも奇病に侵され一命をとりとめる。
その奇病は若い人がみるみる老けてゆき、あっという間に死に至り、首元の皮膚を突き破って蜂が孵化するというものだった。
生き残った紫苑は、後遺症として髪の色が白く抜け落ち、身体には蛇が這ったような赤い痣が浮かび上がった。


4話『魔と聖』

火藍に紫苑が無事であることを知らせるため、ネズミは偵察に使っている子ネズミに手紙を運ばせる。
火藍からかつての友人である力河を頼るように返信が届き、ふたりは力河の居場所を探るため、情報屋のイヌカシと呼ばれる少女を訪ねる。
イヌカシから情報を買い、元ラッチビル新聞の記者であるという力河にたどりつく。そしてふたりは、理想都市NO.6の創立メンバーの写真入手することに成功する。
心優しい紫苑はイヌカシの飼う凶暴な犬たちに大層懐かれ、イヌカシから犬洗いのバイトを頼まれる。紫苑の持ち前の天然さに絆されたイヌカシは、自分の母親代わりだった犬がケガで死にきれなかったとき、ネズミに歌を歌ってもらった過去を語る。ネズミの歌には不思議な力があり、その歌は魂をさらい、苦しむものも安らかな死を迎えることができるのだという。
バイト後の紫苑を迎えにきたネズミの様子が、いつもと違うことに気づいたイヌカシは、ネズミの寝首を掻くチャンスだと考え、その夜ネズミに奇襲をかける。不意打ちを食らったネズミは、イヌカシから「守るものができて弱くなった」
という指摘を受け、紫苑を大切に思っている自分に気づき焦りを覚えるのだった。


5話『冥府の天使』

紫苑は力河から理想都市NO.6内で不審死が相次いでいるという情報を手に入れる。そのことを一刻も早くネズミに伝えるために、力河と共にネズミの仕事先である舞台小屋を訪れる。
舞台の上で女形として演技をしていたネズミは、突如不思議な歌を聴き、意識を失う。
紫苑はネズミを自宅に連れて帰り介抱した。しばらくして目覚めたネズミを心配した紫苑は
「蜂が出てくるかと思った」
と、彼の首筋に手を当てる。ネズミは、急所である首を他人にやすやすと触らせてしまったことに衝撃を受けるのだった。


6話『密やかな危機』

留学中だった沙布は、唯一の身内である祖母が亡くなったという知らせを受け、理想都市NO.6に一時帰宅していた。
沙布は祖母の突然の死に違和感を覚え、話をするため紫苑に会いに行こうとした。紫苑の市民IDが削除されていることに気づき、彼女はその時、初めて紫苑が矯正施設に連行されたことを知る。
沙布は火藍のもとを訪ね、紫苑の行方を聞き出し、彼のあとを追おうとするも、治安局に捕まり、無理やり連行されてしまう。
一方、紫苑は理想都市NO.6を救うために、なんとか寄生蜂を無力化する血清を作れないかと準備を進めていた。しかし、理想都市NO.6を憎んでいるネズミは
「俺とNO.6 どっちを選ぶ、いずれ俺たちは敵になる」
と紫苑に言い放つ。
対して紫苑は、第三の道として理想都市NO.6の壁を壊し、内と外との区別をなくすという決意を伝える。
そんな時、ネズミの下に、火藍から沙布が治安局に連行されたという知らせが届く。


7話『真実の嘘・虚構の真実』

ネズミは紫苑の身を案じ、沙布のことを伝えず、イヌカシを巻き込んで秘密裏に矯正施設の内部事情について調べを進めていた。
そんな時、力河に連れられて古着屋を訪れた紫苑は、最後に会った時、沙布が着ていたコートを見つける。イヌカシが矯正施設から横流しした商品だと突き止め、紫苑も沙布が矯正施設にいることを知ることとなる。そして、紫苑はネズミを巻き込むまいとひとりで矯正施設に侵入することを決める。
しかし、紫苑はネズミが沙布のことを隠していたことを知り、ネズミが自分を守る対象としてしか見ていないことに激怒する。そうして、ふたりはこれからは対等に、共に矯正施設潜入を実行することを約束する。


8話『そのわけは…』

理想都市NO.6の情報を得るため、ネズミのかつての住処で暮らす老人に会いに行く。その老人は、力河の部屋で見つけた写真に写る創設メンバーのひとりで、初めて奇病から生き残った人物でもあった。
彼は、森の民と呼ばれる一族が敬いたたえていた、寄生蜂の母親であるエリウリアスという存在の第一発見者だった。その発見を受け、絶大な力を持つエリウリアスを手中に収めたいと考えた理想都市NO.6の創設メンバーたちは、森の民を虐殺し彼女を奪ったのだ。
ネズミはそのエリウリアスの歌が聞こえる森の民の唯一の生き残りであった。こうして紫苑は、ネズミが理想都市NO.6を深く憎む理由を知ることとなる。


9話『災厄の舞台』

紫苑とネズミはイヌカシと力河の助けを借りて、理想都市NO.6の高官から矯正施設の情報と、清掃作業と呼ばれる西ブロックの人間を減らすための大虐殺が行われることを知る。
ふたりはその清掃作業で矯正施設に送られる西ブロックの住民に紛れて、施設に侵入することを決める。


10話『奈落にあるもの』

矯正施設への侵入に成功したふたりだったが、そこはまさに人間を人間と思わない地獄のような場所だった。NO.6の裏側に直面しながら、ふたりは沙布を救出すべく先へ進んだ。
しかし、先に進むにつれて紫苑は人をいつくしむ心を少しずつ無くしていく。

その変化に気づいたネズミは戸惑いつつも共に進むが、ついに紫苑はネズミの前に立ちふさがる敵を躊躇うことなく殺してしまう。


11話『伝えてくれ、ありのままを』

苦難を乗り越え、やっとの思いで沙布の下へたどり着いたふたり。しかし、すでに沙布はエリウリアスに取り込まれており、肉体を持たない存在となっていた。
沙布とエリウリアスは自身の破壊をふたりに願う。ネズミはエリウリアスの本体であるマザーコンピューターを爆破し、紫苑を引きずって脱出を試みる。
だが、紫苑は沙布がこの世にもう存在しないという事実を受け入れることができず、すべてをネズミのせいにして自分の心を守ろうとする。
そうしているうちに、敵にみつかり紫苑をかばったネズミが重傷を負ってしまう。紫苑はなんとかネズミを抱えて脱出ルートにたどり着くが、最後の最後に敵に打たれ、命を落とす。
紫苑を失った悲しみからネズミもすべてを諦めるが、沙布とエリウリアスが現れ、ふたりの傷を癒し紫苑は息を吹き返すのだった。
そうして理想都市NO.6の壁を壊し、すべてを終えたふたりは
「再会を必ず」
そう約束かわし、別々の道を行くのだった。



1.紫苑とネズミの絆

・ネズミの思い


理想都市『NO.6』を取り巻く人間の姿を描く本作での、主人公ふたりの関係はとても印象的だ。

理想都市NO.6の高官たちに一族を虐殺され、理想都市の醜悪さを身にしみて理解し憎みながらも、理想都市NO.6の住民である紫苑に命と心を救われた過去を持つネズミ。
エリート学生として何不自由なく、理想郷で暮らしながらも、ネズミという外の世界を知るものによって、人生を大きく変えられた紫苑。
この対照的なふたりの出会いと葛藤が物語の主軸となる。

ネズミは紫苑に対してどうしても切り離すことのできない深い情のようなものを抱いていた。
西ブロックという常に命の危険と飢えに侵された世界で生きるネズミにとって、命の危機を冒して、紫苑をNO.6から助けだし、共に生活するということは信じられない行動といえた。
イヌカシから「守るものを持ってお前は弱くなった」と指摘されたにも関わらず、ネズミは紫苑に対して文句こそいえど、見捨てることはできなかったのだ。

それでは、ネズミが彼らしくない矛盾した行動をとってしまうほどに紫苑という人物に心を許してしまったのはなぜなのか。
それは、紫苑の持っている自分の犠牲をかえりみない優しさこそ、ネズミが生き延びるために捨てざるを得なかったものであり、元来優しい心根を持っているネズミにとっては、眩しく尊いものだったからではないだろうか。

物語の中で矯正施設に侵入した際、ネズミは絶体絶命の危機に見舞われる。もう終わりかという時にネズミを救ったのは紫苑だった。ネズミに拳銃を向ける敵を紫苑が撃ち殺したのだ。

その事実にネズミは涙を流しながら、
「俺のせいで背負わせた」と謝罪する。
ネズミなら一見、殺される前にやれ、躊躇ったらこちらが殺されていたといいそうなところではあるし、実際そう思っているだろう。
しかし、ネズミには紫苑にだけはそうなってほしくないという思いがあったのだ。

また、ネズミはこれまで紫苑に対して、生き延びるために、他人への思いやりは捨てるように指摘してきた。
それでも、自分の生き方を変えることはなかった紫苑が、優しさも正しさも、とうの昔に捨てたネズミを守るためなら、簡単にその信念を捨ててしまうのだ。

ネズミはその事実を受け入れることができなかったのだろう。大きな矛盾ではあるが、紫苑にだけは、かつて自分が捨てざるを得なかった尊い心をなくしてほしくない。嵐の夜、幼いネズミに救いの手を差し伸べたあの紫苑のままでいてほしい。ネズミにはそんな思いがあったのだろうと思えてならない。


・紫苑の思い

一方で、紫苑はネズミに対して、これまで知らなかった世界そのものである彼への興味と、それを追い求める執着にも似た探究心を持っていたのではないかと考える。これまで想像したこともなかった地獄のような場所で、強く美しく生きるネズミに対する憧れのようなものがあったのではないか。

紫苑は、恵まれた環境の中で、飢えも死への恐怖もなく日々を過ごしてきたゆえの甘さとも取れる優しさを持っていた。しかし、自分なりの生き方を模索しながら、ネズミと対等に隣で生きていきたいと望むようになる。
なるべく紫苑に情を移さないようにと務めるネズミに対して、ネズミのことをなんでも知りたいと考えた紫苑は、素直にネズミと真っ直ぐ向き合い続けた。

そんな紫苑にとってのネズミは、唯一無二の存在だったのだろう。そのネズミを害するものは何人たりとも許せないという、激しい感情を抱くようになっていた。

ネズミと共に紫苑の母の昔の知り合いである力河を初めて訪ねる場面でも、紫苑はネズミを侮辱した力河に対して殴りかかるという行動にでた。
普段は、自分が危険な場面でも人のことを考えるような優しさを持つ紫苑が
「君を侮辱した。なぜ君は怒らない」
と声を荒げる場面は、紫苑の深層心理にある狂気的な内面を強調するシーンだった。
それは、その後のネズミを殺そうとした人間をためらうことなく射殺するという行動にも繋がる。

彼は強烈にネズミに魅了され、その人間性に惹かれていた。恐らくこれまでの人生で何かを強く求めたことがなかった紫苑にとって、とても大きな感情だったのだろう。

ネズミが紫苑に対して抱いていた慈しみに近い感情とはまた違う、ネズミに対する執着心のような思いが紫苑にはあったのだ。


・異なる思いの形

このふたりの関係において共通しているのは、相手への憧れや、お互いがお互いにとっての核のような存在であったということである。

しかし、そのふたりの思いの形は異なるものだったのではないか。ネズミの思いは、紫苑に救われた奇跡に対する感謝と崇拝のような、相手への慈愛。紫苑の思いは、自身の好奇心に忠実な愛執や狂酔に近いものを感じる。ネズミという今まで自分が知らなかった存在への興味と、それを踏まえた絶対的なネズミへの執着と慈しみであったのではないか。
ふたりの絆は友情や恋情などといった言葉ではひどく軽薄に感じてしまうほどに深く、強固なものだった。

そして、さらに注目したいのが、他人よりも自己を慈しんで生きてきたように見えるネズミこそ、紫苑を思いやる愛情を持ち、他人への愛が深いように見える紫苑こそ、自己愛的なネズミへの感情を抱いているという相違点だ。

もちろんふたりの思いに優劣があるわけでも、思いの形に正解不正解があるわけでもない。むしろお互いに違うもの同士、パズルがはまり合うように強くに結ばれた絆であったからこそ、この物語に深みが生まれている。

『六等星の夜』の歌詞の中に、

”星屑の中であなたに出会えた”
”星屑の中で出会えた奇跡”

Aimer『六等星の夜』

というフレーズがある。このふたりのように、まさに『心友』と呼ぶにふさわしい心の拠り所となる相手に巡り合える人は、どのくらいいるのだろうか。私はそんな出会いを果たしたふたりの物語に何度読み返しても心打たれてしまうのである。


2.人間の醜悪さと美しさ

この作品の中で、終始一貫して描かれ続けているのは人間の愚かさである。

紫苑とネズミにおいても、このことは大きなポイントとなっている。特に物語の中で目についたのが、紫苑の無自覚な傲慢さだった。西ブロックへ逃げてきてから、紫苑は度々ネズミから自分の命を守る上での行動の甘さについて指摘されていた。
疑問があるままでは動けないと声をあげる紫苑に対して、ネズミは、わからなくても動け、なんでも聞いたら教えてもらえると思うなと説いたた。また、腹を空かせた少女にその場の感情で食べ物を与えようとした紫苑に対して、少女に一生満足な食事を与えられないのなら、無責任に施しを与えるなと、戒めた。

このセリフに私は、現代社会にも置き換えることができる人間の真理を見たように思った。
求めれば無償で与えられる生活を送ってきたからこそ、紫苑はネズミになんでも聞きたがるし、その答えを教えてもらえて当然だと思っている。
施しについても、飼う気もない野良猫や、公園の鳩に可哀想だからと餌をあげている人と同じだろう。
持っているものの気まぐれな善意は、実に自己中心的で、時に残酷な行動となりうるのだ。

また、理想都市NO.6の高官や住民の姿にも、現代を生きる私たちの姿を見た。
悪行の限りを尽くした高官たちであるが、彼らも初めは平和都市の建設を志し、善意と正義の名の下にプロジェクトを立ち上げた。しかし、時がたち各々が計画を遂行しようと躍起になり始めると、少しずつ目的を忘れ、より大きな力を求め悪に転じていった。

また、理想都市NO.6内では作為的な差別が横行していた。選ばれたエリート以外の住民は、ここは理想都市なのだという意識を持つことで、自分たちの平和を守ろうとする。そして、都市の高官は一般市民の不満を外部に向けるため、さらに劣悪な生活を送る西ブロックの人間を用意した。
それにより、一般市民は自分たちが優位に立っていると錯覚することで理想都市NO.6への不満から目をそらし、安心を手にいれるのだ。

私たちの生活の中でも、正義を主張する人々が意見を通すことに躍起になるあまり独裁的になり、強硬手段に出るというようなことは行われている。SNSなどでは、他者と比べて自分がどうであるかを確かめることで、自己不安を解消しようとする者も多い。

まさにあさのあつこ先生は、理想都市NO.6を私たちが生きている世界の縮図として描こうとしたのではないか。自分の足場を保つために他者と比べながら生きる。現代社会はまさに本作で描かれた理想都市NO.6そのものではないだろうか。

そんな汚い人間の内面的な部分を秀逸に作品に落とし込んでいるのが『NO.6』だ。
誰もが、余裕を持てば更なる高みを望み、欲を膨らませる。持たざる者は自分が生きることだけを考え、他者を慈しむ心を忘れる。
原作小説内で「殺すために生き物を殺すのは人間だけだ」と紫苑が語っている。まさにそれこそが、この物語で描かれていた人間の醜悪さそのものなのだろう。

しかし、その醜悪さの中にある人間の美しさのようなものが、紫苑とネズミの間には確かに存在する。紫苑の優しさは、人間の傲慢さやエゴからくるものではあるが、それによってネズミは命と心を救われた。そして、理想都市NO.6への憎悪から、破壊を目的に復讐者として生きてきたネズミは、紫苑と出会ったことで理想都市NO.6と同じ虐殺者とならずに済んだのだ。

恐らくふたりはこれからも自分たちが抱える醜悪さや、人間の愚かさと葛藤し、迷いながらも、その中にある正しさを選びとって歩んでいくのだろう。

紫苑とネズミは物語の最後、紫苑は理想都市NO.6の再建に携わる道を、ネズミは旅をしながら自分のルーツを探して生きる道を選んだ。
紫苑が望んだふたりで共に生きる未来はやってこなかったし、ネズミがかつて紫苑に話した「俺たちはいつか必ず敵になる」という言葉をこの先も避けて歩んでいけるかどうかもわからない。

アニメではそれぞれが新たな道を決めて、再会を約束して別れるところで終わっているが、原作の後日談では、ネズミが危惧した通り、平和な街を作るために奔走する中で、少しずつ変わっていく紫苑の姿の一端が描かれている。

それでも私は、紫苑とネズミには、また笑って再会を果たしてほしいと思わずにはいられない。人間は愚かな生き物ではあるけれど、その愚かさの中でも美しく生きていく方法はきっとある。

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