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LINEの生活 シーズン3完全版

※この完全版は、ペンギン人の疲労により、強調などの細かい加工は、最小限にしかやっておりません。
ご理解いただけるとありがたいです。


仲間割れ

「ふぁああ!おはよう」
東は寝室のドアを開けて外に出た。テンヌキは起きているだろうか?
そして東はリビングのドアを開けた。テンヌキは起きていた。リビングの、いかにも豪華に見える机には、朝ご飯と思える絵文字があった。
「起きてたのか、テンヌキ」
「見たらわかるでしょ?」
東は椅子に座って、朝ごはんを頬張り始めた。
「準備できてるか?」
トーストを飲み込んで、東が聞いた。
「東、そのことでちょっと話があるんだけど」
「ん?どした?」
東、君の作戦はあまりにも無防備だ!昨日あそこまでの事を起こして、そんな容易に侵入できるとでも思ってるのかい!?
「なっ、お前、なんだよ急に!」
「昨日考え直してわかった。ことの重大さを...。これを見て、昨日の事...」
テンヌキは新聞を、東に見せた。
「新聞にも載ってるんだよ!!これがどういうことかわかるよね!?」
「!?」
東は目を見開いて驚いた。
テンヌキは、新聞をバン!と机に叩きつけて言った。
「こんな城代で潜入できる確率なんてほぼゼロ。こんなことになってたら、外に出ただけで殺される。......君は『ボス』になりたくないんだろう?」
「お前...どういうことだよ」
「このまま君が逃げたら、この世界の次の『ボス』がいなくなる。そうなるとこの世界は潰れていくんだ。『この世界を壊すつもりか?』まさに今の君がそうなんだよ」
「おいテンヌキ。お前の話で、悪いのは俺だってわかってる。けど、なんで...お前は人ごとみたいに言ってるんだよ...!?お前だって俺に協力してくれたじゃんか...」


「謝りに行った」
「は?」
「昨日の夜、『お』に謝りに行った」
「なんで...」
「大丈夫、君が今日屋敷に行くことは伝えてないよ」
「お前も来いよ!!」
「いやだ」
「来い!!」
「東!!」
少し低い声が響いた。「老」の声だ。
「んだよじじい!?」
「テンヌキと謝りに行ったのは本当じゃ」
「知らねえよそんなのどうでもいい!!!!!!」
「テンヌキは、何度も何度も考えて、この結論を出したんじゃ。受け止めてやってくれ」
「老」は宥めるように、東に言った。
「......勝手にしろよ」
東は銃を出し、窓に向かって撃った。
「東!?」
「俺は一人でも行く。もうお前みたいな裏切り者にはたよらねえ」
東はテンヌキと「老」に背を向けた。
「ちょっと待ちなよ東!」
テンヌキが呼び止める。
「僕の話を聞いてるの!?潜入するのは無理だって...」
「知るか」
東はドアを乱暴に閉めて、「ボス」の屋敷へ向かった。
外では、何も洗い流してくれないのに、いつまでも降り続く雨があった...

東が外に出てから。
「おじいさん、本当にこれで...いいんですか」
「ああ、君の演技は素晴らしかった。でも、嘘でも仲間...東を裏切るのは、嫌だっただろう」
「この世界のため...です。結果的には裏切ることにはなっていないので...これでいいんです、多分」
テンヌキの目には、涙があった。
「老」はテンヌキに言った。
「いい心構えじゃ。では、準備するかの」
「はい」
テンヌキは涙を拭いて、答えた。

怖い

外に出てから、東は、今日の考え事をするのを忘れていたことに気づいた。
「忘れるなんて...な...」
東は今日の考え事を忘れていた理由に気づいていた。


「怖いからだ」
東はここにきて、言葉の怖さを味わった。


喋る物には、言葉の「ブレーキ」が効きにくい。いつでも好きなように、好きな事を喋れる...
そして神は、言葉に「嘘」を与えた。

「そのせいで...」
東は地面に座り込んだ。
「怖い...」
もう誰にも騙されたくない。怖い、怖い、怖い。
東は前に進む力をなくしそうになっていた。
「けど...」
(行かなきゃ)
東は立ち上がって、前に進んだ。「お」という仲間に、本音を答えてもらうために...

東が少し進むと、所々から、たくさんの文字が出てきた。
そして、物を投げつけてきた。
「『ボス』になれ!!」
「反逆者!!」
飛び交う物と暴言...
「俺は---!」
東は声を張り上げて言った。文字たちの動きが止まった。
俺は、人間の世界から来たんです。恋も...自分の夢を叶えることもできずに...。こんなに...こんなに心残りがある俺は、この世界を収めるなんて、到底無理です!!!!!
あたりが、時が止まったように静まる。


「だから...俺は『ボス』にはならない!!!せめて、俺が人間の世界に置いてきたものを取りに帰らせてくれ!!その後だったら俺はいつでも『ボス』になってやる!!いいか、俺は、人間の世界に置いてきたものを撮りに行って、満足してからじゃないと、『ボス』にはならないからな!?絶対に!!!」
辺りにいる文字たちは、言葉を発せないようだった。その隙に、東は、一番言いたかった事を叫んだ。


「だいたい、この世界の裏切り者が、この世界をまとめられるわけねえだろが!!せいぜいこの世界を這いずり回って、『ボス』に殺されろ!俺は絶対に『ボス』にはならない!!!」
そして東は、ハッとした。今、東は、言葉の「ブレーキ」をかけ忘れてしまった...
なんの罪もない文字たちにこんな事を...
現実では、言葉一つで死んでしまう人間だっている...東はそこに、手を突っ込んでしまったのだ。
「...」
東は、恐怖、罪悪感、と言った感情に囚われ、その場から動けなくなった。
すると、東を囲んでいた文字たちは、目に怒りの色をあらわにし、
「てめえええええええ!!!!」
家から椅子、机など持ってきて、東に投げつけた。
「お前のせいで、LINEの世界も人間の世界にも、大混乱を起こすことになるぞ!!」
「『ボス』になれ!!」
東は、言いたいことがたくさんあった。けれど、今は口を開けず、『ボス』の屋敷に向かって、走ることしかできなかった----。

昨夜、「老」の住処にて。
「テンヌキ、ちょっときてくれんかの」
「?」
テンヌキは「老」の前に座った。
「なんでしょうか?」
「テンヌキ...明日、東を一人で屋敷に行かせなさい」
「ど、...どういうことですか!!?」
「東を裏切るんじゃ」
テンヌキは、ギリッと「老」を睨んだ。
「何を言っているんですか!?東は僕の大切な仲間ですよ!?それを裏切れと!?!?!?!?」
「しっ、テンヌキ、東が起きてしまうではないか」
「...」
「老」はテンヌキを宥めて続けた。
「お前さん、『ボス』になる気はないかの?」
「...なぜ急に」
「いいか、テンヌキ。東は『ボス』になる気がない。そのまま東が人間の世界に戻ったら、LINEの世界は大混乱。人間の世界にも影響がある。あずまに迷惑がかかってしまう」
「...東は、自分のやりたい事をするためには、迷惑なんて関係なしです」
「東以外にも、人間に迷惑がかかってしまう!」
「っ...」
テンヌキは言葉を失った。
「テンヌキ、お前さんは、『ボス』の一番近くにおった。治め方くらいわかるじゃろう?」
「...」
「テンヌキ、頼む、この世界のためじゃ。やってくれんかの?」
テンヌキは少し考えてから、言った。
「わかりました。やりましょう」

「------テンヌキ、準備はできたかの?」
「はい」
テンヌキは銃を手にとった。ずっしりと重い。
「では、行くぞ。突撃じゃ」

失敗

東が「老」の住処から出てから少し経った頃。テンヌキと「老」は、東とは違う道で、屋敷に向かっていた。
できるだけ最短の道で、東よりも速く、「ボス」の屋敷に着いておかなければいけなかった。
二つの文字は、地図を持って、一番短い時間で、「ボス」の屋敷に着く道を調べて、その道を進んでいった。ある時は「絵文字工場」の機械を踏み付けながら、「絵文字工場」のシステムをスクラップにしてしまい...
この過程で、二つの文字は、三つの「絵文字工場」のシステムをスクラップにしてしまった...
そして最後。「ふさふさな森」に着いた。そこは、通り道をなくしてしまうほどに、そこらじゅうから枝、枝、枝。そしてその枝から、目が痛くなるほどに濃い色の葉っぱが、数千枚ほど生えているのだ。
「おじいさん、やっぱり進みにくいですね」
「そうじゃの、ただでさえ体が弱ってきて....うおっ!」
ガサガサボキボキザアッ!
「おじいさん!?」
「うぐっ!」
テンヌキはすぐに音のしたほうを見た。そこには、信じられない光景が広がっていた。「ボス」の屋敷にいた、「守」の文字が、「老」の文字の線一本一本をおかしな方向に曲げていたのだ。
「おじいさん!!!」
「老」は悲鳴を上げている。
「はなせ!おじいさんに触るな!」
テンヌキはリュックから銃を取り出し、銃を構えた。それに合わせて、「守」も銃を構えた。
「僕は秘書だぞ...」
前のな
「守」は銃を「老」に向けて、素早く引き金を引いた。
バン!!
「お前っ!!」
テンヌキはすぐに引き金を引いたが、誰かに頭を殴られ、当たったかどうかわからなかった。
テンヌキは後ろに倒れこんだ...

東はなんとか文字たちから抜け出し、「ふさふさの森」のそばに来た。
「...この森すげえな...」
東は少しため息をついて、
「ここでちょっと休もう」
東の体は、あの東を攻撃してくる文字によって、ぐちゃぐちゃにされてしまったのだ。
「しっかしなあ、あの文字たちもひでえよなあ」
東は持ってきたお茶を少し飲んだ。すると、「ふさふさの森」からテンヌキの叫び声が...!!
「はなせ!おじいさんにさわるな!!」
東はお茶を吹き出し、目を白黒させた。
「テンヌキい!?!?!!?」
ちょっと確かめに行ってこようと、東が「ふさふさの森」に近づいた時、東の後頭部に、金属バットで殴られたような激痛が走った。
「ぐっつう!!いってえ...な...」
東は意識を失いかけていたが、「何としてでも殴ったやつの顔を見たい!」と、残り僅かの力を振り絞り、後ろを振り向いた。


っ...『お』!!!
そこには、氷よりも冷たい表情の「お」が立っていた。
「お前はこの世界に必要なんだ」
「お」は意識を失った東をおんぶした。

屋敷に着いた「お」は、自分の部屋ではなく、屋敷の裏側にある倉庫に向かった。倉庫の扉には、「もしもの時以外、使用禁止」と書いてあった...

トラウマ

「今が...もしもの時...だな」
「お」は東をおんぶしたまま、倉庫のドアを開けた。ドアが軋む音がする。
バアン!
ドアを開けた先には、謎の機械以外、何もなかった。
謎の機械は、文字の平均の身長くらいの直方体の上に、先の方に吸盤がついたチューブが、二本ついていた。
「お」は、東を、その機会にもたれかけさせるように座らせた。そして、チューブについている吸盤を、東の頭に取り付けた。そして、後ろに回り込んだ。機械の後ろには、赤いボタンがポツンと一つだけついていた。
「ごめんな」
「お」は、そのボタンを押した。

テンヌキが目を覚ました場所は、「ボス」の部屋だった。
(何回も思うけど、息苦しい場所だな、ここは)
テンヌキの頭の中に、まともに家来に食事も与えず、こき使っていた「お」の姿が浮かんだ。
「うっ!」
頭が痛い。テンヌキは頭に手を伸ばそうとしたが、できない。手元を見てみると、ロープが巻き付けられていた。
(くそ...はっ!おじいさんは!?)
その疑問はすぐに解決した。死んだのだ。
「ボス」の椅子には、「お」が座っている。
「『お』!!お前か!?おじいさんを殺すように、家来に命令したのは!?」
「お」は紅茶をすすって言った。
「テンヌキ、お前は東を人間の世界へいかせようとしているらしいじゃないか。なぜなんだ?」
「当たり前だ!僕は東の願いを叶えるだけだ」
「東は多分、お前も一緒に人間の世界に連れていくつもりだろう」
「知ってる!!それより、なぜお前はおじいさんを殺した!?」


「テンヌキ」
「お」は冷たい声で言った。
テンヌキが凍りつく。あの時の声だ----。
テンヌキには、あるトラウマがあった。

話は、十一ヶ月前の、一月十五日。
『二千二十年一月一日!十三代目の「ボス」が決定いたしました!今回はその「ボス」が、お話をしてくださります!!』
スピーカーから、テンヌキの声が響く。テンヌキは、劇場のステージに、「お」とともに立っていた。「お」は、高価な机の後ろに立っている。テンヌキは、司会者用の(?)机の後ろに立っている。机の上に乗ったマイクを通して、テンヌキは文字に声を通している。
劇場のステージの下には、このスマホのLINEの世界に暮らす、全ての文字が並んでいる。その文字たちから一斉に、大きな歓声が響いた。

「いやあ、凄かったですよ、『ボス』」
テンヌキと「お」は、会議室へ向かっていた。「お」はテンヌキの言葉を無視して、そのまま歩いていく。
(なんだこの文字、感じ悪い)
だが、テンヌキは顔色を一切変えず、
「もうお分かりになっているでしょうが、この後は、『これからのこの世界のこと』について話し合います。いい意見、ジャンジャン出して行ってくださいよ!」
「言われなくてもそうする」
おしゃべりをしているうちに、会議室についた。

「この世界で優秀な働きをした文字が、『ボス』の家来になることができる」
一代目の『ボス』が、一番最初に、この法律を作った。
この世界にいる文字たちは、「ボス」の家来になる事を望んでいた。「ボス』の家来になるのが、文字の誇りだ、と、教えられていたからだ。テンヌキも、その中の一つの文字だった。
この世界の「ボス』が決まると同時に、この世界の文字たち全員に、二週間の「チャンスタイム」が与えられる。「ボス」が決まるのは一月一日。その次の日、一月二日から一月十五日の正午までが、「チャンスタイム」。その十四日間の中で、最も優秀な働きをした文字が、秘書になれる。それに、テンヌキが選ばれたのだ!その他、雑用係などの、合計三十の文字が家来に選ばれた。
テンヌキのトラウマの原因は、ここから始まったのだ---。

「提案がある」

「お」とテンヌキが会議室に入ると、そこには、いかにも政治家のような、「政」「治」「大」「臣」と言った文字が集まっていた。「お」が席につき、会議が始まった。
テンヌキのトラウマは、会議が始まってすぐ植え付けられた。「ボス」の「お」が、『今後のLINEの世界について』というテーマで話し合った時、
「裏切り者と思われるような怪しい文字は全て、即処刑!!裏切り者のない世界を造り上げましょう!!」
というような意見を述べた。その意見に、「政」「治」「大」「臣」は、
「それはいい!のった!」
と、賛成の声を上げていた。だが、テンヌキは、「お」の意見は間違っていると思い、反論した。
「あのお...お言葉ですが、その意見は間違っていると思います...。裏切り者と分かった文字を処刑するのまだしも、ただ怪しい文字まで殺すのは流石におかしいのでは...?ただ怪しいだけで、その文字が何も罪を犯していなかったら、イメージダウンにもつながるし、そもそも---」
そして「お」が口を開いた。

「テンヌキ、お前は黙っていろ」
透明な氷のように、冷たく、透き通った声だった...

「な、なぜお爺さんを殺した!?そ、そんな冷たい声で名前を呼ぶことは、質問に答えることではないぞ......!」
「...あのジジイはずっと、俺に...俺たちに反抗してきた。なかなか処刑する機会が見つけられなかった...。でも、あの場で殺した時、いけると思った。だからあの場で処刑した」
「東は今どこだ!?東は何をされているんだ!?
「テンヌキ〜、君は本当に質問が好きだねえ」
「答えろ!!」
テンヌキは、今にもロープを力ずくで千切って、襲ってきそうな顔をしていた。
「東は今、屋敷の裏の倉庫にいる」
「なぜだ!?」
「それよりお前、なぜここに来た?」
「はぐらかすな!」
「それを教えるなら、俺も全てを教えてやろう」
テンヌキは、ここにきた用件を話し始めた。
「提案がある」
「提案?」
「僕を『ボス』にしてくれ。そして、東を人間の世界に帰してくれ!!」
テンヌキはものすごい勢いで、土下座をするように、床に頭を叩きつけた。
ゴチン!
さぞ痛いだろうに、テンヌキは、「痛い」の言葉も発さずに、続きを話した。
「僕はあんたの一番近くにいた!いくら『ボス』が中心となって政治を行なっていたとしても、僕だって政治に関わっていたから、このLINEの世界を治めればいいのかくらいはわかる!!...東は、」
テンヌキは頭をあげた。
「東は、人間の世界でやり残したことがたくさんあるんだ。だから、そのやり残したことをやらせてやってほしい...」
「...」
テンヌキはさっきよりも勢いをつけて、頭を床に叩きつけた。
ゴチン!
ピシッ!
床にヒビが入る。
「おいテンヌキ、床が」
「知ったこっちゃない!そんなこと!...頼む!東が、どうしても『ボス』にはなりたくないらしいんだ!理由もある!だから僕を...『ボス』にして下さい...!!」
「...それは無理だ」
「なんで!?あんたには、良心っていうものがないのか!?」
良心か...
「お」は昔を懐かしむような表情になった。

「お」とテンヌキ

「良心とか言う甘ったるい感情はとっくに捨て---」
「じゃあなんで」
さっきよりも穏やかな声で、テンヌキが尋ねる。
「また質問か?いい加減にしろよテンヌキ」
「なぜあんたは法律を守らなかった!裏切り者は殺すんじゃなかったのか??良心が無いなら、なぜ僕を殺さなかった!?」
「...それは...」
「お」は考え込むような表情をする。


「良心を、捨て切れていないからだろう?」
「...」
「『お』、あんたは優しい。優しすぎる。誰よりも、他の文字を思いやれていた...。近くで見ていた僕ならわかる。あんたはいつも、苦しそうな顔をしていた...」
「お」は今、悪魔に殺されそうになっている。逃げる。逃げる。逃げる。追い詰められたその時、「お」の目の前に、大きな手が差し出された。「お」は無我夢中でその手にしがみ付く...
「お」は自分に言い聞かせるように言った。
「うるさいな!お前は口出しするな!これは『ボス』の使命なんだ!!こうするしかない!!良心を捨て切らないと、...虐殺者にならないといけないんだ!!俺は自分でそれを望んだ!!だからお前にとやかく言われる筋合いはない!!」
「そこまで虐殺者になりたいのなら、良心なんて捨て切れよ!!本当に虐殺者になりたいのなら。良心を捨てることなんて簡単だ!!」
「うるさあああああい!!」
「お」は泣きながら訴えた。
「俺は良心を捨て切ったと言っただろう!?なぜわかってくれないんだ!?お前の処刑はただただ忘れていただけだ!!」
「お」は銃を出し、テンヌキに銃口を向け、光のない目をして言った。
「邪魔者は今、ここで殺す」
テンヌキは怖がるそぶりもなく、「お」に尋ねた。
「撃てるの?」
「撃てる!お前はもうしゃべるな!!」
「お」は引き金を引---こうと思ったのだが、手が震えてそれができない。
「捨て切れないんだろう?」


「お」がしがみ付いた手は、ゆっくり、優しく、「お」を包み込んだ。
「...そうだよ、俺は良心を捨て切れなかったんだ,,,。...テンヌキ、...いや、

『王』」
「うん」
「覚えているよな?お前の文字、『玉』にある『、(点)』は、俺の良心だった。俺の良心を、お前に植え付けた」
「うん...」
テンヌキは自分の『、』を触った。これは前から、ズキズキ傷んでいた。まさか...
「...テンヌキ、東に、『騙してごめん』と、伝えてくれ」
「自分でやりなよ」
「自分で言うのが、恥ずかしいんだ。---それに、」
「あははは!!」
「!?」
テンヌキが笑い声をあげた。
「そうだったのか、『ボス』!あなたがそんなことを思っていたなんて!!いやあギャップ萌え!まさにギャップ萌えw」
「て、テンヌキ!!」
一頻り二人で笑い合ってから、「お」が言った。
「テンヌキ、俺はこれから、自分の良心を、自分で背負って生きていく。だから、お前の文字は、元どおりだ」
「うん」
「お」はテンヌキの仮の文字、「玉」の「、」を抜いた。そしてテンヌキは名前通り、テンがヌかれて、本当の「テンヌキ」となったのだった。

「...ところで今、東はどうなっているの?」
「俺の口からは言い出せない。...大丈夫。起動は遅い」
「え?」
「...とにかく早く行かないと、東が...」
「ヤバいことに!?」
テンヌキは「お」に背を向けた。
「じゃあまた後で!」
「...ああ」

テンヌキは部屋から飛び出して、エレベーターに飛び乗った。
「僕がやらなきゃ...」

「お」はテンヌキが部屋を出てから少し経った頃、トランシーバーを取り出し、スイッチを押した。
「全ての職員に告ぐ。緊急会議だ。議題は後で伝える。今すぐ会議室に集まれ」
『『『了解!』』
このトランシーバーは、「絵文字工場」で作ってもらったもので、一度に複数の文字と通信ができる。今のように。
「お」はスイッチを切って、会議室に向かった。
「あいつ、気付くといいんだが...」

テンヌキは、屋敷のエレベーターからおり、一直線に東のもとへ走った。
テンヌキが最初に、この世界を抜け出したいと言ったのは、嘘だった。まず、この世界にいる文字は、人間の世界に行くことができない。

十二代目の「ボス」がいた頃は、まだ人間の世界へ行くことが許されていた。文字たちは、「旅」と言った形で、人間の世界へと通じる「道」を通り、人間の世界に旅行していた。
だが、十三代目の「ボス」、つまり、「お」が決めた法律により、人間の世界に行くことが禁止された。裏切り者の逃げ道をなくすために、「お」が「道」を塞いでしまったのだ。無理に「道」の中に入ろうとすると、体が肺のように細かい塵となって、消えてしまうのだ。これを、「お」は、自分の両親を犠牲にしながら、「ボス」の使命のために、こなしていったのだ...

...どれだけ、苦しかったのだろう...
テンヌキは呟いた。

緊急会議

テンヌキは一度、人間の世界の話を聞いたことがあった。十二代目の「ボス」の家来が、テンヌキのように逃げ出してきたのだ。まだ「ボス」の家来でもなんでもなかったテンヌキは、街でたまたま、その文字に出会った。
「聞いて欲しいことがある」
そう言って、その文字は、テンヌキに、「旅」で行った人間の世界で知ったことを話し始めた。
テンヌキは、その話を、目を輝かせて聞いていた。だが、話を聞いているうちに、どんどん顔色が悪くなっていった。
話の内容はこうだ。まず、人間の世界は、ここに立ち並んでいるような工場で、食糧を大量生産しているわけではなく、「畑」などを使って、長い時間をかけて食糧を作っているのだということ。その文字は、そんな人間の世界のシステムに、憧れているのだ、と言っていた。前半は、そんなふうに、『人間の世界は不便だけど、憧れられるところもある』ということを話していた。だが、後半は酷いものだった。人間は、毎日毎日平和を謳っているが、現実は違う。戦争、犯罪が絶えず起こっていて、人間が謳っていることと、全てが真逆なのだ。
そして、

このLINEの世界もそうなのだ。「文字のため」だと「ボス」は謳い、毎年毎年、自分を殺し、文字たちを殺す。全てが真逆だ。

そしてテンヌキも、「ボス」になれば、この定めを辿ることになってしまうのだ。
「くそっ!!」
だが今は、そんなことを考えている場合ではない。東を助けなくては!!
テンヌキが東に惹かれたのは、東がいつでも真っ直ぐに、自分の意見を言えることを知ったからだ。たとえ、誰かを傷つけることになってしまっても、自分の意見を貫き通す。それが、東湊太という人間なのだ、とわかったのだ。
(どうか、東は、人間の世界に行って、その長所を伸ばしていって欲しい)
テンヌキは、東と出会ってからずっと、この想いを胸に秘めて過ごしていたのだ。
「だからなんとしても...東を人間の世界に戻してやりたい!!」
テンヌキは、家来を押し除け、屋敷の裏に走った。体力はとっくに限界を迎えていた。だが、胸に秘めた想いが、テンヌキの体を動かしていた。
「急げ!!」
「お」の言葉から察するに、東は「アレ」に取り付けられている。
「『アレ』はヤバいんだよ...!!」
テンヌキが倉庫の前についた。やけに時間がかかった気がする。
「東...」
テンヌキは最後の力を振り絞り、倉庫のドアを蹴飛ばした。

「...それでは今から、緊急会議を始める!!事情により、『ボス』の秘書、テンヌキは不在のまま行う。それでは『ボス』、説明をお願いします」
「お」は席を立った。例によって、この会議室には、いかにも政治家のような、「政」「治」「大」「臣」と言った文字が集まっていた。
「では、議題を発表する」
そう言って「お」は、用意していたテレビの電源をつけた。モニターに、テンヌキの画像が映る。
「みなはもう理解していると思うが、次の『ボス』候補の『東』は、人間の世界にいた。だが、『東』は、『ボス』にはならず、この世界から逃げ出したい、ということだ」
「『ボス』!!次の『ボス』がいないと、この世界が壊れてしまうではありませんか!!」
「どういうつもりなのでしょう...その『東』とやらは......」
「仮に『ボス』にならず、人間の世界に逃げるとしても、出口などないのに...」
(...違う、出口はある。あいつらなら分かってくれる)
「静粛に!!」
「お」が怒鳴り、会議室が静まり返る。
「『東』が逃げる逃げないは、一度置いておこう。今は、次の『ボス』をテンヌキにするのかどうかを決めたい」
「「「異議あり!!」」」
「『ボス』!あなたは一代目から受け継がれてきた決まりを破るつもりですか!?」
「あなたの意見はどうなんです!?あなたはそれでいいのですか!??」
「...私は東を人間の世界へ行かしたい。おかしな理屈はいらない。ただ、それだけのことだ」
「...じ、じゃああの決まりは!?」
「今ここで法律を変える」
「!!」
「次の『ボス』は、私が独断で決めれることにする!!」
「おお...」
「それなら従わないとな...」
「賛成です!」
「私も!」
「では、これにて次の『ボス』を、テンヌキにすることを決定する!!」

会議が終わって、「お」は自分の部屋に戻った。そして、一冊のノートを取り出した。
「見つけてくれるよな、あいつらなら」
「お」は、銃を取り出した。
「ごめんな」

バアン!!

シーズン4に続く

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