"JUST DO IT."の意味

高校時代、俺は陸上部の幽霊部員だった。幽霊部員なので、基本的に練習は出ない。したがって、俺の至上命題は「いかに努力せずタイムを縮めるか」ということだった。

大会の前には7000円ぐらいするユンケルを飲んでみたり、キツキツのソックスを履いてみたり、色々試した結果、一番効果があったのは毎日家の周りを走ることだった。だったらもう普通に練習に出ればいいじゃんと気づいた頃に引退になった。追いコンで後輩から「うんこ」という絵本をプレゼントされた。まさにうんこ部員である。

うんこな研究過程で、日本人の足にとってナイキは細すぎるということに俺は気づいた。一般的に、ナイキよりも太めのアシックスやニューバランスの方が履き心地が良い。俺もタイムを縮めるべく、アシックスを買うようにしていた。当時の自分にはそんなことより練習しろと言いたい。

そんな俺も、映画「AIR」を見たり、創業者の伝記「SHOE DOG」を読んだりしてから、ナイキの靴を履くようになった。これらの作品を通じて、ナイキという会社の物語に惹かれてしまった。こんな想いがあって作られたんだってことを知ると、履き心地なんかどうでも良くなる。まだ見てない人は、ぜひトライしてみてほしい。

映画「AIR」は、ナイキがデビュー前のマイケル・ジョーダンと契約を結び、あの「AIR JORDAN」を開発するまでのストーリー。当時、バスケットシューズ部門の閉鎖も検討していたほど弱小だったナイキは、社運を賭けて当時大学生のジョーダンとの巨額契約に挑む。その過程はぜひ本編で見てもらいたい。

(以降ネタバレを含みます)

この映画の中で一番熱いシーンは、ナイキ社員のソニーが会議室でジョーダンを説得するシーンなんだけど、その中に「どうしてこんなことを言うんだろう?」というセリフがある。俺はずっとそれが引っかかっていた。

それがこのセリフ。

"You're going to change the fucking world. But you know what? Once they've built you as high as they possibly can, they're gonna tear you back down - it's the most predictable pattern. We build you into something that doesn't exist, and that means you have to try to be that thing all day, every day. That's how it works. And we do it again, and again, and again. And I'm going to tell you the truth. You're going to be attacked, betrayed, exposed and humiliated. And you'd survive that. A lot of people can climb that mountain. It's the way down that breaks them, 'cause that's the moment when you are truly alone. And what would you do then? Can you summon the will to fight on, through all the pain, and rise again? Who are you Michael? That will be the defining question of your life."

「君はこの世界を変えるだろう。でもね、一度彼らが可能な限り君を高い存在に仕立てたあと、彼らは君を引き裂くんだ。それが最もありえるパターンなんだ。私たちは君を偶像にする。それは君が毎日常にその偶像であり続けないといけないことを意味するんだ。そういうものなんだ。それが何度も繰り返されてきたことなんだよ。そして君に真実を伝えよう。君はこれから、攻撃され、裏切られ、晒され、侮辱される。でも君はそれを生き延びる。多くの人が山を登ることはできる。でも降りる時に壊れてしまう。なぜならその瞬間、人は本当に一人になってしまうから。その時、君はどうする?君は全ての痛みを乗り越え、戦う意志を呼び起こし、再び立ち上がることができるか?君は誰だ、マイケル?それこそが君の人生を定義する問いなんだよ」

ジョーダンがこれからスターになろうとしている時に、こんなことを言うなんておかしいじゃないか。交渉の一番大事な局面で、なんでわざわざ水を差すようなことを言うのだろう(映画として役者に言わせたのだろう)、というのが、ずっと引っかかっていた。

それが、先日サイモン・シネックの動画をみて、そのワケがパッとわかった。サイモンさん曰く、フィル・ナイト(ナイキの創業者)は会議でこんなことを話していたらしい。

"He was speaking at a large conference and he stood up and he said to the audience: If any of you have ever run for exercise, can you please stand up? Most of the room stood up. He said: If you run at least once a week, please keep standing, everybody else sit down. Most of the room sits down. He says: If you run 3 times a week, rain or shine, regardless of the weather, or the temperature, please keep standing. There’s now a smattering of people in the room and he looks out at them and he says: The next time you’re out there, before the sun is up, it’s dark, it’s cold and it’s wet, and you’re running by yourself, we are the ones, standing under the lamp post, cheering you on. That’s how he described Nike. And in an instant, you understand what “JUST DO IT” means. It has nothing to do with winning. It has everything to do with trying. It has everything to do with doing. They celebrate the ones who do, not the ones who win."

「大きなカンファレンスで話していた彼(=フィル・ナイト)は立ち上がり、聴衆に向かって言いました。『この中で、運動のために走ったことがある人は立ってください』。部屋のほとんどの人が立ち上がりました。彼は言いました。『週に少なくとも一度走る人は立ったままで、他の人は座ってください』。部屋のほとんどの人が座りました。彼は言います。『週に3回、雨だろうが晴れだろうが、天気や気温がどうだろうが走る人だけ、立っていてください』。もう部屋にはわずかな人しか立っていませんでした。彼は聴衆を見渡して言いました。『今度あなたが外に出て、まだ陽が出ていなくて、暗くて、寒くて、濡れていて、それでも一人で走るとき、街灯の下に立ってあなたを応援している人が私たちです』。それが彼がナイキを表現する方法なんです。そしてその瞬間、"JUST DO IT"の本当の意味がわかります。あの言葉は、勝つこととは全く関係ないんです。あの言葉が語っているのは、試すことなんです。行動することなんです。ナイキは勝った人ではなく、行動した人を祝福するんです」

ナイキは栄光を祝福する会社じゃない。ナイキは、地べたを這いつくばっている人、苦境にあって踏ん張っている人を応援する会社なんだ。

だから、ソニーはジョーダンに

多くの人が山を登ることはできる。でも降りる時に壊れてしまう。なぜならその瞬間、人は本当に一人になってしまうから。その時、君はどうする?

と問いかけて、ナイキはジョーダンが一人になった時に街灯の下に立って応援する集団だと伝えたわけだ。

倒れそうな時、うなだれて足元を見ると、ナイキの靴が目に入る。暗闇の中にあって、そこから抜け出すためには、一歩踏み出さないといけない。靴を履いて、走り出さないといけない。その時背中を押すのが、あのマークであり、"JUST DO IT"というメッセージなんだね。

そんなことを考えながら、公園でぼーっとしていると、いろんな人が目に入ってくる。走ってる人、働いている人、スケボーで転んでる人、子供と遊んでる人。その足元にはあのマーク。多くの人が、ナイキの靴を履いて、日々を過ごしている。

俺もいつか、人に力を与える会社を作れたらいいなと思う。



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番外編

バンガロールのクラブで、DJキャレドみたいな見た目の兄ちゃんに話しかけられた。「お前、イカした靴履いてんな!!!」と。

よく見ると、その兄ちゃんもエアジョーダンを履いていた。しかもカスタムしていた。「俺のイニシャル刻印してあんだぜ!」「限定品で、色も紫と黄土だぜ!かっけぇだろ!」って。

ぶっちゃけクラブの照明のせいで色はよくわからなかったんだけど、なんか仲良くなった。

それからすぐ、セクシーな美女が現れて、兄ちゃんに怒鳴っていた。他の人に事情を聞くと、浮気的なものがバレたらしい。


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