ゴジラを登る。滑川大滝120m。

インスタグラムで見つけた、1枚の写真。滝の前でピースサインをしている人間の背後に、赤茶色の巨大な恐竜が立っているように見える。全長120mの滑川大滝(前川大滝沢)である。そのサイズは、歴代ゴジラの中で最大と言われる、シン・ゴジラ(118m) にほぼ等しい。

ほとんどのパーティはこの大滝を巻いて遡行するようだが、一方で「自分たちのラインで登攀をした!」と書かれているブログをいくつか発見、俄然私たちのやる気に火がついた。インスタ写真発見の数日後、3人で現地へ急行した。

秘湯と名高い滑川温泉・福島屋の手前の橋から入渓。大滝まではフローティング・ロープの投げ方の練習をしたり、Fくんのスパイダーマン登りを楽しんだりしながら、右岸左岸と各々好きなルートでバラバラに遡行していった。気の合わない3人である。

入渓から1時間ほどで、滑川大滝に着いた。これまでの沢登りでは出会ったことのない、圧倒的な大きさ。放出される膨大な水量と爆音は、まさにゴジラの咆哮のようだった。

これを登るのか。いや、登れないんじゃないの?と、私が言いそうな気配を察してか、Kさんが見たことのない速さでダブルロープ2本をハーネスに結び、ほとんどノープラン、打ち合わせなしで滝へ取り付いた。せっかちめ。まだ写真すら撮っていない。

Fくんに写真係を頼んで、ビレイ開始。すぐに3人の声はお互いに届かなくなった。滝は岩肌が脆く、カムやハーケンはあまり効かない。落石がガンガン落ちてくる。ロープの残りが少なくなってから、2本のロープの長さがかなり違うことに気付いたが、合図を送ることも叶わない。

50mロープのギリギリいっぱいで、Kさんの動きが止まった。しばらくしてロープが僅かに引かれた気配を頼りに、私が2番手で登攀開始。掴んだ岩がゴロンと剥がれ落ち、1m大の岩が頭の上に落ちてくるのを、咄嗟に頭を壁に押し付けて避けた。ビレイヤーから私の姿は見えないだろうし、ロープもきれいに流れているとは言い難い。落ちたらそれなりに痛いことになるはずだ。

どっかぶりの箇所を乗り越すときは、緊張から手の置き場に迷って、冷たい水流の中で10秒ほど手を止めた。すぐに指の感覚が麻痺し、慌てて指を水から引き抜いた。感覚が戻るまでグーパーを繰り返して、再トライ。滝登りはこれが楽しい。

ロープをたどっていくと、Kさんがいた。相当量の水の飛沫を浴びながら、頼りない岩になんとかロープをくくりつけて、とっても不安なビレイしている。落ちなくてよかった。


2ピッチ目、3ピッチ目をこなし、ようやくゴジラの肩付近まで来ただろうか。4ピッチ目は、見るからに難しそうなトラバースから始まる。核心だ。岩は脆く、ハーケンもほとんど効かない。落ちないで登るしかない。

ゴジラの肩から首元までトラバースし、首を垂直に登り、頬を超えて、額を乗っ越して、頭頂部に至った。垂直から解放されて、浅瀬に寝転び、暖かい陽を全身に浴びた。




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