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形質転換の説明と紹介


はじめに

「形質転換の役に立つ下敷き」を作成しましたが、そもそも形質転換って何?という方も多いと思います。
そこで、せっかく形質転換という言葉に興味を持った皆さんがより理解を深められるように記事を書きました。

形質転換は、いまや分子生物学においてなくてはならない必須アイテムの一つです。研究室で実際にどのようなことが行われているのかを知ってもらい、より研究の解像度を上げて身近に感じていただけたら幸いです。

形質転換とは

形質転換とは、読んで字のごとく「形質を転換すること、あるいはその操作」です。形質とは、生物の示す性質であり、その性質を決定するのはほとんどの場合、タンパク質です。タンパク質の情報はDNAにコードされているため、形質転換は主にDNAの情報が変わることで起こります

DNAの変化というと、多くの方は突然変異、特にもともと持っているゲノムDNAに書かれている情報が、複製ミスによって書き換えられる変異を想像すると思います。しかし、DNAの変化は他にもあります。それは、外部からDNAを取り込むというかなり大胆な方法です。

実験室における形質転換

我々のような、DNAが膜で覆われた核という構造体を持つ真核生物では、なかなかゲノムを取り込むという現象は起こりませんが、大腸菌のような原核生物では日常的に起こっています(e.g. 水平伝搬)。

そして面白いことに、原核生物は外から取り込まれたDNAを使ってタンパク質を生み出すことができます。これを逆手に取ると、欲しいタンパク質をコードしたDNAを原核生物に入れることで、原核生物にタンパク質を作ってもらうことができるのです。これがまさに、研究室で行われている形質転換です。

しかし、ただ大腸菌とDNAを混ぜただけでは取り込みの効率はとても悪いです(まず形質転換しません)。そこで、細胞膜の開きやすいコンピタントセルを調製します。単細胞生物の場合、DNAは細胞質基質にあるので、外部DNAも、細胞膜さえ突破することができればゲノムDNAと同じようにその情報からタンパク質が作られます。

そんなわけで、コンピタントセルのDNA取り込み効率はそのまま形質転換効率に結びつきます。学部生の頃に作ったコンピはとても形質転換効率が悪く、大変な思いをしました。

さて、コンピが用意出来たら、最後はいよいよ形質転換です。コンピは細胞膜が開きやすいですが、常に開いているわけではなく、特定の刺激によって一気に開き、その後刺激がなくなると細胞膜を閉じます。

エレクトロポレーション

エレクトロポレーションは、電気ショックにより膜を開く方法です。強い電圧をかけると、一時的に膜が大きく開き、外部のDNAが取り込まれます。
美容でもエレポロという名前の何かが行われているらしく、検索汚染に困っています……。

ヒートショック

ヒートショックは熱によって膜を開きます。エレポロとは異なるコンピを使います。これはまだ検索汚染されていません。

取り込んだ後

上記の方法でコンピを形質転換すると、強い刺激を与えているわけですからコンピはとても弱ってしまいます。そこで最後に回復培養という、コンピを元気にして増やす培養を行います。

最後に回復したコンピを寒天培地に播種して終わりです。実験によってはここでどれだけコロニーが生えるかが重要なものもありますし、とりあえず生えていればOKというものもあります。

形質転換の原理や手順について、より詳細に知りたい方は以下のリンクをご参照ください。

https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/cloning/cloning-learning-center/invitrogen-school-of-molecular-biology/molecular-cloning/transformation/bacterial-transformation-workflow.html


下敷きの話

ここまで形質転換の話をしてきましたが、ではこれらの情報とした時期の情報にはどのような関係があるかを説明します。


学名一覧

モデル生物の学名とゲノムサイズは自分が参考にしたいから載せただけです。これまでの話とそれほど関係はありません。

培地組成

つづいて、LB培地とSOC培地の組成です。LB培地は細菌を増やすためのとても一般的な培地です。ここに様々な抗生物質を入れます(形質転換体の選択のため)。

SOC培地は、エレポロやヒートショックで刺激を与えた後、ダメージを負ったコンピを回復させる培養に使います。下敷きで赤にした無機塩類は用事調製と言われていますが、今のラボでは気にしていないそうです。

アガロースゲル、サイズマーカー

そして次に気になるのはアガロースゲルとサイズマーカーですね。どちらも電気泳動のために使います。電気泳動のイメージは、障害物競走の網をくくるゾーンです。ここでいう網がゲルで、走者がDNAです。DNAのサイズが小さければ小さいほど、網には引っ掛かりにくくなるので素早く流れます。逆に、分子量が大きいと網に引っかかってなかなか進めないため、流れも遅くなります。

サイズマーカーには、すでに分子の大きさが分かっているものがミックスされていて、物差しのような働きをします。ここではよく用いられる二種類の物差しを用意しておきました。

コロニー数早見表

最後はコロニー数の早見表です。コロニー数を計測するか否かは実験によります。具体的な数を計測する必要がある場合は頑張って数えるしかありませんが、おおよそ生えていればよいというときには早見表があると便利だなあと思って作りました。

なんとなくコロニー数が多い、あるいは少ないと感じたとき、これさえあればコロニー数が約何千個かがぱっと分かります。実際に数えてみると分かりますが、意外にも200個を超えたあたりからすでに数えるのが大変になってきます。

おわりに

どうでしたか?形質転換がどういったものかなんとなくわかっていただけましたか?眠い目をこすりながら描いているのでもしかしたらわかりにくかったかもしれませんが、なんとなーーーくでも形質転換を理解していただけたら幸いです。

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