指先の傷から生じた栄養学的考察

普段から愛用しているパタゴニアのリュックからボールペンを取り出そうとすると、指先に鋭い痛みを感じた。痛みを感じた指先を見てみると皮膚が深くまでエグられ、おびただしく出血をしている。

何事かと思えば、最近毎晩夜遅くまで飲んでいる僕は、いつどこに泊まってもいいように歯磨きと髭剃りをリュックの中に入れているのだけれど、どうやらその荒廃した生活の中でも、翌朝しっかりと髭はそろうという決意の元に入れていた髭剃りが、今回の出血の犯人らしい。

ティッシュを取り出し、目の前で大量の出血をしている指先に強く押し当てる。
白かったはずのティッシュが一瞬で赤く染まっていくのを見ながら、心臓の拍動に合わせてジンジンと響く痛みを感じる。
途中、患部を心臓よりも上に挙げた方がいいのだろうかとも思ったのだけれど、怪我をしたのは右手で、そちらの手だけを高く挙げる仕草は、20世紀初頭にイタリアで生まれた「結束主義」のシンボル・ジェスチャーに似ていたので諦める。
20分後にようやく出血が収まり、ここからがスタート。
どうやったらこの深くエグられた傷を早く治せるか考えてみる。

その答えを得るためにはまず傷ついた組織がどうやって治っていくかを知ることが大切。
組織の治る過程は「止血期」、「炎症期」、「増殖期」、「リモデリング期」の4つに分けられる。

第1の「止血期」は、血が出てたらとりあえずまずは血を止めようという名前通りの期間で血小板という細胞やフィブリンというタンパク質が活躍する。

ちなみに、今のうちに組織が傷ついた瞬間に時計の針を戻すと、「傷つきましたよー」というサインが皮膚表面のマスト細胞という細胞に送られる。この細胞がこの後出てくるマクロファージや線維芽細胞の働きをコントロールしているのだけれど、どうコントロールするかというと亜鉛を放出して。
年を重ねるとともに傷の治りが遅くなるというのは、実はこの亜鉛不足により傷の修復に必要なシグナルを十分に送れていないという場合も多い。
また男性の場合、毛髪に含まれる亜鉛の量が多いと血中のテストステロン(男性ホルモン)濃度は高いというデータもあり、つまり性欲減退にも亜鉛は関連しているので、傷の治りが遅く性欲もないのなら亜鉛摂った方がいいですよ、絶対。

横道にそれた話題と前後した時間を元に戻してみる。

第2の「炎症期」とは炎症反応が始まる期間のこと。
炎症反応とは「異物」や「死んでしまった自分の細胞」を排除して身体の中の環境を維持しようという反応で、ここでいう「異物」とは風邪のウイルスや肺炎の細菌など、「死んでしまった自分の細胞」とは捻挫や切り傷などで壊れてしまった細胞を指す。
今回の切り傷の場合、患部には外からたくさんのばい菌が入ってくる。そんなばい菌達や死んだ細胞をパクパク食べてくれる好中球やマクロファージなどと呼ばれる細胞がこの期間は活躍してくれる。
ちなみに消毒液はばい菌も殺してくれるけど、そのばい菌をやっつけてくれる細胞たちまで殺してしまう。つまり傷の治りが遅くなる。
なので、感染症の疑いがなく、泥がついているなど患部が汚い状態でなければ水で洗い流すだけの方がベター。
また栄養学的にはオメガ6系の油は炎症を必要「以上」にアップさせてしまうので、揚げ物や洋菓子などはあまり食べない方がよい。

第3の「増殖期」は血も止まり、邪魔なばい菌もいなくなり周囲の環境が整ったところで、ここからが建築工事のスタートだとばかりに足場となる細いコラーゲン組織が作られ、仮の血管をその間に通して損傷部位に栄養を運び、その栄養でまたコラーゲン組織を作りのサイクルが繰り返される期間。この役目を引き受けるのはマクロファージからの掃除完了連絡を受け取った線維芽細胞など。

第4、最後の「リモデリング期」は「増殖期」で作ったコラーゲン組織をさらに頑丈にして、血管も無秩序なものではなく、規則正しく強い物にする期間。
ちなみにコラーゲンの材料はタンパク質なので、質のいいお肉やお魚はしっかり意識して食べた方がいいし、組み立てにはビタミンCが必要不可欠なのでサプリでいいからしっかり摂る事が大切。材料=タンパク質、作業員=ビタミンCみたいなイメージで、どちらが欠けていても十分ではない。
美容家の方達が、タンパク質やビタミンCを意識しているのは、お顔のたるみもコラーゲンの組み立ての問題で生じるから。

上記の4つの過程を経て傷口の表面の皮膚は元どおりキレイに閉じられて、残念ながら完全にではないのだけど、中身の組織(血管、筋肉etc)なども正常に戻っていく。

このように効率的な傷の修復には傷の処置方法だけでなく、栄養学的なアプローチも必要不可欠である。

                                                        

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大門 正空 (MASATO DAIMON)

元大手ダイエット専門ジムのパーソナルトレーナー。述べ300人以上に食事アドバイスを含めたトレーニングを指導し、トレーナーの教育、育成も担当。大学、社会人アスリートに対しての競技力向上トレーニング、リハビリ指導などを経て現在はボディーワーカーとして関西で活動中。
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