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『小山宙哉はどのようにして宇宙兄弟を描いているのか?人類が月へ挑戦することって ?』

編集者のユヒコです。小野さんとはご縁があり、書籍『宇宙に命はあるのか』の担当をさせていただきました。今は『宇宙に命はあるのか』こども版の製作チームで奮闘中です。
(書籍については、いつかまた機会があるときに!)

私は漫画『宇宙兄弟』の担当編集をしておりまして、せっかくなので今日はTHE VOYAGE読者がきっと気になっている点、「最新の宇宙開発情報をどうやって漫画にしているのか?」ということについてお伝えしていきます。

まず、『宇宙兄弟』は近未来を描いている漫画です。現在は2029年(35巻時点)を舞台にしています。多くの人が、宇宙開発の最前線の情報を得て、漫画にしているとイメージされるのではないでしょうか?
しかし、実際は少し違います。何が“少し”違うのかを今日は掴んでもらえると嬉しいです。
結論からいうと、『宇宙兄弟』はキャラクターからストーリーがつくられている漫画です。最新のニュースが発表され、この宇宙技術を活用するためにシーンが設けられるわけではないのです。あくまでキャラクターが過ごす時間軸に必要な情報を集めます。そうしていくと必然的に新しい技術を描くことにもつながるというイメージです。


イメージが湧くような例をひとつ紹介します。
宇宙兄弟33巻で、月でミッションに取り組んでいた女性宇宙飛行士ベティがタンクの爆発事故に見舞われました。

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私が小山さんから質問されることは、「月で爆破事故にあった際の応急処置の手順を教えてください。ベティは意識がある状態で言葉は話せます、命は落とさない程度の症状で、カルロが手術をすることで助けられることをイメージしています。外傷だと何が当てはまるでしょう」といった内容です。小山宙哉さんがイメージをしやすいよう“素材”を集めることが私の仕事です。この素材をもとにさらに小山さんはイメージを膨らませ物語を考えていきます。
月での爆破事故で負傷することは前例があるわけではないので、どういった手順が必要かは調べないとわかりません。この場合は交通事故にあったときの応急処置の方法を参考にしました。ネットで調べる以外に、医師にも手順を確認します。
調べた(情報)をもとに、小山宙哉さんは頭の中で月に行きます。登場人物たちと同じ景色を想像するのです。すると、カルロだからこその意識の確認の仕方、ベティならではの応答の仕方がみえてきます。漫画ができていく瞬間です。

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本編では、気胸になったベティをカルロが手術します。その後、小山さんは「状態が悪化したベティを地球に帰した方がいいのではないか?」と考えました。けれども、まだ状態が思わしくなく、血胸まで発症する可能性のあるベティは、地球帰還時の宇宙船の着陸の衝撃に耐えられない可能性が出てきました。どうしたらいいのか…。
そこで、ベティを助けるには「ISSで手術をするしかないのでは?」という発想が起き、そうして生まれたシーンが宇宙兄弟34巻に掲載された人類初の遠隔操作を用いたISS手術シーンです。

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ベティを助けるために本気で考えた結果、最先端の技術を用いた手術を宇宙で行うことになりました。このことが読者にとっては「『宇宙兄弟』は最新の宇宙にまつわる情報を取り入れている!」というようにみえるわけです。最新情報から描いているわけでなく、物語を考えていく上で最新情報が必要になってくる。『宇宙兄弟』はリアリティがあるといわれる理由が“少し”伝わったでしょうか?


最後に、今月はアポロ月面着陸50周年の記念すべき号のため、「人類が月を目指すことについて」、『宇宙兄弟』らしいシーンを紹介して終わりにしたいと思います。宇宙兄弟3巻26話のシーンです。

「もうすぐ日々人が月に立つんだ
日本人が初めて月に行くんだよ

みんなきっとワクワクしながら
夜空を見上げると思うな

そしたらみんなの意識に宇宙が降りて来て
もっと宇宙が近くなる」

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このシーンは、人類が月を目指すことの意識の変化に着目しています。私はこの考え方が非常に小山宙哉さんらしいと感じます。人類が月に行くことで、技術的な発展、将来の探査への貢献、資源の確保につながるなど、いろいろなメリットが思い浮かびます。でも小山さんは『人は月にも行くことができる』という事実は、人の意識を変えることに大きく貢献すると発想するのです。
人類が月に初めて着陸し50年の月日が流れました。50年前の人類の偉業を祝福しながら、改めて今、人の意識がどの地点にあり、次に何が起こることで人の意識が変わっていくのか、そんなことを空想したいなと思います。


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宇宙兄弟編集者 ユヒコ(仲山優姫)

作家エージェント会社コルクで宇宙兄弟の担当をしています。アザラシとAKBが好きです。
Twitterに作家のこと、日々のことを更新しているので、フォローよろしくお願いします! Twitter▶ @yuhicork  note▶︎ユヒコ


『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八 』

「宇宙に命はあるのか」はNASAジェット推進研究所勤務の小野雅裕さんが独自の視点で語る、宇宙探査の最前線のノンフィクションです。人類すべてを未来へと運ぶ「イマジネーション」という名の船をお届けします。
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胸躍るエキサイティングな書き下ろしです。


『宇宙メルマガ THE VOYAGE』

NASAジェット推進研究所勤務の小野雅裕さん読者コミュニティが立ち上げた『宇宙メルマガTHE VOYAGE』が創刊1周年を迎えました。
毎号、小野さんをはじめ各方面で研究開発に従事される方々、宇宙ビジネス関係者などにご寄稿頂き、コアな宇宙ファンも唸らせる内容をお届けしています!


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想像してみよう。遠くの世界のことを。
明日もお楽しみに。 


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