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ispaceの月面資源開発と新たな産業創出

株式会社ispace | Founder & CEO 袴田武史

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1. なぜ、世界は月に注目するのか
近年、世界中が月を目指しています。NASAが構想する月周回ステーション「Deep Space Gateway」や、欧州宇宙機関の事務局長が掲げる国際月面基地構想「Moon Village」などの国際協力を推進する働きかけがすでに動き出しています。なぜ、人類初の有人月面探査「アポロ計画」から約50年経った今、月が再び注目を浴びているのでしょうか。各参入者の動機はさまざまですが、特に重要視されているのが、月を人類の活動圏の中継地点とする見方です。近年の研究によると、月には貴重な鉱物資源のほか、数十億トンの水が存在すると言われています。北極の永久影地域に約6億トンの水氷があると推測され、南極にはそれを上回る量の水が固体として保管されていることが示唆されています。

2. 宇宙の石油「水資源」
水資源は、生物の生命維持や植物の植生に必要不可欠な要素であることに加えて、水素と酸素に分解すればロケットの燃料になることから、「宇宙の石油」と呼ばれるほど貴重な資源です。月で水資源を確保することができれば、将来月面で人間が暮らすための重要な資源になるほか、月でロケットの燃料を補給してから火星や小惑星などのさらに遠い天体に向かうこともできます。月が燃料補給基地として機能することで、地球から打ち上げられるロケットの燃料量が削減され、莫大な打ち上げコスト削減や燃料重量分のペイロード(貨物)の搭載が可能になります。これからの時代、月を制するものは宇宙をも制すると言えます。 月の水資源こそが宇宙へのヒト・モノの輸送の在り方を変え、人類が宇宙で生活する未来を速める重要な鍵となるだろう。その貴重な月の水資源に注目しているのがispaceです。 

画像2- 月の水資源を軸とした新しい経済圏が誕生 -

3. 次世代の民間宇宙企業「ispace」
ispaceは、「人類の生活圏を宇宙に広げ、持続的な世界を実現すること」をビジョンに掲げ、月面資源開発の事業化に取り組んでいる次世代の民間宇宙企業。2010年に設立されて以来、ispaceは東京の小さなオフィスから、米国、ルクセンブルクと日本の3カ国に拠点を構えるグローバルな企業へと成長した。社員数はすでに60人を超え、日本に限らず世界各国から有能な人材が集まっています。ispaceは、超小型宇宙ロボット技術を軸に、従来の国家主導のミッションよりも低価格かつ高頻度な月面へのアクセスを提供し、月面探査、資源採掘や貯蔵、輸送などを行い、宇宙資源を起点とした新しい産業創出をリードしていくことを目標としています。人類が宇宙で生活をするためには、豊かになる仕組み=経済が必要になるでしょう。宇宙資源開発は、宇宙に経済を築く第一歩になるはずです。

4. 宇宙資源開発の先導に向けた技術基盤の確立
宇宙資源開発を先導していくためには、月面に高頻度で着陸し、水資源データを最速で集積する事が必須となります。ispaceは、日本が誇る超小型ロボティクスを駆使した技術開発を武器に、宇宙資源市場の獲得を目指しています。 ispaceはビジョン達成に向けた第一歩として、日本発の民間月面探査チーム「HAKUTO」を運営していました。HAKUTOは、世界初の月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加したチームです。残念ながら、レースは2018年3月末に、勝者なしで幕を閉じましたが、多くの企業や個人の皆様にご支援いただいたこと、そして月面探査ローバー”SORATO”の開発を通じて、HAKUTOは新しい宇宙開発におけるビジネスモデルと次世代の月面探査機開発に向けた足跡を残すことができました。

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-月面探査ローバーSORATO-

そして、ispaceの挑戦は続いていきます。 先日9月26日に自社でランダーを開発し、アメリカのSpaceXのファルコン9ロケットを使用して、2020年半ばと2021年半ばの2回、月面探査ミッションを行うことを発表しました。この史上初の月面探査プログラムは、HAKUTOの想いを継承するため「HAKUTO-R」と名付けました。次回はこのHAKUTO-Rについて詳しくご紹介したいと思います。

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-史上初の月面探査プログラム「HAKUTO-R」-

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袴田武史
Founder & CEO

子供の頃に観たスターウォーズに魅了され、宇宙開発を志す。ジョージア工科大学で修士号(航空宇宙工学)を取得。
大学院時代は次世代航空宇宙システムの概念設計に携わる。その当時、Ansari XPRIZEにより民間有人宇宙飛行が成功し、
民間での新しい宇宙開発時代の到来を感じる。
民間での宇宙開発では、経営者が必須になると考え、大学院卒業後、外資系経営コンサルティングファーム勤務。
プロジェクトリーダーとして幅広い業種のクライアントにコスト戦略および実行を中心にコンサルティングサービスを提供。
2010年よりGoogle Lunar XPRIZEに参加する日本チーム「HAKUTO」を率いた。


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毎号、小野さんをはじめ各方面で研究開発に従事される方々、宇宙ビジネス関係者などにご寄稿頂き、コアな宇宙ファンも唸らせる内容をお届けしています!


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想像してみよう。遠くの世界のことを。
明日もお楽しみに。

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