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次世代のアポロへの想い

「夢は宇宙飛行士です!」

それが少年のキャッチフレーズ。

6年生の時だったかな。

僕がまだ公文に通っていた頃。でも「公文大好き、勉強大好き」なんて一度たりとも思わなかった頃。与えられた文章を読み、解答欄を埋め、延々と問題集を進めていた僕は、一編の抜粋文に心を奪われた。

「これからみなさんを、『相対論』の世界へご案内しましょう。」

そういって僕に宇宙をくれた一冊の本。

そこには僕が聞いたこともないような世界が広がっていた。重力によって時間の進み方が変わったり、進む速さで物が伸びたり縮んだり、無限大に重く小さいブラックホールという特異点が存在したり、無重力というものを体験してみたかったり…

まさに、もう一つの世界を目の当たりにした瞬間だった。「公文大好き、公文ありがとう」が生まれた瞬間でもあった。

家に帰り、すぐさまお父さんにこの本買ってとお願いしたことは、今でも鮮明に覚えている。それからというと、宇宙の虜となった少年の暴走劇だ。中でも印象的なのが、美術の授業で作った紙粘土の作品、「逆立ちをする宇宙飛行士」。

宇宙飛行士を取り巻くのは、クレーターから生える宇宙キノコに謎の赤い玉、トイ・ストーリーのミスター・ポテトヘッドに似た宇宙人、蛇が好きだったのかコブラが二匹(ゾクッ)。


月の上で初めて逆立ちをした人になる!という野望を込めて作った作品だったが、今考えてみると月で逆立ちってだいぶ簡単だったり。月の重力が地球の6分の1で、水中では体重は約10分の1になるから、まあその真ん中あたりの難易度だ。宇宙服でどれだけ縛られるかは分からないが、アポロ14号の船長、アラン・シェパードは月面でゴルフをしたというのだから、逆立ちに前例があっても驚きはしない。ただ「先人がいたか…」とちょっと悲しむ。

というように、宇宙に想いを馳せる、イマジネーションを膨らませる、宇宙飛行士に自分を重ねてみる、少年の日々は興奮と野望で満ちていた。

「夢は宇宙飛行士です!」

それが少年のキャッチフレーズだった。



青年になった。

高校を卒業後、ブリストル大学に進学し、迷うことなく航空宇宙工学を専攻した。知らない人が多いと思うのでここでちょいと豆知識。イギリスの大学は一年目から専門分野の勉強をするので、大学は3年で卒業できる。大学院はプラス1年の4年だ。衝撃の短縮コースとなっている。自分のやりたいことがはっきりと分かっていて、すぐにでもその職業に就きたいという人にはもってこいですね。

大学で何を学んでいるのかというと、流体力学、熱力学、電気工学、構造工学、材料工学、振動工学、その他諸々あるが、一つがっかりしたのはブリストル大学は宇宙というよりは航空の方に力を入れているということ。エアバスの工場も大学の近くにあり、航空宇宙工学というよりかは航空宇宙工学。それでも、いずれは全て宇宙に繋がると信じ、勉学に励んでいる。

そんなこんなで自分の将来を考えているうちにある異変が起きる。

青年はこんなことを言うようになった。

「宇宙飛行士とまではいかなくても、彼らを飛ばし、管制室で見守るエンジニアになりたいです。」「より効率的、大量運輸可能かつ安価なロケットの設計をしたいです。」「火星移住計画の実現に貢献したいです。」

大人になるのに嫌なことが一つある。現実的になること。「したい・したくない」の軸を「できる・できない」の軸が常に干渉しに入ってくること。少し諦めていたのかな。もちろん上に書いたどれも、自分がとても興味があり成し遂げたい夢たちだ。ただ、それが果たして自分の実現したい夢No.1なのか。

いつからだか宇宙飛行士という夢は、存在は、その自信と野望は、青年から遠のいていった。


昔から興味があった漫画がある。宇宙兄弟だ。なぜ最近まで読んでいなかったのか、自分でも不思議でしょうがない。ispace(2019年7月1日、インターン生として入社。)オフィスの片隅にずらっと置いてあったので、これは読まざるおえないと本能的に手をつけた。

(ispace社からの景色って素敵すぎると思うんです。)

第1巻発行から10年遅れでやっと手に取った宇宙兄弟だったが、その漫画に夢をリマインドされるなんて誰が思っていただろうか。一番の夢を忘れていた自分の姿が、どことなくムッタと重なった。

7月18日現時点で13巻を読破。ムッタがちょうどラストヤングを終え宇宙飛行士に正式に認定された。

これは、僕への挑戦状に違いない。熱が入る。興奮する。まるで掘り起こされたタイムカプセルのように、少年のころの夢が、野望が蘇ってくる。心のカプセルに大事に保管されていた夢は、まだ綺麗なままだった。


今年の8月からは、パデュー大学への留学が決まっているんだ。アポロ11号の船長、50年前人類で初めて月を踏んだニール・アームストロングの母校だ。また一歩、夢に近付く!たくさん見て、吸収して、成長しよう!(小野さんに会いにロサンゼルスにも行こう!そこで色々刺激をもらおう!)



「夢は宇宙飛行士です!」

少年は青年となり、青年は「成人」となって、今もアームストロング宇宙飛行士の背を追っている。


次世代のアポロへの想いとともに、
「星人」となる準備はいいか。



都村 林 保徳 | ブリストル大学 航空宇宙工学科

台湾と日本のハーフ。極端な楽天家、最後に怒ったのは多分6年前。大学ではアルティメットフリスビーのチームに所属、「課外でも流体力学か!」とツッコまれる。趣味はチェス、石松さんと将棋で対戦してみたい。シャワー中は基本歌う。


『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八 』
「宇宙に命はあるのか」はNASAジェット推進研究所勤務の小野雅裕さんが独自の視点で語る、宇宙探査の最前線のノンフィクションです。人類すべてを未来へと運ぶ「イマジネーション」という名の船をお届けします。
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胸躍るエキサイティングな書き下ろしです。

『宇宙メルマガ THE VOYAGE』
NASAジェット推進研究所勤務の小野雅裕さん読者コミュニティが立ち上げた『宇宙メルマガ THE VOYAGE』が創刊1周年を迎えました。
毎号、小野さんをはじめ各方面で研究開発に従事される方々、宇宙ビジネス関係者などにご寄稿頂き、コアな宇宙ファンも唸らせる内容をお届けしています!

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想像してみよう。遠くの世界のことを。
明日もお楽しみに。

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