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うつわペルシュの、つくり手を訪ねて【作手窯】Story2:工房編

「作手窯(つくでがま)」の鈴木健史さんを訪ね、器が生まれた背景や、作品づくりへの想いをお届けする特別インタビュー。

窯出し作品を見学した前回に続き、今回は「Story2:工房編」。

自ら建てたという工房で、陶芸家という生き方について、蹴ろくろを使った作陶についてお話しいただきました。

普段は見ることのできない、ろくろの実演シーンにもご注目!

取材・文:中西沙織  撮影:こんどうみか (ほとりworks

→Story1:展示編はこちら


自然のリズムに沿った、陶芸家の生き方に憧れて

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今年で30歳を迎える健史さん。陶芸家を志したのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。

健史さん:「初めて陶芸というものに触れたのは16歳のころ。学校の授業の、選択科目の一つでした。

そこで知り合った陶芸家の森岡 成好(もりおか しげよし)さんが、山から木を伐り出して、家も作業場も窯もつくって、なんでもできてしまうスペシャルな方だったんです。陶芸の技術も高く、素朴だけど力強さがあって。

自然とともに、いいリズムで生活されているのを見て『これが人間だよね』って。それまで自分の常識にあったような、朝8時くらいに仕事に出て、夜8時くらいに帰ってくる。苦労してローンを組んで家を建てても、そこで過ごす時間はほとんどない。そんな暮らしとはまるで違っていました。

森岡さんとの出会いを通じて、自分も、時間にとらわれることのない仕事がしたいと思うようになったんです」

その言葉を聞いて、今までのお話がとても腑に落ちました。健史さんの陶芸への向き合い方は、「職業としての陶芸家」というより「陶芸家という生き方を選んだ」という表現がしっくりきます。


握ったら形ができる。そのプリミティブさがおもしろい

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健史さん:「実は、最初は陶芸に限ってはいなかったんです。そういう生き方ができるなら、ほかの分野でもいいかなと。

でも、陶芸をやるほどに『握ったらその形になる』というプリミティブなモノづくりのおもしろさを知って。どんどんのめり込んでいきました」

そう言われてみると、木工、鉄、革細工……。モノを加工しようと思ったら、たいてい道具が必要になるものです。それを、陶芸は人間の手だけで形づくることができる。原始的でありながら、同時に、とても奥が深いものと言えそうです。

健史さん:「ほかのモノづくりよりも、その人らしさが出るし、そのときのモチベーションがダイレクトに出るんです。ちょっとした指の角度ひとつで、形が全く違ってしまう。だから、体調の悪いときや気分が乗らないときは無理せずに、窯用の薪を割ったり、釉薬をつくったりしています」


本来の土らしさを大切に、土づくりに時間をかける

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精製前の土。ここに含まれる鉄分や小石などが、味わいとなって作品に表情をもたらします

器づくりの最初の工程となるのが、土づくり。なんと、山に入って原料の土を掘り起こすことから始める(!)というから驚きです。

健史さん:「買おうと思えば、いくらでも安くていいものがあるんです。ただ、買った土というのは、よくも悪くもきれいに精製されていて、コンクリートのように無機質になりやすい。自分は、あえて掘ってきた土を乾燥させて、砕いて、細かくしてから草木や大きい石だけ取り除いて。それを練って使っています。

つくりにくいし、いろいろ問題はあるんですけど、ある程度の雑味や余分な成分があったほうが、本来の土らしさが出る。たまに大きめの石が混ざることもあって、それもまた面白いなと」


蹴(け)ろくろから生まれる、作為のない形

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続いては、展示室から場所を移し、工房の見学へと向かいます。こちらの建物は、山から伐り出した丸太を柱や梁に使い、健史さんの手で建てたもの。高床で、窓を大きくとった室内には、光や風がたっぷりと入り込みます。

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3~4種類をブレンドした土。土ごとに、コシの強さ、耐火度、生地の伸びの良さなどを試し、特性を見極めた上で作品に使用します

この日の気温は、日中でも2℃ほど。土が凍っているため、普段なら作陶は難しいとのことですが、特別に実演していただけることになりました!

健史さんが使うろくろは、珍しい「蹴ろくろ」と呼ばれるタイプ。その名の通り、足で蹴って台を回す、ごくシンプルな構造です。

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土をろくろ台にのせ、足を動かして回転が始まると―。

手の中で、つややかな土がうねるように立ち上り、みるみるうちに形となって現れます。その様子は、まるで地中から湧き出る泉のよう。

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健史さん:「作陶するときは、集中して一気につくる。作為が入らないよう、1~2分に1点のペースでつくります」

聞けば、器を形づくる工程は、全体のわずか3割程度。土づくりがあり、薪の準備や窯の灰掃除があり。健史さんは、そうした工程すべてを「作品づくり」と捉えています。

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型を使わないため、すべて一点モノ。ろくろを回す足の力加減や、指先のわずかな角度が仕上がりを左右します


ろくろ体験のおまけショット。「足と手を同時に動かしながら形をつくるのは、想像以上に難しい!」と佳子さん。

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→Story3:薪窯編に続く

※内容は2022年1月時点の情報です。撮影時のみマスクを外しています

【つくり手Profile】

「作手窯」鈴木健史さん

茨城県出身。高校時代に出会った陶芸家の生き方に憧れ、卒業後は沖縄の工房で経験を積む。その後、愛知県新城市の作手地区に拠点を移し、工房と薪窯は自らの手で造り上げた。足で回す「蹴(け)ろくろ」と、山から採取した土を使って、土の持ち味を生かした作品づくりを追及。「火の神が宿る」と称される薪窯の器は、プロの料理人からも支持を集める。Instagram @tsukudegama



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