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どこでもないところ

FamillyRecord_⑫どこでもないところ_note

ここはどこでもないところ。
地球儀をいくら回したって、見つからない場所。
言葉を持たない子どもが居るところ。
産まれなかったから、天国にも行けなかったし、地獄にも行けなかった。
ここはどこだろう。

リフレインする前奏は、やさしい。
歌うようなギターの音色、秋虫の羽音のように穏やかなベース。
エンディングにふさわしい、かといって1曲目と言われても不思議じゃない、始まりと終わりの同居するあたたかな音たち。

いや、これは終わりの曲だ。
世界旅行は賑やかだった。
彼を巡る、"パパ"の悩ましい旅は、彼を否定する事で解決した。
パーティーは賑やかだったが、意味など燃え尽き、あとには何も残っていない。

「みんなどこかに消えてしまえばいいのにな
願った瞬間にひとり残らず消えた」
消えたのは、"みんな"ではない。
"彼"がこの世界から消えたんだ。
「寝室の扉は閉めて
ぼくは地上で息を無くした潜水士さ」
羊水から上がった彼は、呼吸を一度でも出来たんだろうか?
たぶん、この世界の空気を一度も。

"堕胎をテーマにしている"
どこかのブログで読んだ。
衝撃的だったけど、納得もした。
探したんですが、見つかりませんでした。
何度も読んだから、絶対あるはずなんだけどなぁ。
Family Recordの物語は、堕胎の物語。
これで良いと思う。
めちゃくちゃ悲しいけど。

"子を失う"事の辛さ悲しさやるせなさ、痛み苦しみ絶望、言葉で語れるものではないと思う。
語るべきでもないと思う。
子を失った人、実は何人か知っている。
経験の無い者が、その絶望を、分かち合っていいわけが無い。

『どこでもないところ』が、彼女らを救うための曲というつもりは無い。
救おうとしているわけでもない。
ただ、そこには"産まれなかった子ども"の物語があるだけで。
それは、とても、優しい解釈かなと思う。

天国にもこの世にも、どこにも行けなかった子どもらが、行ける場所。
そこは『どこでもないところ』
子ども達は、笑っているのかな。悲しんでいるのかな。怒っているのかな。
どれでも大丈夫。
そこに、産まれなかった子ども達が存在しているという、おとぎ話が。
誰かを救うかもしれない。
物語はいつだって、人を救うために存在しているのだから。

それを音楽でやるのが、このバンドの凄い所だと思う。
いや、歌詞のライティングが凄いのかな。

「憶えているよ
いちばん楽しいことと悲しいことがあった部屋を
もうどこへも行かない きみは」
楽しそうに口ずさむ歌声と、弾むようなドラムが完璧に合わさったワンフレーズ。
『どこでもないところ』で1番好きな部分です。
音も言葉も楽しそう。
だけど、どこか切ない。

とんでもない歌詞を受け止める力のある、演奏もまたとんでもないと思う。
解釈だとか考察だとか、したくなっちゃうからやっちゃうけど、それを取っ払ってみると、とても自由な曲だなぁと思う。
前奏のフレーズは、何度も何度も繰り返し登場する。
優しいフレーズと、弦を弾くかっこいい音。
使い分けられているのが分かると、"あー、遊んでるんだなぁ"と面白くなる。
後半のドラムも、狂わず打ち出されるリズムに身を任せ、自然と体が揺れる。
きっと、叩いてる方もゆらゆらと揺れながら、楽しんでいるんだろうな。
そのフレーズが、まるで永遠に続くかのようにフェードアウトしていく。
『どこでもないところ』に居る子どもたちも、永遠にそこに存在していくんだろうか。
そんな風な物語を思い浮かべると、"永遠"をギター、ベース、ドラムだけで表現しているのかぁと、自分で思って自分で"ヤバッこのバンド"とビビる。


エピローグは、これにて終了。
つまり、Family Recordの最後のページ。
家族には"なれなかった"彼の記録。
このエピローグは、とても辛い。
受け止めてしまうと、とても辛い。
そのために『JFK空港』で贖罪し、『スルツェイ』で生きる事を赦される。
我々は、どうしたって、『どこでもないところ』の居る彼の物語に共感は出来ないのだ。
だって、我々は、この世界に産まれてしまい、生きているから。
生きているから。


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はい、これにてFamily Record全曲の感想が終了となりました。
丸々3か月、ありがとうございました。

この記事で書くために、羊水について調べたのですが、説明に"プールのような物で、外部の衝撃から守ったり、赤ちゃんが運動して筋肉や骨格を発達させるトレーニング場です"とありました。
(プール……………レテビーチとスルツェイとJFKもっと詰められたじゃん……………)
と、悔しい思いです。

演奏についても、変拍子とか8ビートとか、知識があれば確信を持って書けたのになぁと、悔しく思います。

どうせPeople In The Boxは一生聴き続けると思うんで、何年後かには解釈も感想も変わっているでしょう。
その時、もっと良い言葉で言えるようになっていると良いなー。
(こんな風に、外側に発信するかは別として。)

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見つからなかったブログの代わりに見つけたインタビューです。
『笛吹き男』用に読んでたんですが、音楽と物語についての話で、面白かったです。
自分が、(無理矢理だとしても)物語を読み解こうとして色々書いてるのが、間違いじゃなかったような気がして、嬉しかったです。