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スタバでガンダムづくり

フリーライターを始めていつからか、”ここでしか書けない”という執筆の場所を見つけた。

それは近所のスターバックスコーヒーである。あまりにありふれすぎている。しかしなぜか、そのすぐ近くにあるコメダ珈琲店ではダメなのだ。

ポイントはスタバというよりも、スタバの中央に鎮座する一枚板の重厚な電源机、(私のなかの)通称「勉強机」にあるようだ。

手のひらいっぱい広げても掴めないほどの厚さ、節のないスベスベとした滑らかな木材の手触り、ミルクティー色の優しい色。大きさはおそらく3m×1.5mほどはあり、そこに向かいあう形で8脚の椅子が並べられている。

朝イチに来店し、お気に入りの奥の壁際席に陣取る。注文したゆずシトラスティーのトールサイズを手に、椅子を引き、腰掛ける。カバンから下原稿とMacBookを取り出す。まあとりあえず、と、机の側面のコンセントに電源を挿す。

そこからが、長い。Macの画面に並んだいくつものタブを代わる代わる眺める。Twitter、Facebook、メールボックス、yahoo!ニュース、ZOZOタウン、チャットワーク… 不思議なもので、刻一刻と移り変わっていくサイトを巡回しているだけで時間はあっという間に経ってしまう。気づけば1時間。

慌てて下原稿を手にガンプラ作りに取り掛かる。と言っても、当然実際にガンプラ作りを始める訳ではない。

敬愛する編集者が言っていた。原稿を書くのは、ガンダム(でもなんでもいいが)のプラモデル作りに似ていると。箱絵という完成図に向けて、取説を見ながら細かなパーツを順番に組み立てていく。ここで言う箱絵とは「どんなことを伝える文章なのか」、取説とは「どこからなにを重点的に組み立てるか」、パーツとは「何を言うか」である。

物書きというと、なんとなく右脳がたくましい人だとイメージされがちだが、必ずしもそうではないと私は思っている。書くということは(特にそれを生業にしている多くの人にとっては)非常に左脳を使うロジカルな行為である。

さて、スタバの勉強机に座った私が黙々とガンプラ作りに勤しんでいるとは誰も気づくまい。

(ああ、ここに必要なパーツがひとつ足りない!さっきどっかで見掛けた指先のパーツはどこ?勢いで組み立てちゃったけど順序が違う!やり直し!やり直し!)

これが原稿作成中の心の声だ。ゾーンに入ってからは早い。ガシャーン、ガシャーン、と頭の中で音がする。みるみるガンダムが組み上がっていく。そしてやがて恍惚の瞬間が訪れる。

完成したガンダムを前にふっと我に返る。時計に目をやると3時間が経過している。勉強机を囲む顔ぶれはガラリと変わっていて、氷が溶けて間延びした味のゆずシトラスティーをズズッと啜り上げる。そして最後に大きく伸びをする。

今日もこの大きな机の上で、ひとつガンダムを作り上げることができたと息をつく。歴代のガンダムをここに並べたら、きっと爽快なんだろうなぁ、それともその歪さに恥ずかしくなるのかなぁ、と想像する。

混み合ってきたスタバの喧騒を背に感じながら、勉強机をひと撫でして別れを告げる。次のガンダム、いつ作りに来られるかな。またお仕事を依頼いただけますように、と祈りを込める。

#明日のライターゼミ

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