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【トロプリ③】決め台詞の功罪と後回しのパラレル


どうも、龍皇ジークフリードです。

 3本目のトロプリ感想記事を書こうとしていたうぷ主をうっかり効果発動のコストに使ってしまったので代わってお伝えいたします。

「あとまわし」のパラレルは「やる気」?

 本作ではプロデューサーが「『<今、一番大事なこと>は何ですか?』 大人になると上手く答えられなくなってしまうそんな不思議な質問です。明日というものを知り、<後まわし>という技を覚えてしまったからでしょうか」と語っているように「いま一番大事なこと」がメインテーマで、その対比として「あとまわし」というワードがあります。
 しかしうぷ主はそういった事前情報をほとんど入れずに見ていたため、「いま一番大事なこと」と「あとまわし」の対比構造に37話まで気が付きませんでした。
 作中で毎回連呼される「やる気パワー」と「あとまわし」の対比構図が作品の根幹だとずっと勘違いしていたわけですね。

テーマとは強引で唐突である?

 ちょっと言い訳させてもらうと、これに気がつけなかったのは作中における「いま一番大事なこと」というワードの使い方があまりにも自然だったからなんじゃないかと言えるんです。
 特定のワードをテーマとして掲げた作品って、そのワードを目立たせようとし過ぎて文脈からズレた場面にも無理矢理つっこんで悪目立ちするのが常だと思ってたんですが、本作では「使う時はきちんと文脈に沿うこと」「使えない時は無理に使わない」の2点を徹底してたんですよね。実際、このワードが多用されるようになるのは中盤以降からという印象があります。
 それと作品でこのワードが使われる時、それが日常パートであれば「いま一番大事なこと」は「1度しかない今を楽しむ」という意味合いになって本作の奔放さを表現していますし、戦闘シーンに関連する時であれば自らを鼓舞する意味に、そして作中最初の使用場面では「人魚なんて見捨てて逃げれば良いのに。人魚と自分だったら自分の方が大事だろう」という敵のセリフに対する返答として登場するんですよね。同じワードでもニュアンスを変えて使っているという点も、テーマを物語に自然に組み込めているということでしょう。

転換する対比関係と「あとまわし」

 「いま一番大事なこと」というワードの裏には「今この機会を逃したら、永遠にタイミングを失うかもしれない」という思いが秘められていたということが37話で明かされたポイントも大きいですね。同じワードを1年間通して使い続けながらも、そのニュアンスが変化する転換点があることで陳腐化を防いでいます。そして「今この機会を逃したら、永遠にタイミングを失うかもしれない」という懸念が本当になってしまったのが「あとまわしの魔女」ということで、この展開は「あとまわし」というワードの強調にもなっているんですね。つまり「いま一番大事なこと」を強調するとともに「あとまわし」も引き立てているから「いま一番大事なこと」というワードが悪目立ちしない訳です。
 そして37話で「いま一番大事なこと」の真意が明かされたように、「あとまわし」の真意が最終盤で明かされるのも見事です。後回しにしていたのはプリキュアとの決着と破壊の遂行であり、それは破壊の魔女としての宿命に抵抗していた証ということで、「あとまわし」は悪ではなかったという転換が起こる訳です。「あとまわしの魔女」はプリキュアとの戦いと破壊を後回しにしましたが、それは逆に言えばプリキュアとの和解と破壊を辞めるという決断を後回しにしていたとも言えます。
 つまり後回しの解消に必要なのは「やる気」ではなく決断する「勇気」だったという訳で、ここでプリキュア達が「いま一番大事なこと」というワードを自分を鼓舞するために使っていたことが効いてくるわけですね。
 つまりトロピカルージュプリキュアにおいて「いま一番大事なこと」というキーワードは単体で存在するものではなく、常に「あとまわし」と表裏一体だったからこそ物語に馴染んだと言えるでしょう。

決め台詞は諸刃の剣

 昨今のエンタメはインターネットでの口コミとは切っても切れない関係にあります。制作陣に「バズりを意識するな」と言う方が難しいでしょう。
 となると求められるのはバズりを誘発しやすいパンチラインやパワーワードです。手っ取り早いのは主人公の決め台詞として出すことで、それを真似して使ってもらおうという皮算用も透けて見えます。
 ですがこの手のワードを文脈に沿わないのに無理に使おうとして悪目立ちする例は枚挙に暇がありませんし、それを避けたとしても陳腐化して飽きられては元も子もないでしょう。
 悪目立ちを防ぐにはカウンターパートとなる要素を用意し、陳腐化を防ぐにはそのワードのニュアンスが変化したり真意が明かされる転換点を作る必要があるわけで、それらは作劇に大きく影響します。つまり決め台詞に物語をまるごと乗っ取られる覚悟が必要だということです。むしろそこまでしてようやくそのワードを作品のテーマにしたと言えます。

 ボーイズトイ番組の関係者の皆様はトロプリ製作陣の爪の垢を煎じてどうぞ。

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