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少女漫画にゴールはない

少女漫画が嫌いだった。

イケメン眼鏡インテリ王子(じゃなくてもいいとは思う)と出会い、仲良くなって好意を抱く。お互いが気持ちを伝えたあと付き合う事になり、めでたしめでたし…が、主なストーリーだと思っていた。

少女漫画のゴールは結ばれるところで、その後はアナザーストーリーとして月刊誌の読み切りに登場するくらい。わざわざ本編に描いて単行本化するものではない。
少女漫画に深く触れてこなかった私の僻見はこうだった。

しかし残念なことに、世に出回っているものは私の少女漫画像をコロコロクルクルと覆すものばかり。ゴールだと思っていた“お付き合いをする”は1巻の序盤も序盤、起承転結でいう承に差し掛かった所で登場してしまう。恋人という関係になるのがゴールじゃないとするならこの漫画たちは一体どこを目指しているのか。スポーツ漫画なら大会に勝つ事を目標に話は進んでいくし、異世界転生ものだったらその国の危機を救って元の世界へ帰って、終わり。海賊王になる!なんてとても明確なゴールがある漫画は読み応えがある。しかし少女漫画は違う。皆目見当もつかないラストに向けて読み続けるのは苦痛で、私が終わりを見届ける事はなかった。

『少女漫画はつまらない』という偏見が取り除かれたのは、私にもようやく少女漫画のヒロインになるタイミングが訪れたから。

好きな人ができたのだ。(今までも人並み程度の恋愛はしてきたけど)

ひょんなことから2人で遊びに行くようになり、共有する時間が増えた。そうすると必然的に「好きかも」と思うようになって「好きかも」が「好きだ」に変わっていき、ひょんなことで付き合うことが出来た。少女漫画によく出てくる“ひょんなこと”が私の人生にもひょんなことにひょんなことしてひょんなことはひょんなことになってしまった。

私が主人公のストーリーはゴールを迎えた。



と、思っていたが残念な事にここから先の方がずっとずっと長い。なるほどこれが「ゴールではない付き合う」なのか。私がやっと終わったと思っていたことは終わってはいないし、むしろスタートラインに立ち始めたところだった。アナザーストーリーだと思っていた日常に、毎日のように当てられるスポットライト。傍から見たらなんの変化もないつまらない展開ばかりだろうが、当人はそのつまらないものに日々必死に向き合っている。

スマホの画面を見つめながら連絡が来るのを待つのも、突然知らない女の人が出てきて根拠のないモヤモヤに襲われる事も、とびきり可愛い自分を必死で作ってデート当日に備える1週間も、よくある少女漫画の1ストーリーで、私が主人公のそれも「よくある話し」をただひたすら繰り返していた。しかしそのどれをとっても欠く事の出来ない毎日だった。こういう場合はどうしたらいいのだろう…と悩んだ時だって、「よくあるあの話しと同じだからどうせすぐ解決するんだよな」なんて余裕ある振りをしながら心の中は不安と恐怖でいっぱいになる。
もしかしたらこの問題が原因で私は主役の座から引きずり下ろされてしまうのではないか。これが最終話でバッドエンドを迎えるのかもしれない。
なんとか解決をしながら続けていられる今だから笑っていられるが、怖さで涙を流した日だってある。まるで少女漫画のように。




私は今どこにいるのだろう。どこに向かっているのだろう。というか私はどこに行きたいんだっけ?
“結”を自分で作らなければならない少女漫画は難しい。漫画はフィクションで、無理矢理にでも完結させなければならないから、キリのいいところで終わるようになっている。しかし私はそういう訳にはいかない。果てしない物語の、どこを終わりと思うのかは私次第。

「好きな人と付き合ったからゴール」「結婚したから終わり」なんて単純なものなんかじゃない。日々移りゆく人の心を、何とかして変わらないでと願う。滑稽だが可愛らしい毎日を繰り返しながら、理想の明日を描き続けるのが少女漫画なのかもしれない。


「彼が好きだ。」その気持ちのままこの物語も納得できるハッピーエンドを迎えたい。




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