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『愛情生活』

知人からアラーキーこと荒木経惟さんの奥さん・陽子さんが書いたエッセイ『愛情生活』を貰う。他人なのに、あるいは他人だから許されたり、許されなかったりする夫婦の関係性に面白さと、少々の羨ましさを感じる。内容は濃密で赤裸々だけど、文章はさくさくと読めて軽快(気になるひとは貸すので声かけてください)。
 
ところで、ふたりが長年暮らした豪徳寺のマンションはわたしの実家の目と鼻の先にある。豪徳寺の周辺は一軒家の低層建築が多く、そんな中でそのマンションは頭一つ飛び出ていて、飛び出た外壁全体には縦横無尽にツタが絡まり、築年数が古いことも相まってゴーストマンションのような異様な存在感を醸し出していた(豪徳寺を根城にするたくさんのカラスもゴースト感に一役買っていた)。わりと幼い時期からこのマンションにはアラーキーと呼ばれる有名な写真家が住んでいる、という認識があったわたしは、有名人なのにボロい家に住んでるなぁと思う一方で、それが逆に芸術家らしさをたらしめているようにも思っていた。
 
陽子さんとの思い出がいっぱいつまったマンションを離れられるわけがない。陽子さんは42歳という若さで早逝してしまう。歳は7つ離れていて、順番通りだったら陽子さんが荒木さんを見送っていたはず。ふたりとも、そのつもりだったはず。使い古された言葉だけど、神様は本当にひどい意地悪だよね。
 
この文章を書くにあたってネットで「アラーキー 豪徳寺 マンション」を検索した。ゴーストマンションの本名は「ウインザーハイム豪徳寺」ということを知り、そして驚いたことにそのマンションはたったの5階建てだった。わたしの記憶だと10階建てぐらいの威圧感があったのだけど、記憶なんてあてにならない。マンションは数年前に取り壊された。陽子さん、チロちゃん(愛猫)、そして住まいをも見送った荒木さんはどんな気持ちだったのかな、と、跡地に建った立派なマンションを眺めながら思う。愛犬が足元で草を嗅いでいる。

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