「逆転的」コンセプトの持つ魅力と破壊性


とある研究によれば、私達が物事を判断する際の情報能力の割合は「視覚(目)87.0%、聴覚(耳)7.0%、嗅覚(鼻)3.5%、触覚(皮膚)1.5%、味覚(舌)1.0%」となってるそう。

とすると、私達が「何を食べたのか」「何を触っているのか」なんていう感覚についても、視覚からの情報が大きいということなんですね。


では、視覚が一切なくなってしまった世界では、私達はどのような感覚に従って「今何を食べているのか」「今誰と話しているのか」「誰の隣に座っているのか」などの判断を下すのでしょうか。

そんな奇妙な質問に自分の体験をもって答えが出せるレストランがロンドンにあるそうです。


『Dans le Noir?』

30-31 Clerkenwell Green EC1R 0DU – London

このレストランでは携帯などの光を発するものはすべて持ち込めません。一切の視覚を失い、真っ暗な中で食事をするという、新しい体験ができるお店です。このレストランは「社会的」「個人的」「逆転的」という3つのコンセプトからなっているそう。

社会的というコンセプトは「暗闇の中に座っている人は皆同じだ」との考えからきています。隣に座っているのは自分が嫌いな人なのか、有名人なのか、あるいは普段は絶対に話しかけない人なのか。暗闇の中で知る方法はありません。また、携帯電話の使用は禁じられており、テーブルに座って携帯電話を見てばかりということはできません。 
個人的というコンセプトは「視覚を使わずに食べることによって、人々はそれぞれのユニークな体験ができる」との意味があります。
3番目、そして私にとって最も重要なのは、逆転的というコンセプト。日常生活では、体の不自由の人を助けるのが当然です。しかし、「Dans le Noir?」では、スタッフメンバーの半分は目が不自由な人で、お客さんは目が見えないウェイターやバーテンに案内されるのです。案内してもらいながらスタッフの人と話すことができ、みんな素晴らしい方だと感じました。彼らがいなければ、私達は暗闇の中で迷子になっていたに違いないでしょう。

(Compathy magazine 記事より)


この「逆転的」というコンセプト。

目の不自由な方々が普段ハンディキャップとして抱えている側面を「価値」として考え、逆転的に貴重な体験を提供している点が面白いですよね。

私達は普段からすべてが視覚で捉えられる世界に生きている。

だからこそ、彼らの生きる「見えない」世界で得る体験は貴重であり、価値があるのではないでしょうか。

この逆転的というコンセプトを聞いて2つの類似例を思い出しました。


一つは、東京・六本木で期間限定オープンしていた「注文をまちがえる料理店」

ウエイターがすべて、「認知症」を抱える人という、ちょっと不思議なコンセプトのレストランです。

このレストランでは、お客さんが既存のお店で受けるマニュアルに忠実な無断1つない”洗練”された”サービスはありません。

しかし、「想像するものとは違う」モノとの出会い、「間違いを楽しむ」そんな新しい体験をすることができます。

詳しいレポートはこちらから:注文を「忘れる」料理店 ふしぎなお店が目指すものは(市川衛 2017/6/4)


このケースでも、普段私達がレストランやホテルで期待するようなサービスとの真逆性を追求することによる「逆転的」価値を提供していますよね。



2つ目は、耳で聴かない音楽会 落合陽一×日本フィル プロジェクトです。

この音楽会は題名の通り、耳では聞きません。その代わり、「映像」と「振動」によって音楽を楽しむという「変態する音楽会」だそうです。

「映像」とは、会場に設置された巨大スクリーンに投影される映像のことで、指揮者の動きによって変化します。

「振動」とは、小さなデバイス「Ontenna」を髪や服に留め、ほどよい硬さの白い球体「SOUND HUG」を抱えると、それらのデバイスを通し、楽曲にあわせて振動を体験することができます。

聴覚だけでなく視覚や触覚をフルに動員して聴き入ったオーケストラ。サン=サーンス「交響詩《死の舞踏》」では、曲が自分のイメージと合致していたことに密かな喜びを覚えます。

(引用:「耳の聞こえない私が、落合陽一さんの「変態する音楽会」で見た未来」より)


この事例でも、普段「音楽とは耳で聞くモノだ」という先入観の「逆転性」を利用した新しい価値体験の提供だと思います。

もちろん、耳の不自由な方々と一緒に音楽を楽しめるという側面と共に、普段から当たり前に音楽を聞いてるような人々こそ、新しい自分の感覚値や自分の価値観に気づきをもたらす貴重な体験として価値を感じられるのではないでしょうか。



発想の「逆転性」が持つこれらの魅力とその破壊性。

普段違う世界に生きていると思われがちな境目を「破壊」し

当たり前の世界に住む人々にあたりまえを「破壊」する

体験をもたらすこの「逆転性」という魅力。


いつか、自分が誰かに「逆転性」の魅力と破壊力をもたらすことができたら。


Cheers,


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