見出し画像

サウナに行った。

私はサウナーではない。サウナに行き慣れていないし、好きかどうか判断できるほども行っていない。銭湯や温泉には惹かれるけど、それは開放感のある広いお風呂が好きだから。サウナを理由に施設が激混みしたり、利用料が倍になるなら、お風呂だけ利用できればいいや。そんなふうに思うタイプである。

それでも、流行っているものは気になるし理解したい気持ちはある。みんながこんなに良いと言うのだから、サウナとは、きっと本当に良いものなんだろう。私も「ととのった」って言いたいし、ととのうって言葉を使いこなしたい。

私がこれまでサウナに行ったのは二度だけ。1回目は2年ほど前、近所にサウナで有名な銭湯があると知ったことがきっかけだった。コロナ真っ只中なこともあって、混んではいなかった。でも、落ち着いて味わったり楽しむには至らなかった。分からないことが多すぎた。私は目が悪くてメガネが手放せないので、そもそも裸眼で大浴場(滑りやすい)、さらにはサウナ(薄暗い)となると不安が強かった。

サウナを利用するお作法的なこともよく分からなかった。壁の張り紙の文字もほぼ見えない。ビート板みたいなやつはなんだろう。タオルって持って入っていいのかな。サウナ室の中には何人くらい入っていいんだろう。中に入ってからも、変な振る舞いをしていないか、無意識に周りに迷惑をかけていないかなど、いろんなことが気になってずっとそわそわしていた。サウナを出たら水風呂に入る認識はあったけど、なんのために入るのか、どれくらい浸かれば十分かは分からなかった。

銭湯を出た後は、気持ちがスカッとしたし体もポカポカした。でも、サウナ効果なのかは分からなかった。広いお風呂に入れるだけでも十分に満足できる。そもそもサウナの恩恵を受けられるような入り方ができていたのか? ととのったとは言えないと思った。もっと下調べして行くべきだったかな。そこまでしないと楽しめないのかな。事前に利用方法を分かっている人しか楽しめないような施設ってどうなんだろう。いろんな考えが巡りすぎた。結局はサウナを楽しんだとかととのったとかよりも、「有名な銭湯に行った」ことに満足していた。

ただ、2回目のサウナ体験はぜんぜん違った。気心知れた相手とプライベートサウナを利用した。人目を気にせず、時間も気にせず、好きな時にサウナに入って多少会話をして、熱くなったら水風呂に行って、最後はベットでゴロゴロ。それを気持ちの赴くままに繰り返した。

いろいろ教えてもらえたのもよかった。サウナのお作法から水風呂の入り方からトリビア的なことまで、押し付けがましくなく話してもらった。私も気兼ねなくいろいろと聞けた。小っ恥ずかしいと思っていたサウナハットも被ったし、水風呂も肩まで浸かった。気持ち良いと思えた。たぶんととのった。また行きたいという気持ちにもなった。

でもこれは、個室サウナだったこととパートナーの存在が大きい。だから、サウナが好きになったというより、あの施設が好きになったわけで、一人で行って楽しめるかは別だと思った。ただ、特に予定も無くとった有休に「せっかくだしサウナ行ってみるか」と発想する程度には、良い体験だった。また行きたいと思った気持ちは、あの日限りではなかったようだ。


ということで、本日有休、一人でサウナに行った。


雨が降るし肌寒いし駅から少し遠かったけど、お目当ての改良湯に向かった。「ととのいに行くぞ」というより「寒いしあったまりた~い」が強かった。いや、それよりも緊張が勝っていた。テレビで紹介されているのを見たこともある有名銭湯。渋谷という普段あまり行かない街。恵比寿にもほとんど行かない私。

平日の昼過ぎでも、人は(私からすると)まあまあ入っていて、全員サウナ慣れしているように見えた。私だけが完全にアウェイな気がしてくる。

券売機にいっぱいボタンがあった。購入を待つ人もいたので、一つ一つをじっくり読むことはせず、入浴+サウナを押した。脱衣場にもまあまあ人がいて、また緊張。緊張しすぎて、マスクをつけたまま大浴場に向かってしまった。大浴場に入ってからもなんだか心もとなくて、「フェイスタオル買えばよかったな……」とずっと思っていた。バスタオルだけでなくフェイスタオルも渡されていたのに。それに気付かないくらい緊張していた。

体を流して、まずはお風呂へ。人が少ない方に入った。ぬるい。熱々のお湯が好きな私は物足りず、3分もたたずに隣の泡が出ているお風呂へ。段差に気付かず転びそうになった。こわい…。誰が見ているわけでもないのに恥ずかしい気持ちになった。帰りたい…。でも、力強い泡が気持ちよくて、お湯の温度もこちらはやや高めで心地よかった。しばらくブクブクされた。気持ちいいな。これ、サウナ入らずにここにずっと居てもいかも……この気持ちよさなら、サウナに入らなくても十分満足できる…

なんて気持ちを押し込める。せっかく来たんだから。気持ちを奮い立たせていざサウナ……の前に、めっちゃ入念に注意書きのポップを読む。文字が飛んでいて分からない部分もあったけど、マット敷けってことだと理解。マットをつかんでドキドキしながら扉を開けると、なかには先客が4人。空いてるスペースに腰をおろした。熱い。当たり前に熱い。当たり前に熱いけど、前回のプライベートサウナほどではないかも。あの時は、めっちゃタオルを回したりロウリュ?もしていた。あの時ほど熱風に包まれている感覚はない。熱い。熱いけど、いける。いけるぞ。心に余裕が生まれると、今度は周りが気になってくる。私ちゃんと振る舞えてるかな……? 全員サウナハットしてるな。私は持ってないから被りようがないけど、頭とか髪ではなく耳の熱さが気になる。

何分経ったかわからない。熱いな。サウナを出たら水風呂。汗を流してから水風呂へって壁に書いてあったな。使ったマットは持って出るんだよな。もうちょっと居るか。まだ居れるな。まだ居れるけど、目の前に人が座ったら移動しづらくなるから今のうちに出るか……それにしても、私の脳内うるさいな。雑念がすごい。

何分くらい居たのかぜんぜん分からないけど、サウナ室を出て汗を流して水風呂へ。ゆっくり肩まで浸かる。前回、パートナーが氷を入れて冷やしまくっていた水風呂ほどは冷たくない気がする。浸かっていられるな。でも、次の人が来そうで落ち着かない。誰も肩まで浸かってないし…。水風呂出たらどうしたらいいんだっけ。前回みたいにベッドにごろんじゃないし……と思いながら立ち上がる。体が冷たい。寒くは無いけど体の表面が冷たい。椅子にサウナマットを敷いてぼーっとしてる人がいる。空いている椅子もある。私もそこに座ろう。

腰を下ろす。気持ちもちょっと落ち着く。薄目で大浴場を見るともなく眺める。さっきまで「お風呂だけで満足」なんて思ってたくせに、なんだかんだサウナ入ったじゃん。ちゃんと入ってえらいじゃん。今日の目的を果たしてえらい。水風呂も入れてえらい。肩まで浸かってえらい。ちゃんと体休ませてえらい。えらい。えらいんだけど……

やっぱりなんかそわそわするんだよな。目が見えづらくて怖いのもあるし、変な振る舞いをしてないか気になるのもある。こうやって腰を落ち着けているのに、この場に馴染んでない。「私の居場所じゃない感」が強いんだよな。自分だけこの場を、サウナを、楽しめていない気がしてしまう。自分だけととのってない。そもそもととのった経験がない。こうやって、せっかく有休を利用してサウナにきたのに、周りの目を気にしてずっとごちゃごちゃ考えてばかりいる……馬鹿だな。時間とお金を使って、精神力削りにきてる。こんなに周りのこと気にしてるの私だけだろうな。みんな「ここが私の居場所」って顔で、思い思いに楽しんでいる…。

なんて一人で孤独を感じていたら、少しずつ眠くなってきた。ととのってるのかな……いや、単に疲れてるだけか。眠いな。前回は水風呂の後、けっこうゴロゴロしてたな……

眠気がきたせいか、ごちゃついた思考が減速していく。気持ちも落ち着いてきた。というより、細かいことがどうでもよくなってきた。気だるいような、まったりしているような気分。

スッと目を閉じる。お湯の音が遠くから、近くから、聞こえてくる。心地良い。かも。ふと気付いたことがある。気分は落ち着いてきたのに、脈拍はまあまあ早い。運動したあとみたいにドッドッドッと力強い拍動を感じる。えー不思議。こんなに脈拍早いのに、私の気持ちは凪いでるって不思議。こんなチグハグなことある? たぶんサウナでしか味わえない経験だ。不思議……


なんか、ちょっと楽しいな。


ここに来て初めて、楽しいなって思った。自分でもびっくりした。初めて一人でサウナに行った時「ととのった」とは到底思えなかったし、「ととのうって分かんないや」と言うことすら恥ずかしい気がしていた。でも、今ならなんの躊躇いもなく言える。


私ととのってる。


脈拍も落ち着き、そろそろお湯に浸かろ~と立ち上がった時、また発見があった。体、特に頭が重い。ずーんと、めっちゃ重い。踏ん張らないとひっくり返りそう……というのは大袈裟だけど、あれ? こんなに頭重いって何事? 私まだ通常運転じゃなかった。そんな感覚も楽しくなってしまう。最初にぬるいと感じた炭酸泉に浸かってみると、ポカポカしている体にちょうど良かった。そっかそっか、そういうことか~と妙に納得してしまった。

これもう一周できるな。…いや、でも、さっきの「気持ちは落ち着いているのに脈拍は早い」は、もう味わえないかもしれない。初回限定だったのかもしれない。もしくは、私の思い込みで2度目は無いかもしれない。別の感覚で上書きされてしまうかもしれない。だったら欲張ったりせず、いい気持ちのまま、今日のサウナ体験を終えた方が懸命じゃないか。このまま終えれば、「ととのった~!」で終われるじゃないか。そもそも、サウナーでもサウナに行き慣れているわけでもない私がもう1周するなんて……




と、ごちゃごちゃ考えた結果、2回目も最高に気持ちよかったです!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?