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「ADFEST 2024 視察レポート」後編。ADEFST 2024での学びを活かし、日本のクリエイターが心がけるべきこと

ピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)は今年もADFESTの視察に行き、帰国後には視察レポートイベントを実施。

noteでは本イベントでのレポート内容を前後編の2回に分けてまとめていきます。前編では、ADEFST 2024の特徴や傾向、また作品やジュリーの方々の言葉をもとに、クリエイティブ業界はAIにどう向き合うべきか? についてお届けしていきました。

後編では、ADEFST 2024での学びを普段の業務にどう活かせばいいのか? 日本のクリエイターとして心がけるべきことをお届けしていきます。


WHAT TO DO

ADFESTならではの学び

クリエイティブ業界にいる私たちはADFEST 2024での学びをどのように普段の業務に活かしていけば良いのでしょうか。まず、そもそもADFESTがどういった想いで立ち上げられたのかを知るため、ADFESTチェアマンの言葉を見てみましょう。

広告祭、特にCannes Lionsなどを見れば見るほど、どうしても勝ちパターンや方程式を見つけ出し、攻略しようとしがちです。しかし、そもそもそれらは各文化圏における成功事例であり、必ずしも自国に移植できるとは限りません。去年のCannes Lionsでは、「これは自国でも真似できそう」という着眼点がジュリーの評価軸の1つにありましたが、ADFESTは逆に土着の文化を大事にするのです。
では、ADFESTに集まる作品をどう捉えれば各国の文化が分かるのかを分析していきます。

近い文化と遠い文化

同じアジア圏でも文化の幅は広いです。それがわかる画像が『宗教の凋落? 100か国・40年間の世界価値観調査から』(ロナルド・イングルハート氏著)の中にありました。

これは、本の中で掲載されている「カルチュラルマップ」というものです。
宗教や経済発展の度合いによって、国の場所に限らない文化的クラスターができるそうで、縦軸は「理性的価値観寄りの国か」「伝統的価値観寄りの国か」、横軸は「生存価値が大事か」「自己表現価値が大事か」を示しています。

アジアの国をピックアップしてみると、このマップの中で、特に左半分の縦軸に広く点在していることが分かります。特にその中でも、私たちのいる日本は、横軸においても他と遠く離れている異様な位置にあることが分かります。
縦軸も横軸も日本から一番距離がある国は、インドネシアやバングラデシュ。

同じアジア圏にあっても、この二国は文化的には日本からかなり遠いことになります。では、インドネシアとバングラデシュの作品を見てみましょう。

「FISH ALLURING PAINTING」(インドネシア)

課題となっているのが生活(生存)のかかった漁師の貧困。これは先ほどの「カルチュラルマップ」の横軸「生存価値」です。
解決方法は蓄光インクではありますが、描かれたイラストは神話の神。これは縦軸の「伝統的(宗教的)価値」です。

「THE UNWRITTEN STORIES」(バングラデシュ)

課題となっているのが読み書きができない、教育を満足に受けられていない人たち(生存)。インドネシアと同じく、横軸の「生存価値」にあたります。
解決方法は文化として守る必要のある、彼らの口伝の(土着)物語。これも同様に、縦軸の「伝統的(宗教的)価値」です。

一方で、日本と地理的には一番近い韓国はどうでしょう?

文化的な距離でも縦軸は近いですが、実は横軸はすこし遠く、韓国の方が「生存価値」を大切にしていることが分かります。では、韓国の作品も見てみましょう。

「DRUG TEST POSTER」(韓国)

課題はかなり悪い治安(生存)。これは横軸の「生存価値」です。
解決方法はテクニカルなピールオフ広告。これは縦軸の「非宗教的・理性的価値」で日本と近いです。
そのため、課題にはリアリティがないかもしれませんが、リトマス試験紙的な要素を仕込んだ広告を個人が使える便利ツールにする点は転用できそうです。例えば、花粉症の飛散具合を可視化する広告で、その度合いに合わせて何かを販売促進する、といったアイデアなどが考えられます。

このように事例を見る際は、その国の文化が日本とどういう位置関係にあるのかを意識することで、アイデアの良し悪しとは別に、参考にすべき部分とそうでない部分が明確になります。性質を見定めて、有意義なサンプリングを心がけていきましょう。
ただ、文化圏が違っても、同じiPhoneを使っている国も多いわけで、全てが参考にならないとは言い切れないため、その点はご留意ください。

参考になった作品

最後に、実際に弊社が携わらせていただいたお仕事にシンパシーを感じた作品もご紹介します。
まずは弊社が携わらせていただいたお仕事の紹介から。

VISIONGRAM

視覚障がい者の目の見え方は、障がいの程度や種類によって一人ひとり異なりますが、健常者はその様々な見え方を想像・理解することが困難です。また、視覚障がい者が自分の見え方を言葉で説明することは難しいという問題もあります。

そこで「VISIONGRAM」という、視覚障がい者の目の見え方を可視化するツールを電通が開発しました。
ウェブサイト上で入力した障がい者本人の視力の数値や検査データをもとに視界をドットデザインに変換し、それぞれの「視力」「視野」「色覚」を、ドットの数・密度・色の違いで再現した独自のデジタルフィルターを生成。スマートフォンやPCのカメラを通じて、誰もが視覚障害の見え方を体験できると同時に、視覚障がい者本人も、自身の見え方をより簡単に伝えることができるようになりました。

これと同様に、視覚障がいをテーマにした作品がありました。

「EATQUAL COLOURS」

正しく見えていない色をディスプレイ表示のみで見えるようにする技術が簡単に使えるのであれば、再現性も高く、また違った場所でも使えそうです。

今度は、弊社の自社開発作品を紹介します。

きょう、この夢を抱いて眠る

「きょう、この夢を抱いて眠る」は、AI技術によって、10の質問とユーザー(体験者)が提示した1枚の画像を基に、“あなたが今日見るかもしれない夢”を生成する体験コンテンツです
2023アジアデジタルアート大賞展FUKUOKA「一般カテゴリー / インタラクティブアート部門 入賞」にも選出されましたが、まだエンタメの域を超えることができていませんでした。

これと同様に、夢と生成AIを絡めた作品がありました。

「DREAMS DECODED」

夢の生成AI画像化で人々の興味を惹くことで、睡眠環境と見た夢の情報を組み合わせたデータを収集し、自社商品の販売促進に繋げており、さらに一段ビジネスに近いレベルに引き上げられています。

後編のまとめ

最後に、今回のレポートの学びにおけるまとめです。ADFEST 2024グランドジュリーのマルコム・ポイントン氏の言葉に共感できる点が多かったため引用します。

この言葉から、クリエイター一人ひとりが「自分自身が正しいと思うことを信じる自信」が大切であると言えます。AIや国はあくまで条件であり、外的なものです。流行りだからといって最新テクノロジーを使うことも、文化圏の違う国の成功パターンをトレースすることも、自信には繋がりません。自分自身の視点で課題や顧客に向き合い、自分なりの正解だと自信を持って言える哲学や倫理観を磨くこと。それが私たちクリエイターにとって最も大切なことなのです。

ここまでADFEST 2024の視察レポートをお届けしてきましたが、皆さまにも日々の業務に活かせる学びを見つけていただくことはできたでしょうか?

今回のレポートで、「クアドラが気になった!」と思ってくださった方々。「もう少しお仕事の話が聞きたい」「アワードに一緒に挑みたい」という方も、ぜひお声がけいただけますと幸いです。

また、本レポートの録画データは以下からご視聴いただけます。こちらもぜひご覧いただけますと幸いです!

(この記事の内容は2024年4月16日時点での情報です)


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