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腎機能が低下したら、フロセミドは中止すべき?継続しててもよい?

 臨床では、腎機能が低下したらフロセミドは中止することが多いように感じる。
 次のような症例を経験した。

 「腎機能が低下したから」ということで、フロセミド20mg/dayが中止となった75歳男性。
 心不全があり、ずっとフロセミド20mgとアゾセミド15mg/dayを飲んでた。その他ワーファリンなど多数。
 数年前から腎機能が低下し始め、2年くらい前からeGFRは30mL/min/1.73m2前後を推移しており、大きな変動はない。
 フロセミド中止してから2ヶ月、呼吸がおかしい言うことで再診、左心不全悪化(BNP:270 ⇒ 430へ上昇)との診断で、フロセミド30mg/dayが処方されることとなった。

 腎機能低下症例へのループ利尿薬をためらう傾向があるのは、体内水分量減少 ⇒ 腎血流量減少 ⇒ さらなる腎機能悪化つながる可能性があるから・・・?
 いや、でも、利尿薬で尿量が増えると言うことは、腎に流れ込む血液量が増えると言うことでは?
 ・・・ってことで色々探ってみる。

 まずは「エビデンスに基づくCKDガイドライン2018」より

 CKDにループ利尿薬は有用であるが、やはり腎機能低下や低K血症への十分な注意が必要である。
 (中略)
 CKD患者ではNSAIDsとループ利尿薬の併用によりAKIを発症する報告がある。

 次に「第55回日本腎臓学会学術総会モーニングセミナー」で使われた「利尿薬を正しく使いこなそう 腎疾患における処方の基本」より

 心不全にフロセミドを使うと尿量を増加させることができますが、GFRが20%以上減るというデメリットを抱えており・・・
 (中略)
 AKIにおいてフロセミドを使用すると院内死亡は65%、腎機能の喪失も70%増加するという報告・・・

 日本腎臓病薬物療法学会が編集の「腎機能別薬剤投与量POCKET BOOK」では

 腎排泄性であり、血清濃度が50μg/mL以上で聴覚障害が起こる可能性があるため、10mg/kgを超えないようにする。
 腎機能不全等の場合には1日80mg以上用いることもある。

 jinzou.netの腎臓病診療の最先端VOL.32より

 糖尿病性腎症などのCKDは、ネフローゼ症候群に治療は準じ、ループ利尿薬が第一選択。
 (中略)
 AKIにおいて利尿薬を用いることが予後の改善にはつながらないというRCTの結果はあるが、溢水(いっすい)の改善に可能性があれば躊躇すべきではないだろう。まずは充分量のフロセミドの効果を判定することが必要で・・・

 以下は「CKD診療ガイド 高血圧編」より

 CKDにおける高血圧治療の進め方として、第1選択薬はRA系抑制薬で、第二選択薬として利尿薬を用いる場合、腎機能正常者ではチアジド系、GFRが30mL/min/1.73m2未満(sCrが2.0mg/dL以上)ではループ利尿薬を用いる

という旨の記載がある。

 これらを総評すると、CKDだからという理由でフロセミドの使用を控えるのは必ずしも正しくはないようだ。
 AKIなど急激な腎機能低下があれば減量して様子を見る必要はありそうだが、Jinzou.netではAKIであっても充分量のフロセミド使用も視野に入れているようで、一定の見解はない様子。

 臨床では、フロセミドを投与したりやめたりして、調節投与してる例もある。
 直接的に腎機能がどうこうではなく、利尿による脱水で腎機能が低下するのを防ぐ目的でフロセミドと中止してるのではないかとの意見も一部の薬剤師から得られた。
 また、病院等では、長時間型のアゾセミドは継続的に投与してるが、短時間型のフロセミドは「緊急時投与」のイメージがあるので、検査値や体調によって調節服用するのがフロセミドの使い方ではないかと。

 フロセミドを投与してる際は、「脱水」に注意!
 視点はそこかもしれない。

 ちなみに、ループ利尿薬による尿量増加 = 腎臓に流れ込む血液量増加にはならない!
 なぜなら、ループ利尿薬の作用点は文字通りヘンレループだから。
 糸球体濾過を受けたあとの経路で作用するから。

 つまり、やはりループ利尿薬を使えば体内水分量が減るから、脱水傾向になり、腎血流量は減る傾向になる。

仕事より趣味を重視しがちな薬局薬剤師です。薬物動態学や製剤学など薬剤師ならではの視点を如何にして医療現場で生かすか、薬剤師という職業の利用価値をどう社会に周知できるかを模索してます。日経DIクイズへの投稿や、「鹿児島腎と薬剤研究会」等で活動しています。