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「Trade Mindfully」を読む(6)第5章その1

Chapter 5
The Traders' Psychological Edge Lies in a Different Kind of Thinking
トレーダーの心理的エッジは全く違う考え方に存する

トレードが難しいのは
私たちの心、生物学、さらには遺伝子が
トレードに適していないから
むしろ逆らう傾向がある

感情を排除すべきだという考えは
問題を悪化させることのほう多い
感情や思考を意志の力で排除することはできないから

唯一の解決策は
いままでとは異なる方法でアプローチすること

ヒューリスティックと認知バイアス
人の心は極力ショートカットしようとする
その結果 認知バイアスに陥る

トレードのミスは
意識的な判断や感情の結果でなく
その時点で正しいと思い込んでいる判断や選択よる

日常生活ではうまく機能しているヒューリスティックが
トレードにおいては全く機能しないことに重大な問題がある

「直観的思考」と「熟慮的思考」
日常生活は 「直観的思考」で十分事足りる
トレードには 「熟慮的思考」が不可欠

だが 「熟慮的思考」は とっても怠け者でめんどくさがり屋
少しくらい間違っていても「直観的思考」に任せて
自分は仕事をしないでおこうとする

「熟慮的思考」を召喚し
常にフル稼働させるためには
相当の修練を積む必要がある

遺伝子と生物学的本能
外敵から身を守り 危険を避けるために
何千年ものあいだつちかわれた生き残りのメカニズムは
トレードでは役に立たない むしろ裏目に出る

遺伝子にプログラミングされている戦闘本能や逃走反応が
日常のトレードで生じる脅威や危険や恐怖に対して無意識に発動

持っているものを大切に保持して手放さない
損失は本能的に避けなければならない
こうした考えは 何千年ものあいだ
飢えから身を守り 食糧確保のために身つけた生きる知恵
しかし トレードにおいては妨げとなる

感情
恐れ、怒り、興奮、退屈、悲しみなど激しい感情は
トレードにおいて過ちのもととなる

激しい感情は EQをそこなわせ
トレードを見失わせる

しかし 激しい感情を抑え込んだりコントロールしようとすれば
トレードにはもっと悪影響をおよぼす可能性が大きい

激しい感情 特に恐怖の感情は
扁桃体と海馬を活性化し
ひとたび活性化すると制御不能となる

回避行動 Avoidance
Our thoughts, emotions, and bodily sensations will always play into our trading. Most traders generally experience their emotions most prominently and, perhaps to a slightly lesser extent, bodily sensations while trading. Because this experience can be uncomfortable and unpleasant, our instinct is to avoid or escape it. Avoidance and escape are natural and they work well in many day‐to‐day situations. But like many things in trading psychology, what is natural may not always be in the trader’s best interest. Avoidance of unpleasant emotions almost always works against our trading.
私たちの思考、感情、身体感覚は、常に私たちのトレーディングに関与している。多くのトレーダーは一般的に、トレーディング中に自分の感情を最も顕著に経験し、身体的感覚も、おそらく少し劣るかもしれないが経験する。このような経験は不快で不愉快なものであるため、私たちの本能はそれを避けたり、逃げたりしようとする。回避や逃避は自然なことであり、日常の多くの場面でうまく機能する。しかし、トレーディング心理学の多くの事柄がそうであるように、自然なことが必ずしもトレーダーの最善の利益になるとは限らない。不快な感情を避けることは、ほとんどの場合、トレーディングに不利に働く。

キャンディーがほしいと子供がぐずる
母親がそれに応じないと 大声で泣き出す
母親はしぶしぶキャンディーを与える
子供は泣き止んで ニコニコ上機嫌
この母親の行動を行動経済学では
「Negative Reinforcement」と呼ぶ

(ケメコ注)
Negative Reinforcement
特定の行動が望ましくない結果を避けるために行われた場合に、その行動が増加する現象。つまり、ある行動が望ましくない結果を避けるために行われると、その行動が強化される。ネガティブ・リインフォースメントは、望ましくない結果を回避するための動機付けを提供し、その結果、その行動が継続される傾向を生む。

In trading, when we take an action to remove, avoid, or escape an unpleasant
internal experience, we are rewarding the action that removes it. This is negative reinforcement. Giving the candy bar to the child (action) ended the child’s tantrum (unpleasant experience). Jumping into an unplanned trade (action) removes the irritating thoughts and feelings of missing out (unpleasant experience). This may not be easy to understand, so let’s walk through an example of cutting a winning trade short in detail as illustrated in Figure 5.1 to see not only the negative reinforcement, but also the  discouraging consequences of such reinforcement.
トレードでは、不快な内的経験を取り除いたり、避けたり、逃げたりするために行動を起こすと、それを取り除く行動に報酬が与えられる。これが負の強化(Negative Reinforcement)である。子供にキャンディバーを与える(行動)ことで、子供の癇癪(不快な経験)は終わった。予定外のトレードに飛びつく(行動)ことで、苛立ちや機会を逃したという感情(不快な経験)が取り除かれる。

  • 明確な根拠があり条件が揃ったのでエントリー

  • 思惑通りに値が進んだ後 少し逆行
    含み益が減少する

  • 過去の負けトレードの記憶や損失回避バイアスにより
    ストレス反応が起こり 不快を感じ始める

  • 不快感は不安に変わり すぐに警戒心や恐怖に発展する
    負けトレードは我慢できない
    せっかくの含み益が損に転じてしまう などと
    心は声高に注意喚起し始める
    キャンディーをねだって泣き叫ぶ子供みたいに
    微益でもいい 負けトレードになる前に手仕舞え と

  • 全集中は 焦りと怖れと不快感に向けられる
    客観的にチャートを分析する能力は完全に失われる
    インジケーターが自分の不安を裏付けるようにしか思えなくなる

  • 期待値 確率 損益比などを思い浮かべる余裕はどこにもない
    なんのためにエントリーしたかもわからなくなっている
    ただただ今のこの不安 恐怖 不快感 ストレスから
    逃れたいとそれだけを強く願う

  • そして ポジションを手仕舞う

  • その途端それまでのストレスは霧消し
    こころが晴れやかになる
    安堵と安心の快感に満たされる
    キャンディーを得てニコニコしている子供みたいに

The trade is not closed because exiting is the right trade management
decision or because this action is in the best interest of the trade. The reason the trader exits the trade has nothing to do with the trade. The trader’s action is done solely to regulate his internal state. This is the crucial point. This is not trading; it’s struggling with emotion.
ポジションを手仕舞ったのは、トレード管理上の正しい判断に従ったわけではない。トレードの最善の利益であるからでもない。手仕舞いの理由は、トレード判断とは全く別の要因でなされている。トレーダーの行動は、嫌な感情をなんとかするためだけに行われている。これはトレードではない。自分の感情をなだめているだけである。

Reinforcement comes as the trader is released from the grip of distress. As soon as the trade has been taken off, the trader begins to relax. The discomfort felt in the body melts away. The mind calms down. Emotions evaporate. The crisis is over. The action of closing the trade is reinforced by the relief. It is negative reinforcement because the action gets rid of an unpleasant experience. The removal of the distress is the reward for cutting the trade. Because the relief is direct and immediate, it is a very powerful reinforcer. Like the mother placating her child, the immediate relief from cutting the trade almost guarantees that when the trader is in a similar stressful situation in the future, he will address it in the same way.
トレーダーが苦悩から解放されたとき、強化(Reinforcement)が行われた。トレードから解放されると同時に、トレーダーはリラックスし始める。身体に感じていた不快感が溶けていく。心が落ち着く。不安は消えてなくなる。危機は去った。決済するという行動は、安堵感によって強化されてしまった。不快な体験が取り除かれるのだから、これは「負の強化」である。苦痛が取り除かれることが、トレードを終了することの報酬である。救済は直接的で即効性があるため、非常に強力な強化剤となる。母親が子供をなだめるように、トレーダーが将来同じようなストレスのかかる状況に陥ったとき、トレードを切ることですぐに安心できるため、同じように対処することがほぼ保証される。

The hippocampus will record and remember that cutting the trade successfully removes distress. Thus, an ineffective trading response pattern gets encoded in the memory center of the brain: feel uncomfortable in a trade → cut the trade → gain relief.
脳(海馬)はトレードを切ることで苦痛が取り除かれたことを記録し、記憶する。こうして、トレードで不快感を感じる→トレードを切る→安心感を得る、という非効果的なトレードのパターンが脳の記憶中枢に刻みこまれる。

The hippocampus—as the brain’s memory center—stores this for future situations. The trader thus trains himself to escape trading discomfort by cutting winning trades short. Because cutting the trade is effective at removing distress and our brain codes it into memory, he is virtually guaranteed to do it again the next time.
脳の記憶センターである海馬は、将来の状況に備えてこれを記憶する。こうしてトレーダーは、勝ちトレードを短く切り上げることで、トレードの不快感から逃れる術を身につける。トレードを切ることは不快感を取り除くのに効果的であり、脳はそれを記憶としてコード化するため、トレーダーは次回以降もそれを行うことが事実上保証されていると言っていい。

(ケメコ注)
利益を伸ばせない問題についての詳例だけど
焦れて飛び乗りエントリーしてしまったり
いわゆるポジポジ病などその他トレードを失敗に終わらせる
衝動的な行動や迂闊な判断や感情の問題は
全部「逃避行動」と「負の強化」で説明できる

勝ためにエントリーしたはずなのに
お金を儲けるためにトレードしているずなのに
利益を積み重ねることが目的のはずなのに
蓋を開けてみれば
自分の感情をなだめるために
嫌な感情から逃れたいために
トレードしているというのが実情

資金管理 トレード管理
期待値 確率論
チャート分析 環境認識
インジケーターやプライスアクション
トレードプランやトレードルール
これに則ってトレードしているつもりなのに
実際には 不安や不快感や恐怖やストレスを
さっさと終わらせて楽になりたいって動機で
エントリーしたり手仕舞いしている

Traders can teach themselves to be poor traders by trading in the service of their emotions and negatively reinforcing erratic trading actions that remove those unwanted internal states.
感情の奴隷となってトレードしたり、嫌な感情を取り去りたくてやってはいけないトレードを「負の強化」して、自分で自分を負けトレーダーへと育て上げているのである。