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#5分で名著 『カレーライスの誕生』 (小菅桂子)

5分で読んだ気になれる、カレー本の要約。
いつだって僕の記憶の根底にあるのは、母乳のように無条件に与えられ、世界と向き合うために必要だったあのニッポンのカレーライス。

SNSやスマートフォンの普及を背景に、いまやリゾーム状に、同時多発的に自己増殖を続ける現代日本のオリジナルカレー達。しかしそのルーツはどこにあるのか。要約してみた。

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概要:**

日本人にとってのカレーは始め、西洋の食べ物であった。近代日本黎明期、世界に出た日本人は異文化の一つとして何らかの形でカレーに出会い、それを記録に残している。

インドからイギリスを経由し上陸し、今や日本の国民食となったカレー。

本書では、じゃがいも・にんじん・玉ねぎが入り、とろみがついているいわゆる「ニッポンのカレーライス」のスタイルがいかに完成したのか、そしてどう独自の発展を遂げたのか。その歴史を6章立てで辿っていく、カレーライス誕生のストーリー。


第1章:カレー美味の秘密

人類は古くからスパイスと付き合い、生活に役立ててきた。西洋人達は、大航海時代には皆狂ったようにスパイスを求めインドを目指した。

カレーがうまい理由。それは、カレーこそがスパイスの複合体だからである。スパイスの役割は大きく臭み消し、香りづけ、色付けの3つに大別することができる。

スパイスをブレンドした香りのオーケストラであるカレー粉を発明したイギリスのC&B社は「東洋の神秘的な方法で製造された」とのみ記し、製法を秘密にしていた。


第2章:カレー伝来の道

インドと日本のカレーは違う。

その大きな理由は、日本のカレーが英国を経由して「カレー粉を使う煮込み料理」として伝わったから。

インド亜大陸のカレーは小麦を使わず、とろみがない。(注:例外はあるけど)しかも宗教、社会慣習、地域性などの要因が絡み合い、家庭によっても多様な料理があり、「カレー」という料理は存在しない。

イギリスにもカレーが浸透しており大人気だが、そもそものカレー粉の始まりはイギリス統治時代ベンガル提督の持ち帰ったマサラを元に、C&B社がカレー粉を調合し女王に献上したことという説が有力である。

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第3章:カレー日本事始

明治初期の料理本『西洋料理指南』にはカエル肉のカレーレシピ、『西洋料理通』には牛肉を使ったレシピが載っているが、いずれも小麦粉でとろみをつけるというインドにはない手法を用いている。更に、基本的に玉ねぎではなく和葱が使われている。

今では浸透している人参・玉ねぎ・じゃがいもの「カレー三種の神器」であるが、これらは始め西洋野菜として外国人の自給自足から始まった。

そこに勢いをつけたのが北海道の開拓であり、その後野菜は一気に普及し、明治44(1911)年にはおなじみの具材となっている。



第4章:カレー繁盛記

日本に普及したカレーは日本的なものを取り込みながら和洋折衷料理として次々により複雑なものへと進化していく。

その流れの延長に即席カレーカレー南蛮がある。

国内初の即席カレーは明治39年(1906)の神田一貫堂、国産初のカレー粉は明治36年(1903)大阪の薬種問屋今村弥から売り出されている。

さらにはカレー南蛮、カレーパンなどが生み出されたのもこの時代である。

それらはカレーに限らず異国の料理を日本人に合うように仕立て直して来た料理人の知恵の結晶なのだ。


第5章:カレー二都物語

平成の調査ではカレーの具として牛肉好きの大阪、豚肉好きの東京という傾向が出ているが、東西の違いは昭和初期のカレー事情からも窺える。

東京では高級志向、本格派の新宿中村屋のカレーが人気を集め、大阪では阪急百貨店の食堂の大衆的カレーが飛ぶように売れた(1日に1万三千食!)。

1930年代になると、国産カレー粉の普及に伴い徐々にカレーが国民食となっていく。

しかし、戦時体制に入るとカレー粉の製造販売は中止され、日本のカレーの歴史は停滞してしまうこととなる。


第6章:カレーの戦後史

戦後になり、まだまだ苦しい生活の中、闇市と米軍の横流しから小麦粉とスパイスを始めから混ぜてあるオリエンタルカレーが発売される。

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追って、昭和25年(1950)になるとお菓子メーカーから固形即席カレールウが発売される。
さらに画期的な商品、ボンカレーは昭和44年(1969)に大塚食品から発売された。元は化学メーカーであった大塚化学が試行錯誤の末に完成させたのである。

やがて日本は高度経済成長を迎えカレー業界はさらに個性化が進み、ついにカレーは宇宙食としてもデビューを果たす。

こうして、カレーはインドをルーツとしてもちながらもまったく違う料理へと変貌を遂げ、日本へ定着していったのである。


感想:

本書を通して「日本カレー史」をざっと俯瞰してみたが、ただの洋食の一つであったはずのカレーがどうしてここまで日本人を魅了し進化を遂げたのか。丁寧に詳細が語られており、参考文献も多数。カレー好きには読んでほしい一冊。

単純なカレーからより複雑なカレーへ、お仕着せのカレーからオリジナルな自分たちのカレーへとどんどん進化していくストーリーは、涙なしには語ることができないし、自己増殖を続けるカレーというものに、何か人智を超えたエネルギー、うねりのようなものを感じる。

昭和初期にはすでに現代における東西カレー観のちがいの基礎にもつながるものが垣間見えるし、宇宙にまで進出した後どんどん日本の家庭の食卓を侵略していくカレー。カレーの快進撃は、とどまるところを知らないのだ。

ともあれ、日本カレーのルーツについて整理されて個人的にはとてもよかった。



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