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セルロースと再生セルロース製品

セルロース素材は木や植物(特に綿花など)から採取できるので、古くから木材や紙に使用されてきた訳ですが、基本的にいずれの加工も、セルロースをほぐして所望の形状にするという方向性のものです。
近代の化学工業の発展により、セルロースは溶かせるようになり、その上さらに、様々な化学修飾を施し、これまで以上に多彩な性質の高分子素材として活用できるようになりました。
今回は、セルロースの利用方法を拡大してきた素材開発の手法について触れたいと思います。

セルロースをどうやって溶かすか

セルロースが溶媒に溶けない理由はこちらで触れました。

要は、ヒドロキシ基(OH基)の相互作用が強すぎて、水に溶ける前にセルロース同士でくっついてしまって剥がせなくなる、というのが、水や有機溶媒に溶けない理由でした。
なので、化学反応で、このOH基を別のものに変えてしまえば、溶かしたり色々できるようになるという理屈です。今回は結論が早いな。

セルロース溶液「ビスコース」について

有名なセルロース溶解反応は下記のようなものです。

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セルロースを濃いアルカリ(水酸化ナトリウム)で煮ると、OHがO-となってイオン化し、その反発力によって、セルロース分子間に多少のゆるみが生じます(実際、何やらグズグズのおかゆみたいな液体ができる)。そこですかさず、二硫化炭素(CS2)という化合物を添加すると、セルロースのOH基にCS2が結合した、「セルロースキサントゲン酸ナトリウム」という化合物が生成します。セルロースのOH基がCS2でフタされてしまうので、セルロース分子間の水素結合が喪失し、水に溶けるようになる訳です。
完全に溶解するので、透明度のある、粘度の高い黄色液体が得られます。この粘い液体のことをビスコース(Viscose)と呼びます。(Visco-は粘い、-oseは糖類の接尾辞)

このままだとただの強アルカリのドロドロした液体なので使いようがないのですが、この液体を酸に触れさせると、CS2が脱離して、なんと元のセルロースが綺麗に再生します。

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元に戻るなら最初からセルロースのままどうにかしたら良いじゃ無いかと思われるかもしれませんが、この「一時的に完全な溶液にできる」というのが重要なのです。

ビスコース溶液を、例えば細い注射器に詰めて、酸性の液体中に細く射出すれば、細いセルロースが生成し、再生セルロース繊維となります。吐き出す長さで繊維の長さが決まるので、天然パルプにありがちな短繊維が混じることなく、任意の長さの細い繊維が容易に得られるメリットがあります。(むしろ強度の弱い短繊維の再生利用方法としてビスコース法が使われることも)
あるいは、細いスリットから膜状に吐き出したものを酸処理すればセルロース膜が生成するので、これをさらに適切に後処理すれば透明なセルロースフィルムができます。
どちらも、セルロースが一旦溶けてくれているからこそ、極細・極薄といった加工ができる訳ですね。元の、分子が寄り集まった状態のセルロースからこのような形態の製品を直接加工するのはあまりに難しく、化学工業としての採算性も考慮すると実現困難です。端的に言えば、セルロースの細・薄加工ができるのがビスコース法の意義ということになります。

ところで、これらの繊維・膜製品はどちらも歴史があり、その製品名はとても有名です。皆さん耳にしたことがあると思います。

 再生セルロース繊維   = 製品名「レーヨン
 再生セルロースフィルム = 製品名「セロファン

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再生セルロース製品

そう、あのよく聞くレーヨンというのはセルロースだったのです。お前、紙※だったのか・・・ ※セルロースです
レーヨンは、某UNIQL○(一応伏せました)のヒートテックに30%以上も使用されている発熱繊維です。セルロース繊維の表面は親水性なので、水蒸気がよく吸着します。水蒸気が気体から液体に変わる時の凝縮熱で発熱する仕組みです。
ちなみにヒートテックはセルロース繊維が発熱担当で、アクリル繊維が保温担当、それ以外のポリエステル・ポリウレタンが形状保時とか耐洗濯性を担当します。
(随時改良を進めているようなので、そのうち種類が変わるかもしれませんが)

そして、あのよく聞くセロファン。セロハンテープのセロハンですよ。お前も紙※だったのか・・・ ※セルロース
セルロースフィルムはそれほど強くないので、手で千切れるくらいの程よい強度などがメリットです。そう、セロハンテープって実は手で切れるんですよ。カッターがついてるのでカッターじゃないと切れないと思ってる方がいますが。(最近のOPPフィルムとかは無理ですよ)

(補足)
その他の再生セルロース製品の名称もご紹介
『レーヨン』・・・木材パルプ原料の再生セルロース繊維
『キュプラ』『ベンベルグ(旭化成商標)』・・・コットンリンター(綿花)を原料とし、ビスコースではなく銅アンモニア溶液(シュバイツァー溶液)から再生したもの。銅アンモニアレーヨンとも。一般的なビスコース法レーヨンよりも耐久性・耐摩耗性にすぐれる。銅とアンモニアの後処理が難しく、回収・再生技術をもつ旭化成が世界唯一のメーカー。
なお、『ビスコース繊維』なる呼称も巷にはあるようですが、要はレーヨンです。『ビスコース(から再生する方法で作った)繊維』というニュアンスで用語を使っているようで。

まとめ

◉セルロースを溶かす方法が開発され、これにより、細い繊維、薄いフィルム状の再生セルロース加工製品が実用可能になった。
◉この記事に出てくる製品は全て、セルロースで出来ている。

参考動画

上記全て読んだ方は、この動画で紹介される各工程が楽しく見れること請け合い。

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