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サッカー選手の脳震盪、復帰まで最短何日かかる?


こんにちは。ニーハオと言われたら笑顔でニーハオと返すようになりました、加藤です。

3年も海外に住んでいると、細かいことは気にならなくなりますね。


さて、今回はFAメディカルコースで学んだ脳震盪の救急処置、復帰までのプロセスについてです。「復帰まで最短何日?」みなさんはご存知しょうか?


前回の続きとなっておりますので、まだ読んでいない方はぜひ!



本題に入る前に


本題に入る前に、こちらの動画を見てみましょう。


2014年ブラジルW杯、ウルグアイ vs イングランド、後半16分の出来事です。ウルグアイ代表のアルバロ ペレイラ選手が相手選手の膝に顔面を強打しました。映像でも分かるようにペレイラ選手は10数秒、完全に意識を失っています。さらに立ち上がった後もふらついているのが確認できます。にも関わらず、選手の意思でプレーを続行。彼は「不屈の男」としてファンから賞賛されました。彼の気迫には敬意を持ちますが、果たしてこの対応は正しかったのでしょうか。


国際プロサッカー選手会(FIFPro)の報告によると、チームドクターによる脳震盪の検査はピッチサイドで行われなかったとのことでした。ペレイラ選手も立ち上がった際にめまいがあったことを試合後認めています。このあり得てはならない対応ですが、5年が経った今でもサッカーの現場で稀に起きています。


なぜ未だに間違った対応がされるのか。それはルールが徹底されていない事、そして何よりサッカー関係者の多くが「脳震盪」というものを理解していないからですFAメディカルコースで講師の方がお話しされたことを引用します。

チャンピオンズリーグ決勝。開始10分、エースが頭を強打し、一瞬ふらつく。脳震盪の疑いあり。こんな状況があったとする。選手は意地でもプレーを続けようとするだろう。監督、コーチ、ファンもエースのプレー続行を絶対に望む。コーチ陣はいつでも 勝利(=金) しか頭にない。この状況で必死に説明しても納得してもらえかったとする。「全員 脳神経外科医だったんですね」と、言う他ないよ。

会場は笑いに包まれましたが、本当にそうだなと思いました。これはトップレベルの話ですが、きっと少年サッカーや部活動にも当てはまると思います。いくら医療関係者が正しい対応の仕方を知っていても、他が脳震盪に関して無知であればチーム全体として正しい判断をしにくいものです。


前置きが長くなりましたが、本題に入ります。



Concussion - 脳震盪とは


脳震盪とは何か。まずはここからですね。脳震盪=意識喪失 と思っている方が多いかと思いますが実際はそうではありません。意識喪失は他覚症状の1つであり、90%以上のケースが意識がある状態で起こります。


脳震盪とは 外傷性脳損傷、「脳の怪我」 です。衝撃によって脳の組織や血管が傷つき脳組織に障害が生じます。ただ、頭を強く打っていなくても起こることはありますし、むち打ち症のように頭が大きく揺れることで起こることもあります。

脳震盪は誰にでも起こりうる怪我ですが、成人より青少年、男性より女性に発生しやすいです。さらに小児および青少年の脳震盪の場合、より深刻な症状を伴いますし、回復までの時間も成人の場合に比べて長いです。


代表的な症状は以下の通りです。他覚症状とはあなたが選手を見て確認できるもの。自覚症状は選手があなたに伝えるであろうものです。1つでも症状が見つかった場合「脳震盪の疑いがある」と判断します。

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そしてレッドフラッグ。レッドフラッグとは「見逃してはいけない疾患を示唆する徴候や症状」の事。以下のうち一つでも見つかった場合は直ちに病院へ搬送(救急車)。救急外来を受診しましょう。

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救急処置 DR A-E Approach 


さて、救急処置に入ります。

脳震盪といっても状況は様々です。先ほどのペレイラ選手の様な状況を例に見ていきましょう。

選手が意識を失いピッチ上で倒れています。DR A-E Approach の出番ですね。

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レフェリーが試合を止めあなたを呼びました。周囲の安全を確認 (D) して選手にアプローチ。頭を強打してますので、まずは 首の固定-MILS です。その後、反応の確認 (R)、大きな声をかけましょう。


おっと?選手が意識を取り戻しました。「大丈夫」だと言っています。混乱している様子もありません。立ち上がろうとしています。


検査を続けますが、選手が通常通り話せているので 気道確保 (A)、呼吸 (B)は問題ないと考えられます。選手が混乱していたり、感情的になっている場合は呼吸数が正常(12以上20未満)であっても非再呼吸式マスクを使って酸素を与えます。


そして循環 (C)、機能障害(D)と続きます。脳震盪が疑われる状況での(D) ですが、Maddocks Questions を用いて見当識の検査をします。

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これら全ての質問に正しく答えることができたら、脳震盪の疑いが消えるという訳ではありません。あくまで記憶障害の指標の1つです。


今回の場合、選手は数秒間意識を失っていますね。これはRed Flagsの1つであるので、直ちにプレーから選手を外し、救急搬送しなければなりません。救急車が到着するまでメディカルルームで検査を続けます。


メディカルルームにやってきました。まずは(A)-(E)を再検査。(D)ではGlasgow Coma Scale を使って意識レベルを判定します。

そして、SCAT5 (Off-Field) を用いて脳震盪の評価。SCAT5とは スポーツ脳震盪評価ツールの5版で、FIFA や IOCが作成に関与しているものです。(下記参照)対象の選手が5~12歳の場合は Child SCAT5 を利用します。

British Journal of Sports Medicine. Sport concussion assessment tool. bjsm.bmj.com/content/bjsports/early/2017/04/26/bjsports-2017-097506SCAT5.full.pdf


SCAT5には On-Field と Off-Field の2つがあり、On-Fieldはピッチサイドで、Off-Fieldはメディカルルームにて使われます。今回、On-Fieldのアセスメントは既に終えているので、Off-Field の検査を進めていくといった流れです。

SCAT5を用いた検査は医者及び特別な資格を有している者に行われるものなので、コーチやトレーナーが脳震盪の有無や重症度を判断してはいけません。疑いがある場合は必ずプレーから外し、医者に診てもらいましょう。一般人向けの脳震盪認識ツール(CRT5)の翻訳版がありましたので、記載しておきます。


救急車が到着次第、パラメディックに選手の引き渡しをします。ATMIST をベースに情報を伝えましょう。

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レッドフラッグが見つからなかった場合でも、疑いがある場合 (症状が1つでもある、見当識に問題がある等)は選手をピッチから外します。最初の24時間は疑いがある選手を一人にしてはいけません。また、アルコール摂取や自動車の運転も禁止されます。早い段階で医者に診てもらうことが勧められています。


復帰までのプロセス


さて、復帰までのプロセスには 段階的競技復帰(GRTP)プロトコール を使います。GRTP プロトコールは以下の6つのステージに分けられ、脳震盪を起こした日の深夜にステージ1をスタートさせます。

初期安静期間(24~48時間)はしっかり休養を取りましょう。ここでいう休養とは身体的・認知的な完全な休養を意味し、読書やゲーム、テレビ等も禁止されます。その後、安静を保ちながら徐々に普通の生活に戻します。

2週間後に症状がみられない場合ステージ2へと進み、軽い運動を始めます。この際、医師からの承認を得る事が勧められています。

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「復帰まで最短何日かかる?」タイトルの質問の答えですが、成人の場合は19日、20歳未満の場合は23日です。

ステージ2~5が成人の場合、各最小24時間ですが20歳未満は各最小48時間、ここが唯一の違いですね。

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症状が再発した場合は、一つ前のステージに戻り最短24時間 (成人) の休養を取った後、無症状であれば次のステージに進みます。


プロチームや代表チームなど、医療看護の環境が整っといる場合、復帰までの日数が減ることがあります。(成人最短6日・20歳未満最短12日)


FAサイトにて 脳震盪のガイドラインがダウンロードできますのでよろしければどうぞ。


以上の内容は2019年9月3日現在の内容ですので、情報のアップデートはご自身でお願いします。



まとめ


今回は脳震盪についてまとめてみました。日頃から自分の中で知識を整理することで、何かあった時に自信を持って正しい判断・処置ができるのではないかと思います。あくまで自分のアウトプット用として書きましたが、みなさんが脳震盪について考えるきっかけになってくれたら嬉しいです。

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