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ほら、君の後ろにも。気づけば時間どろぼうに食い殺されている

少し前に、ミヒャエル・エンデの「モモ」を読んだ。

大学時代にモモの映画を授業で見てから、ずっと読みたいとは思っていたのだが、
遂に文庫本を本屋で購入して、読んでみた。




灰色の男たちが、人々の心の隙間に入り込み、語りかける。
「有限ある貴重な時間を節約して、残った時間を自由に使わないか」と。
そして人々に生活を効率化し、無駄な時間を節約するように促す。
その無駄な時間、つまり人々が心の豊かさを生み出す時間を彼らは奪っていく…
灰色の男たちは、時間どろぼうだった。




以前働いていた職場で、仕事から帰っても家で何すればいいか分からなくて困っている、と言っていた同僚がいた。私もそうだった。

ここ1年間、全てが仕事中心に回っていて、平日だけでは飽き足らず休日も仕事をしていた。以前のnoteにも書いたが、趣味の時間も友達と会う時間も、買い物する時間も何もかも全てを、私は仕事に回していた。
やらなければならない、と自分を追い込み、仕事中毒になっていた。

こういう生活をしていると、ふとした時間や隙間時間に困惑する。
何をすればいいのか分からなくなるから。
今まで、やりたいことや行きたい場所があったはずなのに。

自由に使っていい時間が生まれると、何をすればいいのか全く思いつかない。
何も手がつかなくなって、虚無感に襲われる。
もやもやした気持ちに耐えられず、またパソコンを開き仕事を始めてしまう。
いつも終わりの見えないトンネルを歩き続けているような気持ちだった。




時間どろぼうが奪っていく時間というのは、「人の心の豊かさを育てていく時間」のことを指している。家族と過ごす時間や、誰かと話をして笑い合う時間、自分の夢を追い求める時間、自分の心と向き合う時間。

恐らく私は、モモの世界でいう、時間どろぼうに食い殺されていたんだと思う。
時間がない、時間がないとプライベートを削って削って、仕事に当てているのに、
いつまでも時間はないまま。
そして、いつも心にはぽっかりと穴が空いていて、
何か大切なことを忘れているような、でも何かは思い出せない。

時間どろぼうは、時間を節約するように囁くだけ囁き、いつの間にか姿を消しているそうだから、物語に出てくる大人たちとまるで同じ道を辿っていた。




忙しいの「忙」は心を亡くすと書く。
明日からは10連休というGWが明けて、今までの休みを取り返さなければ、と
ひたすら仕事をする人が多くなるだろう。
けれども、少し深呼吸して落ち着いてほしい。
もちろん仕事は大切だが、自分の大切な心を労わる時間はきちんと持つべきだ。
自分の時間は自分で持っていなければ。
時間どろぼうに、食い殺されてはならない。


ああほら、君の後ろにも。時間どろぼうがこっちを見ている。






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