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Introduction 伝説のピアノ指導者の教え



『…じゃ、そろそろ始めようか』


再生ボタンを押された黒い小さなレコーダーは、
静かにデスクに置かれた。


声は静かに続いていく。


祖父が膝の上で幼子に語りかけるような、
懐かしい心地よさが、夕暮れの部屋を明るく満たす。



『私に残された時間は、あまりない。だが、言葉は残すことができる。
私の思いを、必要とする人に、伝えてほしい』


レコーダーの声が、ゆっくりと広がっていく。

鼻の奥から感情がこぼれ落ちそうで、目を閉じて顔を上げる。


瞼の裏に鮮やかに甦るレッスン室。

すべての音楽を内包しながら静かに佇むグランドピアノ。

あの日、日差しがカーテンのレース柄を描き、揺れていた。



「伝説のピアノ指導者」

声の主は、そう呼ばれていた。

私の師だ。


師は、数え切れないほどの優秀な生徒を育てた。

師のもとで育った者は、音楽界にとどまらず、幅広い分野の第一線で活躍。

あらゆる業界で必要とされる人財となり、羽ばたいていった。


人々は疑問だった。

なぜ師のレッスンを受けた生徒が、次々と成功していくのか…?

師は表舞台にはまったく出ず、生徒は多くを語らない。
いわばその「謎」は、ベールに包まれたままだった。

師の教育を受けた者として、ひとつだけ言える。

レッスンには、ただのピアノ指導を超えた、人間教育があった。


人として大切なことを、私たちは教えていただいたのだ。



『どこから話そうかな。そうだな、ピアノを教えることと天職についてからいこうか…』


レコーダーの声は続く。

声の主は、もうこの世にいない。

一年をかけてすべてを語り終え、静かにいなくなってしまった。



そして、残された言葉たち。



私に与えられた役割は、伝説の指導者と呼ばれた師の、
珠玉の言葉を多くのピアノ指導者に伝えること。

何かを教えて生きていくすべての人に届けること。


これから記すのは、

「伝説のピアノ指導者」の、最後のメッセージ。



なかには、耳の痛い内容もあるかもしれない。

だが、きっと心が沸騰するだろう。熱量の高い言葉たちに。
この言葉に触れられる人は幸運だと心の底から思う。


何かに悩んだとき、躓いたとき、苦しい思いをしたとき、
師の言葉を思い出していただけたら。


これからも「指導者」として生きていくと。



レコーダーから聴こえてくる、やわらかで芯のある声。

私は、こぼれ落ちていく真珠を拾い上げるように、
文字に、紡いでいく。思いを、刻んでいく。


すべてを与えてくださった先生へ恩返し。
そして、先生からの最後の「宿題」。


ピアノ指導者として、どう生きるか。

ここからそのすべてを、一緒に考えていきたい。




(この物語、登場人物は架空のフィクションです)



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