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野際かえで「僕たちなかま入り」批評

※本記事は成人向け漫画について扱っています。内容が過激な為、不快に思う方は閲覧をご遠慮ください。私の友人や知人も閲覧注意。

野際かえでという漫画家を知っているだろうか。名前を聞いた事があるという人にとってはブルーアーカイブの公式スピンオフ作品「便利屋68業務日誌」の作者というイメージが強いかも知れない。しかし野際かえではブルアカのような全年齢向けの作品を描く以前から、強烈な成人向け漫画を描き続けている。野際かえではあまり続きのある作品を描かない。要は一話完結で非常に読みやすい作品が多い。どれも優れた作品なのだが中でも「僕たちなかま入り」という作品がお気に入りなので、今回はその感想を批評的に書こうと思う。

ストーリー

本作の主人公、黛玲乃(まゆずみ れいの)は容姿端麗で成績優秀な生徒会長で、学校の生徒たちからも尊敬されている。彼女の夢は政治家になることで「父親のように人の役に立ちたい」と考える人格者であり、学校の生徒会長に選ばれてからはいじめ対策、プリントの電子化など学校の改革の為に積極的に活動。日々、生徒たちに困り事がないか学校中を聞いて回るほどの勤勉さを持ち合わせている。男子生徒たちはそんな彼女を眺めてはただ自分らの子供らしさを痛感していた。本作は「完璧な人」として描かれる主人公、玲乃の視点と彼女を取り巻く男子生徒たちの視点で描かれる。そんな玲乃がある日突然、学校で教師からのレイプ被害に遭う。犯行は教師複数人で行われており、玲乃は為す術もなく弄ばれてしまう。現場を目撃する男子生徒たちも現れるが教師たちは目撃者をレイプに誘い、あろう事か生徒たちまで加害者に回る始末。玲乃をただただ「大人な存在」として眺め自信を持てないでいた男子生徒たちが玲乃をレイプすることで大人の仲間入りをした気分になるという展開が、ここに来てタイトルである「僕たちなかま入り」の回収になる。レイプ被害は玲乃の友人にまで及び、その事を知った玲乃は「友人には手を出さない事」を条件に教師と生徒たちに自らを差し出す。しかし約束は呆気なく破られ、以降は玲乃と友人への暴行が日常的になる。最終的に玲乃は父親に被害を報告するが見捨てられる。尊敬していた父からも見捨てられ、全てに絶望した玲乃はただ自らの体を差し出すようになってしまうという最悪の結末で物語は閉じられる。

本作の魅力

そんな本作の魅力の一つはレイプを扱った漫画にありがちな「行為の正当化がないシナリオ」にあると思う。レイプ系によくある展開で女の子が行為中に「嫌なはずなのに気持ちいい」となる演出。初めは女の子も行為に対して口では嫌がっているが、体は気持ちよくなってしまうというまるで結果論で正当化するような演出。けれど「僕たちなかま入り」は根本的に快楽の描き方の順序が逆なのだ。「嫌なはずなのに気持ちいい」ではなく「気持ちよくなってしまうのが嫌だ」という快楽すらも不快の一部として描かれている。野際かえでの快楽すらも暴力の一部として描く作家性に唸らされる。

またレイプ系にありそうな「口封じ」も本作にはない。初めて玲乃をレイプし終えた後、満足げに笑う教師と生徒たちに玲乃が激昂するシーン。涙を浮かべながら「こんなのしていいわけない」と激怒する玲乃に対して教師は平然と「じゃあ言う?お父さんに」と返す。「当たり前」と玲乃が叫ぶその次のページ。教師の台詞。

「言うといい。先生と同級生にマワされた被害者ですって。私達がやったのも君がやられたのもすぐ伝わるよ。君が将来働きたいとこまでね。これから先ずーっと被害者で生きていけるよ」

玲乃は屈辱で怒りの涙を浮かべ黙り込む。このシーンにも唸らされた。加害者が被害者に対して報復の可能性をチラつかせる事で告発できなくする描写はよく見る。しかし「僕たちなかま入り」では脅しや報復が存在しない。「バラしたら君の将来が失われるよ」とただ被害者の心理を嘲る。被害者は自分のプライドや人生を守る為に事件を秘密にしてしまう。これほど卑劣な描写もないだろう。とはいえ最終的に玲乃は父親に勇気を出して報告する訳だが見捨てられ物語は終わるので尚のこと残酷だ。

そして物語終盤の「快楽堕ちの描き方」も優れていると思う。度重なる加害から玲乃は周囲への怒りを募らせ、その怒りは父の裏切りでピークになる。被害を父に相談した事が教師にバレて詰め寄られるシーン。

「黛くん、お父さんにチクったんだね。まあでも、君のお父さんね、娘は使っていいよって」

あろう事か父まで玲乃を売る始末。この世界の人の倫理観どうなってるの...。全てを失い「みんな死んじゃえ」と泣き叫ぶ玲乃にお構いなしの暴行の描写が続く。そうして季節は過ぎ、迎える最後のページ。そこには男たちの前に自ら跪き「どんなご命令にも従います」と話す玲乃の姿が。かつての憎悪の面影はなくただ虚ろな笑みを浮かべて。これは「繰り返し暴行されるうちに成り行きで快感に溺れた」という都合の良いものではなく「全てを失った自分の現状を理解し、諦めた結果」として初めて快楽に身を委ねるという結末になっている。

以上がシナリオにおいて特に優れている点だと私は考えている。あらすじについては色々と絞って書いたのであれがないじゃないかと思う人もいるかも。それだけ魅力が多い作品という証拠だ。また本作について野際かえで本人がブログで、コンセプトやメッセージなどを綴っているので合わせて読むことで理解が深まる。読めばわかるのだが作者の価値観や表現に対するスタンスは一貫している。創作物で犯罪をテーマにするにあたり創作と現実の切り離しはよく議論の対象になるが彼女の向き合い方はとてもストイックだ。

書き終わって読み返すとなんかズレている気がするがあくまでこれは感想なので。ところで始めたばかりのnoteの内容がこれって大丈夫?友達減らない?逆に考えよう。あまり見られていないからこそ自由に綴ることができると。それでは。

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