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逆噴射小説大賞2022振り返り

 RRR見ました?めっちゃ面白かったっすね……ちょっと近日二回目行ってくる予定です。訳あって色々忙しいんですがこればっかりはね。

 さてさて忙しいとは言っても逆噴射小説大賞にだけは参加しましたよ。1年間ネタ探しとかプロット、一部は全文書いてたりもしたんで土壇場で慌ててやるようなことは無い……ハズだったんですが。


寄生虫根絶プロジェクト(対象外)

 開催告知で今年は2作品までだと聞いて先行して公開した作品。ヤードラント博士の独白だけで進み、800字内で人が死んだり爆発したりしないので大賞は取るのは難しいと判断。出場回避になった作品です。モノは面白いと思います。

wikipedia3大文学のうち1つである日本住血吸虫の記事に発想を得た小説でした。プロジェクトヘイルメアリーが出る前に書いたものなのですが、あの作品を読了した今だと人類の脅威に対して手探りで進んでいくエンターテインメント小説をパルプに寄せていく手段として、ポルツマンとヤードラントが死神と戦う中で友情を育むストーリーを考えていた俺は凄まじく偉いな〜と思います。

あとがきより

 該当記事内のあとがきに補足して幾つか。

 日本住血吸虫の記事を読んだことある人はその読者を引き込む力に慄いたことでしょう。こんな小説書いてみようかな~、と思ったのが発想の原点。大学で聞いた寄生という形質の話が面白かったので寄生虫駆除モノをやろうってとこはスルっと決まり、死神退治ってタイトルを思いついた時点でバチっと形になりました。

 夜布団の中で書き出しの文章まで思いついたんですが、思ったより面白そうなので起きてスマホを起動、そのまま現行のとほぼ同じものを書き上げました。文字数数えたらほぼ自然に800字になってたので無理矢理圧縮もしてないし、賞に出した他の2作より読みやすいし出来は良いんじゃないかと思います。5月くらいには完成してたかな。

 あと舞台をフランスのリヨンにしたのは僕が住んでいたことがあるからです。体感で舞台の雰囲気掴み易いし、資料集めも楽なので。元々は寄生者第1号の発見はアフリカにしようと思ってたんですけど、それだと人種差別パートも書くことになるだろうししんどいなと。フランスの白人男性だったらまぁ……実際にこういうことが起きたらあらゆる論理で外の人が持ってきた病気だとする人は出るだろうけど……書く必要は出て来ないかなという算段もありました。しかしフランス国内で発生って、こいつは一体どこから来た寄生虫なんですかね。それが決まってないからまぁ続きはないかな……


YAサイバーパンク

 めっちゃおもろいやつ。自信作。「かおやく」って言葉、面白い響きだな……ってところから出発してて、後は物語のサスペンス要素として何があったら怖いかなぁ……と考えた時に「親が親じゃないものと入れ替わってる」「親が急に消えるあたり」が良いなということで仕上がりました。

 この辺りは前年の作品「屍人と長虫」も同じで「ある朝起きたら親父がじゃない」って要素があったんですが「あの要素も入れたい!これも!こんなのも!」ってやってる内に全然目立たなくなりましたね。これは明確に失敗してると思う。

 そういう反省もあって今回はあんまり要素は詰め込まないようにしたんですが……それでもまぁ~圧縮が大変だった。圧縮前のデータがあったのでペタリ。

 東宮川生まれ東宮川育ちの小学6年生、桂木杏奈は自分の町とそこに住む人が大好きだった。だから町内自販機コーラ一掃事件や血みどろ軍手大量出没事件といったいたましい難題も解決してきたし、転校生のマリちゃんにこの町を紹介して馴染んでもらうのもぞうさもないことだった。そうしてスーパーの店長さんに「杏奈ちゃんは東宮川の顔役だね」なんて言われて以来、杏奈は得意げに自分とのことを“かおやく”と呼ぶのだった。

 一学期の終業式の帰り道、大量の荷物を抱えて1人フラフラ歩く杏奈の目に見慣れない人の姿が留まった。暑い中茶色のスーツを着て、右手でハンカチを額に押しあて、左手で老眼鏡をおでこに上げて道端の電柱をしげしげと眺める老人がそこにいた。

「おじいさん、何かお困り?」

 杏奈には"かおやく"としてこの町を訪れるすべての人を助ける責任があった。

「これは、エヘン、ご親切に」

 咳払いをして杏奈の方を向く老人は、姿勢を正すと杏奈の予想より遥かに背丈が高く、異様な迫力があった。

「実は古い友人が私に手紙をくれましてな、それがどうもこの辺りの住所のようで」

 ジャケットから取り出して差し出された封筒のに記載された差出人の住所をしげしげと見て、杏奈は顔をしかめる。

「これ……うん確かにこの辺りの住所だけど」
「場所は分かりますかな」
「うんでも……おじいさん、これいつの手紙?」
「つい最近、一週間ほど前に受け取ったものです」
「うーん、とりあえず付いてきて」
 **
「ここがその住所なんだけど」

 わずか数分歩いたところにあった一軒家を示して、杏奈は続けた。

「あそこ私の家なんだよね」
「なんと、ではお嬢さんは夢野くんのお子さんか」
「いや私のお父さんもお母さんもその封筒に書いてあった夢野治なんて名前じゃないし、もう10年以上もあのおうちに住んでるから……」
「しかし、ここの表札には夢野と書いてありますが」
「えっ」

 老人が指さす表札には確かに「夢野」と書いてあった。

「なんで……?」
「ふむ、とりあえずインターホンを押してみましょうか」
「待ってよ鍵なら持ってるし!」

 慌てて門扉の柵を開けて玄関ドアにかけ寄ると、キーリールを伸ばして鍵を差そうとする。しかし鍵は嵌らない。

「なんで!?お父さん!?お母さん!?」

 杏奈は血相を変えてドアを叩く。老人は興味深そうに少女を見ながら、皺だらけの指でインターフォンを押す。家の中からトタトタと足音が鳴り、ドアを開いて寝ぐせだらけの細見の中年男性が訝しげに顔を出す。

「やぁ」
「おや正木教授ではありませんか、わざわざ来てくださったのですか。お電話をくれたら迎えに参りましたのに、それとこの子は……」
「とりあえず夢野くん、中にあげてくれんかね」

 長いっすね。1107文字なんですけど元々は1500字くらいあったはず。泣く泣くカットしたのは正木教授の外見描写。ドグラ・マグラの若林教授の登場シーン(正木教授ではなく)がバチクソかっこよかったから今作でも教授はこれぐらいの雰囲気を出したかった。

私の眼の前で、緩やかに閉じられた頑丈な扉の前に、小型な籐椅子が一個据えられている。そうしてその前に、一個の驚くべき異様な人物が、私を眼下に見下しながら、雲を衝くばかりに突立っているのであった。
 それは身長六尺を超えるかと思われる巨人であった。顔が馬のように長くて、皮膚の色は瀬戸物のように生白かった。薄く、長く引いた眉の下に、鯨のような眼が小さく並んで、その中にヨボヨボの老人か、又は瀕死の病人みたような、青白い瞳が、力なくドンヨリと曇っていた。鼻は外国人のように隆々と聳えていて、鼻筋がピカピカと白光りに光っている。その下に大きく、横一文字に閉ざされた唇の色が、そこいらの皮膚の色と一続きに生白く見えるのは、何か悪い病気に罹っているせいではあるまいか。殊にその寺院の屋根に似たダダッ広い額の斜面と、軍艦の舳先を見るような巨大な顎の恰好の気味のわるいこと……見るからに超人的な、一種の異様な性格の持主としか思えない。それが黒い髪毛をテカテカと二つに分けて、贅沢なものらしい黒茶色の毛皮の外套を着て、その間から揺らめく白金色の逞ましい時計の鎖の前に、細長い、蒼白い、毛ムクジャラの指を揉み合わせつつ、婦人用かと思われる華奢な籐椅子の前に突立っている姿はさながらに魔法か何かを使って現われた西洋の妖怪のように見える。

ドグラ・マグラ(青空文庫版)より引用

 これで600字くらいあるんですけど、この大会でこの部分だけ出されても優勝しかねないっすね。凄いや。という訳でもう一人の登場人物の夢野くんの名前は夢野久作からです。

 桂木杏奈は「魔人探偵脳噛ネウロ」の桂木弥子と「僕の心のヤバイやつ」の山田杏奈から。「平凡だけどありふれてなさそうな名字」ってのがヤコの苗字の由来らしいんですが、今回一応主人公は探偵なのもあって名前を貰いました。杏奈の方は程よく現代的な名前だなと参考にさせてもらいました。現代の女の子主人公にしてるのに名前から昭和の香り漂っててもしょうがないし特徴的過ぎてもヤダし。

 タイトルは好きな小説から。滅茶苦茶面白いので読んでね。つーかもうこの作品で何で杏奈が迷子になったかと言うと、この小説的なことが起きたからなんですけども。

 
 舞台の土地、東宮は僕が実際に住む西宮から。字数圧縮する前は「京都・大阪・神戸の京阪神どこからも近いベッドタウン」という一文があった。俺は地元の話じゃないと日常生活のディティールでズレがでちゃうので舞台地元にしがち。

 しかしまぁ小説の内容より何よりAIですよ。今回のヘッダーみてくださいよ。AIが3秒で書いてくれましたよ。例年ヘッダーには滅茶苦茶悩んでフリー素材サイトめぐったり、noteのヘッダー素材で無難なの選んだりしてたのに今はLINEで日本語使って命じるだけでコレ出して来ますからね。簡易詠唱でこの火力……!!一日でAIが進化する時代が到来したので、来年の今頃はもっと便利なツールでヘッダーを作成出来るようになっているか人類の存亡をかけてAIと大戦争を起こしているかでしょう。

マッドマックスドクター(没)

 没作です。夏ぐらいにプロットは出来ていて今年の2本目にするつもりで半分くらい書いていたんですが……10月、一本目を書き終えてこちらに着手して気付きました。面白くない……というかダサい……

 予定していたところまでの字数を800字以内に収めるとなると相当な量の会話や描写を減らす必要があるんですが、セリフがださい!!それで無理矢理押し込んでも展開が唐突すぎるし世界観が分かりづらい。

 それでも出すつもりのネタはこれだったしな~どうしようかな~と悩んでいるだけで10月が終わりそうになったので諦めました。上のリンク先記事はこの振り返りに際して書き上げたものです。3000字くらいあります。元々こんなつもりじゃなかったんですが、楽しくなって調子乗って糸目関西弁ヤクザとかも出せたので供養出来てよかったです。シンカンセンが何かって?今考えたから知らんよ(殴

 私は2010年代前半の小説掲示板で活動していたバックグラウンドがあるので(殴 とか滅茶使ってました。鳥肌もん過ぎてまだ10年しか経ってないのが恐ろしい。

 さて作品がどう思いついたのか何ですが、下の読み切りが出発点です。作品が総合的に好きって訳ではないんですが医学部に行かすために出生の嘘つく母親に「質感~」って感じがして、ちょっと自分でも書いてみたかったんですよね。医学部行きたくない子に行かせようとする親を俺の親含め何人も見てきたので。

 映画のマッドマックスは怒りのデスロードしか見てないんですけど、そんなにしっくり来てない。世界観にもピンときては無い……けど何か今回医者を主人公にする上でしっくり来たので採用。

 初めは組長と医者の二人のロードムービーにする気だったんですが、それだけだと面白みが少なくなる、もっとツイストしたい。ってことで組長殺して口数少ない陰気なヤクザと軽率で直情的な医者との気の合わない二人の旅にしました。まぁ旅に出るまでで書き出しは終わるんですが。

 ヘッダーのAI画像はちょっと出来がイマイチなんですけど全然上手く行かなかったんですね。マッドマックスって入れると全部マッドマックスになって他の情報が消えちゃうんですよ。ヤクザと医者は別々で発注して加工した方が良かったとは思いますが、その手間踏むならAI使わなくて良いし。

ジュブナイル未知との遭遇

 『銃とPHSは鳴り止まない』をボツにしちゃって、じゃあ投稿用2作目の作品はどうしようかと考えながら去年の逆噴射小説大賞のネタ出しメモを漁りまして。異世界転生ものとかも諸々あったんですけど「これ800字で薄火点より面白い?」と自問していると、どれも微妙に見えてきちゃう。

 そんな中スティール・ボール・ランを全巻まとめ買いしたんです。これがこの世で一番面白いな、ジュブナイルつーか「青春から大人」になるまでの物語を、友情の物語をやりたいな、そういう訳で2年くらい前にちょっとだけ書いてた『俺はきっと生まれ変わっても音楽をやる』というこの話の原型になった小説を引っ張りだして手を加えました。いやぁSBR読んでなかったらOye Como Vaなんてタイトルでないなぁ。

 しかし一度ボツにした作品なのに、ちゃんと800字にしたら思ってたより面白い作品に仕上がったと思います。初めはキーボードが逃げたバンドが新メンバーを探す中、宇宙人を拾ってメンバーにするってだけだったんですよね。宇宙人は口からキーボードの音出せるしめっちゃ上手い。さらに未知のサイケデリック音も出せる。すげぇじゃん!って盛り上がって仲間に入れちゃう大学生バンド……流石にちょっとフックがなさ過ぎますね。やっぱり最低1人は殺しとかんとね。

 この原型における宇宙人のイメージはヌ・ミキタカゾ・ンシ。SBRのこととか考える前からずっとジョジョだったんですね。今回の投稿作ではピンク色の不定形生物です。はてさて意志とかはあるのか……ハナミチの意志は消えたのか……決めてないので分からないですね。

 バンドメンバーの名前は鬼童貞だけはずっと決めてて、ヘルドッグとラーフラ、主人公のハナミチは直前に決めてます。鬼童貞、なんか良いですよね。各メンバーのパーソナリティだけ紹介して終わります。

ハナミチ(花道) Vo兼Key フロントマン。バンド発起人。夢見がちだが気のいいやつ。隕石にぶち当たって死んだ。意志の一部が地球外生命体を音楽に駆り立てる。

鬼童貞(加藤) Ba 鬼軍曹と呼ばれていたが童貞だと判明したので鬼童貞と呼ばれるようになった。あだ名のことは気にしていない。練習から収録、何から何までに厳しく正論を吐く。バンも機材も彼の持ち物で運転からセッティングまで全てを担当しているので誰も文句を言えない。イメージはソウルキャッチャーズのチューバパートリーダー川和先輩。

ヘルドッグ(水本) Dr 次元が違えばケヒャリストになっていた男。すごくアホ。本当に良いところがないが実家で飼っている犬が可愛いため、彼を練習に連れてくることで全てが許されている。バンドメンバーからは犬の次に可愛がられている。

ラーフラ(高松) Gt 優しく品の良い男なのだが非常に神経質なところが有り本番前などトイレにこもりがち。特に親父が出ていった過去などはない。キラキラネームでもない。王子様感はある。


未来へ

 という訳で今年度逆噴射小説大賞のふり返りでした。今年出した2作は両方とも凄く気に入っていて、年ごとの提出作の総合点を考えると5年で一番の出来だと思っています。

 今年初めにはこんな記事も出したんですが、去年の反省を踏まえて改めて言えることは「要素を盛り過ぎるな」「好きなことをやれ」の2点ですね。大賞取って逆噴射小説大賞V2チャンピオンになりたいな~~~~!!!!!!

batty


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