ペンローズの迷宮
マインドセット。1K8畳の部屋。奥にベッド、手前にTV。足元で子犬が吠え……違う、犬が居たのはアレより昔。実家に居た時。
「イメージ、イメージを固めろ……」
銃撃戦の音が響く。緊迫した中で私は、正確に主観時間軸から10年前の自分の部屋を見つけなければならない。
「焦点を合わす……」
抱いた赤ん坊が泣き喚く。20年前への輸送は熟練の『運び手』の私にとっても離れ業だが、状況は集中を許してくれない。母親業は大変だと聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった。
「掴んだ!」
10年前の私がこちらを見つめる。頷きあう。向こうの準備は出来ている。
「じゃあな息子、短かったけど。20年前の我が家は良いよ、可愛い犬もいるし」
息子の額にキスをし別れを告げる。現在の私が時間軸に力をかけ2020年の私が時間軸を支える、すると今が2010年に近づく。運び手は次元を曲げてモノや情報を届けるが、時間軸を曲げられるのは私だけ。もうこの子には誰も手出し出来ない。
小隊の足音が迫る、もどかしい、遠い過去に繋ぐのは時間がかかりすぎる。応戦すべきか?しかし集中を切らせば次元は弾性で元に戻……
BLAM!BLAM!
突然だった。兵士が直ぐ側に湧き出て、そのまま2発の弾丸を確実に私の脳に撃ち込んだ。
そのまま運び手の兵士は崩れ落ちる私に抱かれた赤子に銃口を向ける。
しかし2030年の私の曲げ始めた次元は確実に2010年に迫っている。赤子の周囲が歪む。銃が撃たれる。
バキリ
次元が、砕け散った。
﹀
『2020年3月10日、本日のニュースです。宇宙センターへの物資運搬に運び手アラン・ポーカー氏の採用が決まりました……』
1K8畳の部屋のベッドで煙草を吸う。随分昔の夢を見た。
あれから何年経ってもあの日未来で抱いていた子供の体温を私はハッキリ覚えている。それでも私の時間はまだあそこに繋がらない。延々と続く2020年で私はずっと消えた我が子を探している。
(続く)
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