見出し画像

スイカゲームは椎名林檎が出てこないからじきに廃れる

 朝食にミカンとパインが出てきた。どちらから食べるのが正解か、睡眠で回復した思考力を早速費やす羽目になった。仕方がない、今日の勝負所だ。

 「ミカン」と書くとなんだかもう剥いてあって、ひと房ずつ切り離されてますよーという響きがするが、実はその通り!お客さん、頭が切れますねー、明日からうちの探偵事務所で”江戸川コーナン”に続く”多摩川ニトリ”として名推理を繰り広げて頂きましょう!円周率の日・イブということでパインから食べた。

 カットパインというのは福岡市の条例で等脚台形に揃えなければならない。そうでないものは、不揃いバウムとして無印不良品の店頭に並ぶことになるから恐ろしい。「無印良品好きそう」が悪口になったあの日から、私たち人類は生活の拠点を雪印メグミルクに移したんだ。少年よ悪いことは言わないから牛乳の一気飲みはやめておけ。ドッチボールのコートが埋まっちゃう?ははっ、安心しろ。もう取ってある。なにせ俺は、“元外野”だからな。

 果物を箸で食べるのには、なんとなく抵抗がある。どのぐらいの抵抗か、まずは作図をするべきだ。ペンを取り出し、その下位互換である剣も取り出しておく。正確な作図の後には、合力を求める。合力が大きすぎて、人をあやめることが出来そうなくらいだったので、解答欄には「合力あやめ」とだけ記しておいた。「東大実戦」のことを「東大実践」と表記するやつは多分運動神経が良い。長座体前屈かトープ洞窟で勝負しよう。

 キッチンを物色すると、ミートボールと高野豆腐しか刺した経験のない気弱なプラスチックピックが顔を出した。どこまでが顔だよ、腕や胴体はどうなってる、とぶつぶつ文句を言いながら、甘酸っぱい等脚台形を貫いた。お、これで脚を獲得したな、晴れて頭足人の完成だ。頭足人がいるなら頭足猫がいたっていいだろうという屁理屈のもとでにゃんこ大戦争は人気を博したのだ。にゃんこ大戦争に徳川綱吉が出てこないのは犬公方だからですか?

 緑色のピックが刺さった黄色いパインは「赤がない信号を表し、何事も滞りなく進む」として古くからおせち料理の定番として知られている。

 ピックは本当に気弱で、少し油断するとパインを取りこぼしてしまう。落ちたパインは皿の上にある別のパインとぶつかって、シンカの輪に従ってメロンに変わってしまった。これだから糸目キャラは。三話あたりから疑ってたんだよ、まったく。もう一つメロンが出来てしまう前に先に塩をもってきておこう。スイカに岩塩こすりつけてる奴がいたら、迷わず保健所に連絡しましょう。

 スイカゲームに椎名林檎が出てこないと知ったとき、心底ガッカリした。何のためにあんなに耳にこびりつくBGMにしたんだ。安価だからって落としていい質とそうでない質とがあるでしょうが。大体、スイカの英訳がウォーターメロンである事実でさえ受け入れられてないから。すべてのcookieと同じくらい受け入れがたい。

 春の陽気は思考を潤し、洗濯物を乾かしていく。果物の前に食べた食パンに塗ったのがバターだったかマーガリンだったかも、もう忘れてしまった。

 ミカンは素手で食べた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?