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コラムvol.2 風街ろまん/はっぴいえんど あるいは"パイセンとは仲良くしておけ"の話

「URCの販売権がエイベックスに移るらしいじゃん、いまのうちにCD買っといた方がいいよ」

2001年の秋頃だったか。大学のサークル棟のボックスで、アイスキャンディーを噛んでいた僕の耳に天啓が捩じ込まれた。僕に言ったような、向かいのソファでギターを布団に寝転がる野郎に向けて言ったような、先輩は目を合わせて喋らないから分からない。彼はいつも空間に向けて話しているのだ。

「はっぴいえんどの"ゆでめん"とかさ」
 
僕と野郎は、素直なので(他にやることも無いし)、大学の坂道をくだって、ミドリレコードに来た。この店は親切だ。新品を2枚買うと中古CDを1枚くれるのだ。

・・ワゴンの中からとかじゃなく"なんでも"だ。

商売のことをよく知らない大学生の僕でも「おじさんあたま大丈夫?」と思っていた。でもお金が無い僕達はそんな助言をしない・・。

先日など、コーネリアスの"ポイント"を恐る恐る出してみたが、くれた。何かの間違いなんじゃない?と疑いつつ、嬉しすぎてダッシュで帰った。(今もまだよく覚えている)

棚を眺めて"ゆでめん"を探す。(ちなみにアルバムタイトルはバンド名と同じ"はっぴいえんど"だが、ジャケットに映る商店の看板に大きく"ゆでめん"とある為、通称とされる)

その日は縁が無かったようで2ndアルバム"風街ろまん"のみ購入して帰る。オマケを貰わないのは情けでは無い。もう1枚何か買う金が無かったんだ。。
野郎は何も買わない。金が無いらしい。なんで来た。

"ゆでめん"を聴いてみたかったけど、何度も聴いた"風街"をこの手に出来たことに、とても満足していた。坂を登りながら、手に持ったミドリレコードのビニール袋の重みをズシリと感じた。

遡ること4ヶ月。初夏のある日に、先輩の下宿でCDを半日かけて漁った。そこには「いい音楽を、もっともっと聴きたい!!」という情熱の人ではなく「ゲヘヘ、みんなの知らない音楽をコピーすれば、注目されてモテまくり!!」という、粘ついた欲望に塗れた金髪豚野郎がいた。

一枚一枚聴いては、戻すを繰り返す。オヤツを買いに出た先輩が戻ってきた頃、毛色の違う音楽が出てきた。日本の拍子を感じさせつつ、骨太な(60's頃の)アメリカンロックを彷彿とさせる演奏。歌詞も昔風の言い回しだが、洗練されていて、面白い。

「コレ、いいですね。ゆらゆら帝国みたいだけど、落ち着いていていいな。最近のひとですか?」
「馬鹿言うな、それ30年前のCDだぞ」

大瀧詠一さんが歌う『抱きしめたい』の流れる部屋で"風街ろまん"のジャケをめくり"1971年11月20日発表"の文字を見つけた。歌詞カードを見ながら聴くのも、面白い。バラエティに富んでいる。何度も周回して聴くが、飽きない。

「コレはいいですね。先輩。」

「もう帰ってくれよー」


思えばこの日から、ずっと"いい音楽"を探す日が続いている。このあと、虱潰しに同時代の日本のロックを聴いた。"新しい"と感じるものが、古い時代にあるとは、目から鱗だった。いつの間にか、モテたいと思っていた事など忘れていた。桜木花道みたいだね🏀



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