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街の選曲家#ZZ111Z

私が音楽を好きなのは自然の流れか。子供の頃の保育園や幼稚園での教育、両親が契約していた情操教育のため毎月送られてくるクラシックのシングル盤、中にはその情景を絵画で表したカード、裏には解説があった、そして男にはカッコ悪いからとすぐにやめたオルガン教室、父親が好きなクラシックのレコード、幼児期にはそんな環境にいた。そういえば幼児でもフィンガーファイブなどの歌謡曲のドーナツ盤も買ってもらっていたみたいで、それらを思うと私の音楽そのものや嗜好にとても影響していたと思われる。上には幼児期のあったものばかりを書いたが、ないものもあったし、時を過ごすにつれてそれも増えた。回り道もあった。だが今思うとそれが楽しかったし実になっていると思う。実になっているとはいえ、ただの自分の中の意味のない実だな。

衣替え feat. BONNIE PINK - tofubeats, BONNIE PINK

以前も書いたことのあるtofubeatsさんの曲だけど、サブスクで見つけたアルバムに入っているこれを聞いたときは曲調に浸り、BONNIE PINKさんのヴォーカルに淡々とした日常のを感じたりした。tofuさんをサブスクで見つけて、色々聞いてゆくうちに一枚目からアレコレと自分のプレイリストに入れた。その最初がフューチャリングでBONNIE PINKさんを見つけたこの曲だった。
BONNIE PINKさんは一時私が入っていたケーブルテレビの、いくらかの音楽専門チャンネルのどれかによく出ていた。当時好きだったアーティストが出ているとき以外は、常に流していたけど、記憶ではACOさんと双璧の若く新しい女性アーティストという感じでヘビロテされていた。その後BONNIE PINKさんはテレビCMなどでも流れるような大ヒットなどもあり、普通に認知もされるようになったのも知っている。だがその音楽専門チャンネルで見ていた当時の記憶、北欧にレコーディングに行ってた話とか、そんな記憶のインパクトが大きかった。だから細かく聞いてなくても記憶には残っているのだと思う。
ACOさんも含め当時のヘビロテというのもレコード会社等の意向とかがあるのかもしれない、だが、私には聞いて印象に残っていたので、その後のCMの時も思い出し、そしてその記憶がtofuさんとのフューチャリングで蘇った。

曲の始まりは静かなドラムから入り、エレピは情景から物事が滴るようなサウンドで、そこにピアノが入れば視界が広がって俯瞰できるようになってゆくように感じる。そこにBONNIE PINKさんの歌や、ストリングスなど段々と音が加わってきて、淡々としている中に重厚な今の世界があるようになる、そんな曲だ。ドラムの乾いた音もその雰囲気に合っているし、ベースが入ってくる瞬間も好きだ。私はこころ乱れている人間なので、こういう曲を聞くのはとてもいい。もっと乱れたいときもあるが、少しは落ち着いて、淡々としたいこともある。tofubeatsさんの曲はどの曲も素晴らしいと思うし、この曲もまた、その一片だろう。


KNUCKLE - group_inou

group_inouについて書くのは難しい。ヒップホップのリコメンドから出会ったが、独特の世界というか、立ち位置というか、そういうものがすぐに好きになった。ヒップホップのリリックで苦手なのは私が世界のラブ的なものや誰かに感謝とか系が苦手で、それは普段の風景や荒唐無稽な内容でもとても素晴らしいと思ってしまう人間だからなのかもしれない。ヒップホップ草創期の大好きな"うわさのカム・トゥ・ハワイ"や、BPMレーベルのPresident BPMやTINNIE PUNX、いとうせいこうさんのリリックがしっくりくる。さらにBPMレーベルでいうと、"だからDESIRE"に至っては、なぜこんなレコードを発売日に買ったのだろうという、嬉しい疑問が自分自身に湧き上がってきたような、そういうものが非常に私のベーシックなリリックのイメージでもあるが、group_inouはそれ以上で、それ以上が過ぎるとも思う。だからこそ書くのは難しいということにもなり、それは聞けば分かるとしか言いようがなく、MCもトラックも全ての人に最高とは言わないまでも、とても突出している。

このKNUCKLEでもそうだが、非常に忙しく、全然そうではないのが、細切れに、ミニマルに感じるようなリリック、そしてトラックはミニマルと言ってもいいかもと思える。リリックが常に言葉、文字、その要素を意識しているように感じ、それなのに俯瞰して見てもちゃんと意味があるようなものになっている。トラックはもっと分かりやすくミニマルで、エレクトロで、風変わりだ。それがとてもいい。私はよくシングルCDなどに含まれているインストバージョンをプレイリストに入れて聞いたりするが、group_inouの曲も、この曲もそうしたい。トラックだけでも魅力があると思う。エレクトロやシンセポップ風なもの好きというのもあるが、ヒップホップとしてみると独特だとも思う。そういうのもgroup_inouを好きな要素かもしれない。


スーパーモンキー孫悟空 - ピンクレディー

私は人間の記憶の曖昧さをいつも感じている。今回の初めに、子供の頃のフィンガーファイブのドーナツ盤があったことを書いたが、記憶は定かではなく、人間は憶えた端から間違えてしまうというの思いは大きい。今回もそういうことがあった。家には子供のころフィンガーファイブのほかにピンクレディーのレコードも家にあったのだが、アルバムという記憶はあるが、いつ買ってもらったのかは憶えていない。そのアルバムの中でも私の好きな曲は"ゆううつ日"という曲だった。私の記憶では、ケイさんのソロ曲と思い込んでいた。だが実際はミーさんのソロ曲だったのだ。思い違いをした理由は自分なりにはなんとなく分かるような気がするが、憶えた端から書き換えられる記憶というものも厄介だ。閑話休題。

その"ゆううつ日"も好きだが、もちろんシングルで大ヒットしているような曲もよく聞いていた。だからこそアルバムも買ったのだろうと思う。そして今回の"スーパーモンキー孫悟空"はノリのよさが好きだった。ザ・ドリフターズの飛べ!孫悟空という子供向け番組の主題歌だったが、私はあまり見ていない。人形劇というのも忘れていたくらいおぼろげだが、この歌はよく憶えている。透明人間のB面らしいが、番組のおかげかよく流れていたのだろう。歌詞もいきなりスーパーカーブームで、スーパーモンキーと掛けてるのかなと思わなくもない。作詞は阿久悠さんで、彼は誰でも知っている作詞家で、さまざまな有名曲がある。この曲の歌詞はとても軽快で時代の側面や、それらの一部本質を突いているようで楽しい。しかもそれらが孫悟空にまとまっていて、とてもいい歌詞だなと思う。曲もシンプルに見えてゴージャス、そういう裏腹にノリのよさが加わり素晴らしいものとなっている。ピンクレディーにとても合っていると思うし、二人の躍動感のある歌も素晴らしい。


Só Danço Samba - Stan Getz and João Gilberto

この曲は、すごく短いギターだけの前奏に一音だけ入るピアノがとてもよく、その音は震えるように体じゅうを駆け抜け、それがすべての源のように感じる。それはいい音楽の始まりを示しているようで、とても好きだ。
何度かボサノヴァのことも書いたことはあるが、この誰でも聞いたことのあるだろう曲が詰まったアルバムの"Getz/Gilberto"を制限付きサブスクで発見したときは、早速プレイリストに入れて聞きまくった。どの曲も何度も聞いたことはあったが、こんな有名なアルバムでも持っていなかった。持ってなくても"イパネマの娘"や"Corcovado"、"Desafinado"はよく聞いた。その当時はボサノヴァという意識はなく聞いていて、その後それがボサノヴァと知り、意識して聞くようになった。だがボサノヴァのレコードを買うという意識もなくサブスクにて出会ったのだ。
一番有名な"イパネマの娘"はジョアンジルベルトさんの少し鼻にかかった優しいボーカルが記憶に残っていた。アストラッドさんの方はあまり記憶になかったが、ジョアンさんに比べて突き放すような感情を感じた。それはこの曲はわざとそういう構成なのかと言葉が分からない私は思ったが、ただひねくれた人間にはそう聞こえるのだろうか。

そしてこの曲、"Só Danço Samba"は先ほどの前奏からすぐヴォーカルが入るが、彼の落ち着いた声とギターには心安らぐ。そして効果的に入っているピアノは多分アントニオカルロスジョビンさんで、ボサノバの神とも言ってもいい彼が参加しているのも素晴らしい。ジャケットにはちゃんとfeaturing Antônio Carlos Jobimと書かれていて、ほとんどの曲は彼のもので、素晴らしいアルバムの理由の一つだろう。またこの曲でもそうだが、スタンゲッツさんのサックスが入った瞬間にジャズの雰囲気になり、ボサノヴァとはまた別の世界になってしまう。アントニオカルロスジョビンさんのピアノにも少しそれを感じなくもないが、まったく表裏が返ったようにジャズっぽくなってしまう。ジャズではないのにその雰囲気に包まれる。そういう不思議な完成度のある曲やアルバムだ。そのサブスクでは随分してから聞けなくなってしまったが、もう物理メディアの時代ではないにもかかわらず、一枚買っておきたい気もする。それだけボサノヴァと理由でも、不思議なアルバムという意味でも大好きなアルバムで、曲なのだ。



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