エビハラは考えた

短編小説やショートショートをアップしています。 下手の横好きレベルです。

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マガジン

  • 月鱗のナツキ

    仮です

  • 今夜、星を穿ちに行こう

    星降る夏の夜、僕は幼馴染とナナと一緒に村の夏祭りの縁日へと向かった。それはナナと二人で「やりたいことリスト」に記された最後の一つの項目をクリアする為だった……。淡い初恋と、脈々と受け継がれる命。それらを守り続けるものを描いた青春小説です。

  • 400字小説

    400字で完結するショートショートを纏めています。 すぐ読めるものばかりですので、ちょっとつまみたい時におすすめです。

最近の記事

2023年に読んでおもしろかった小説(一月~四月)

 読書記録的なものはあまり公開していないのだが、それなりに読んではいるのです。備忘録として、強く印象に残っているものだけまとめておこうと思います。  あくまでも「エビハラが今年読んだ本」なので刊行時期なんかはバラバラです。今年の一月から読み終えた順にあげていきます。面白かった順とかではなくて、読んだ順です。  同人小説とかWEBのものを含めてしまうとえらい数になってしまうので、とりあえず商業で出ているものだけにします。 ①「猫の地球儀」 秋山瑞人著  焔の章、幽の章の上下編

    • 雑記④

      5月の東京文フリに合わせて出す短編集「その花が咲くところを見せて」の作業をすすめている。 前回の「楽園にて」と同じく、表紙は創作サークルのNUEさんにお願いした。 表紙のイメージを共有するweb会議(つっても雑談みたいなもの)の中で、NUEさんの方から質問があった。 「この本は誰に向けて書かれたものなんですか?」 それはつまり、どんなコンセプトでどんな客層に向けて売り出すものなのか、マーケティング的な問いだったと思うのだが、あまりそういうことを考えて物を書かない僕は言葉につま

      • 雑記③

        泥濘に沈み込むような抗いがたい疲労を感じながら一日を終えようとしている。なるべく毎日この雑記を書きたい。けれど中々そうもいかない。やはり意識して体力は付けていかないと、この先働きながら小説を書いていく生活を保てないよな、と実感する日々が続いている。いつまでも若くない、というかもう既に若くはないのだから先を見てプランを練りたい。 日々いろいろな事を考える。言語化出来ずに次の日を迎える。混沌とした想いは頭にまとわりついて離れない。何かカタチを与えないと暴発しそうになる。 小説を書

        • 雑記②

          十五分。十五分をノンストップで書き進めていこう。 上手くいかないことばかりだな、と思う日が続いている。こういう時は確率的に低いはずのアンラッキーも呼びよせてしまいがち。 今日は乗っていた社用車が突然ぶっ壊れた。要因は経年劣化。僕一人が乗る車じゃないから、言ってみればみんなでクルクル回していた時限爆弾が偶然にも僕の手元で爆発した、みたいなそんな感じ。 最近は結構このパターンが多くて「あれ、今年厄年だったっけな」と感じるほどだ。あーヤダヤダ。なんかいいことないかな。 原稿をやりた

        2023年に読んでおもしろかった小説(一月~四月)

        マガジン

        • 月鱗のナツキ
          16本
        • 今夜、星を穿ちに行こう
          5本
        • 400字小説
          28本

        記事

          雑記①

          時間をかけてただただ文字を書こう、と思い至った。 フリーライティングという手法らしい。トレーニングをしなければならないと思った。出力をあげたいのだ。文章の出力を。 いわゆる文章力とは推敲力の事だ、と僕は思っていた。何度も何度も見直してより良き修正する事を続けていけば、頭の良さや地力で劣る人間でもそれなりのものが書ける、と。それはまぁ間違いではないし、実際にそうやって時間をかける事で評価していただけた作品もあるのだけれど、最近になって感じるのは、推敲以前にただ書き連ねるパワーと

          ナツキ⑮

           まよねっぴ達とは、末次堂の前で待ち合わせている。藍那の店からそれほど遠くないから、ナツキは徒歩で向かっている。  あの日、末次堂の包み紙を大事そうに抱えて調理準備室を訪れた柄井ついりの事をナツキは思い出す。  あの廃屋で、差し伸べられた手を取るより先に、ついりは危険を察知して咄嗟にナツキを突き飛ばした。その時の事は、今でも鮮明で脳裏に焼き付いている。スローモーションで再生される記憶。ゆっくりと遠ざかっていく、ついりの表情。  ナツキはグッと拳を握りしめる。  深遠なる異世界

          ナツキ⑭

          「じゃあ、あの女の子も目を覚まさなくなっちゃったんだねぇ」  藍那堂の二階。秋人達の居住スペースで、今日も一階の店主はお菓子を齧っていた。  同じテーブルを囲み、ナツキもパクパクと焼き菓子を口に放り込んでいる。 「ええ。精神の深いところで結びついていた所を、無理やり引き剥がしたショックなのかもしれません。時間が解決するといいんですが……」  湯呑みにお茶を注ぎながら、秋人はそう言った。あの後、柄井ついりも他の生徒達同様に、深い眠りに落ちてしまったのだ。 「んん〜、分かった。そ

          ナツキ⑬

          ついりは、廃屋の一室にいた。  ほぼ朽ちかけたベットの上に、長い黒髪の少年が横たわっていた。  竜堂ナツキは、昨晩からずっと眠り続けている。  ついりは、ナツキの真っ白な額をハンカチで拭った。少し前からナツキは目を閉じたままうなされて、苦悶の声を上げるようになった。額から玉のように汗が吹き出し、苦しそうに表情を歪めている。  その様子を傍で見ているついりは、複雑な思いだった。  「彼女」の指示に従ってついりは行動し、その筋書き通りにナツキを眠りに落とした。  それが「彼女」と

          ナツキ⑫

          「演奏会のソロパートさ、辞退してくれないかな」  突然そう切り出されたのは、昨年度の二月のことだった。年度末に控えた定期演奏会で、ついりは一年生の中で唯一トランペットのソロパートを割り当てられていた。  放課後、音楽室に居残って練習をしていたついりのところに彼女達は現れた。同じ吹奏楽部の部員達だ。 「え、な、なんで……」  言葉に詰まり、オドオドとした態度をとってしまう。  ついりは、彼女達のことが得意ではなかった。  その態度や言動が、自信に満ち溢れているからだ。中学生にな

          ナツキ⑪

           灰色に薄汚れた灯台の麓、俯き加減に海を見つめている人影にナツキは近づきながら声をかけた。  少女の表情は、影に隠れていてよく見えない。ナツキが、彼女を柄井ついりだと判断したのは、その背格好がよく似ていたからだ。 「ついりん……大丈夫か?」  少女は学校の制服を着ていた。けれど、それはナツキと同じ霞高校のものではなかった。紺色のシンプルなデザイン。ついりの部屋のコルクボードに貼られた写真に映っていた。ついりが中学生の頃に来ていたものだ。  少女の左手には、金色の楽器が握られて

          ナツキ⑩

           秋人は、霞高校の音楽準備室にいた。  隣にある音楽室からは多様な楽器の音色が聴こえている。吹奏楽部の、それぞれのパートの部員達が、思い思いに練習をしているようだった。 「すみません、騒がしい場所で」  そう言いながら、眼鏡をかけた細身の女性が目の前の椅子にかけた。四〇代前半くらいだろうか。ほつれた前髪からは、どこかやつれたような印象を受ける。 「いえ、突然押しかけたのはこちらの方ですから。土曜日だっていうのに、部活を持たれていると大変ですね」  秋人は、柔らかい笑みを浮かべ

          ナツキ⑨

           ナツキは、砂浜の上を歩いていた。  そういえば最後に海に行ったのはいつだったっけな、とぼんやり考える。  少なくとも、秋人と共に藍那堂で暮らし始めてから四年、その間は一度も行っていないように思う。 「アニキの野郎には、休みの日に遊びに行くっていう発想が無えからなぁ」  誰もいない浜辺で、ナツキはひとり、ぽつんと愚痴をこぼした。  広がる風景には、やはり見覚えがない。  だからとは言い切れないが、この夢の風景は自分の記憶に依存して型取られたものではない、とナツキは感じた。  

          ナツキ⑧

          「世話が焼けるんですよ、あいつは!」  三角巾で頭を覆い、カエルの柄が入ったエプロンをスーツの上から身に付けた秋人が、床に座って必死にアイロンをかけていた。  アイロン台の上にあるのは、チャコールグレーのセーラー服である。昨日、ナツキが盛大にきな粉を付着させていたものだ。 「まぁまぁ、ナツキちゃんも悪気があってやってるわけじゃないんだからぁ」  そんな秋人を少し上から見下ろす角度で、椅子に座ったまま湯呑みを携えているのは、漢方藍那堂店主の藍那アイナだった。  藍那堂の二階は秋

          ナツキ⑦

           灰色に薄汚れた灯台の下に立ち、ナツキは南方を見つめている。  薄暗い夜だ。  眼前には遥かな水平線が広がっている。その水面は闇のように深い。  湾を囲う小高い山の稜線は、薄暗闇の中でどこかぼんやりとしている。  岸には風ひとつなく、波音すら聞こえない。しん、と静寂は帳を下ろしている。  見覚えのない景色だった。  けれど、話に聞いた通りだった。  灯台のある浜辺で、船を待っている。  ついりに聞いた夢の情景、そのままだ。  ナツキは自らの右頬をつまみ、そのまま勢いをつけて力

          ナツキ⑥

           数分後、ドアから出てきたついりに迎えられて、ナツキは家の中に迎えられた。  ついりの父は、夜勤で今日は家に居ないらしい。母だという女性は、自己紹介をしたナツキに対して伏し目がちにゆっくりと頭を下げるだけで、何も言わずに自分の部屋へと戻っていった。  丸い背中が薄暗い和室に入っていくのを見送りながら 「ゴメンね、ああいう人だから」  と、ついりは何かを諦めた様子で呟いた。  ついりの部屋は、襖一枚を境にしてリビングと隣り合った場所にあった。  薄いピンクを基調としたベッドやカ

          ナツキ⑤

          「俺、そういう感情ないからさ。誰が相手でもそうだから、そこは安心してよ」  ついりの自宅へと向かう道すがら、ナツキはあっけらかんと言い放った。  陽は沈み、あたりは暗くなり始めている。 「不安だったら、手とか足とか縛ってもらってもいいし。もちろん、そういった趣味もないんだけど」 「そっ、そんなことしないよ」 「そう? その方がありがたいや」  秋人に持たせられた寝袋を抱えて、ナツキはニッと笑った。  黒いジャージと白いトップス、膝丈の黒いタイトなスカート。長い黒髪は一つに束ね