見出し画像

本家の後継 15 顔に出る

優しそうな人

怖そうな人

苦労のシワが刻まれた顔

キラキラした人

どんよりした人

近寄りがたい人

考えていることが顔に書いてある

私はどんな顔をしていたのだろう



この話は、自分自身の人生を振り返って、その苦悩の中を生き抜いてきた話です。実在する人物が登場するため各所に仮名を使わせていただいています。

隆子が小学六年生頃のこと。

その日は休みだったのだろう。

父、真一は家にいた。


隆子はおやつがわりに、ジャガイモを鍋で茹でて食べようとしていた。

子供ということもあり、料理とも言えないただ茹でるだけの単純な調理法だ。

ジャガイモはとれたてではなく、芽が伸び始めていたので季節は春頃だったのかもしれない。

隆子は、ジャガイモを水で洗うと鍋に水とじゃがいもを入れて柔らかくなるまで茹でると、熱々の芋を食べ始めた。


その様子を父、真一はじっと見つめていた。

いつもは無関心な真一が、じっとこちらを見ている。

心なしか、ギラギラした異様な目でこちらを見ていたため、何の変哲もない一シーンが妙に印象に残ってしまった。


一人で食べるのは悪いかと思い、隆子が「父ちゃんも食べる?」と聞いた。

「いや。俺はいらねえ。」と返事が返ってきた。


隆子が芋を口に含むと、何だか美味しくなかった。旬が過ぎているので仕方ないのかもしれない。

でも、せっかく茹でたジャガイモだし、お腹も空いていたので食べ続けた。

そのうち、口の中がイガイガして気持ち悪くなってきたので食べるのをやめてしまった。


そんなことがあったということを、すっかり忘れてしまった。


しばらくしてから学校の授業でジャガイモの芽と日光に当たって緑色になったところには毒があるので食べてはいけないと習った。

あの時、美味しくなかったのはそのせいだったのだと初めて知った。

隆子は、伸びた芽も皮もそのままで茹でてしまっていたのだ。

流石に芽までは食べなかったが、薄皮を剥がしても緑色のところは確かに残っていた。それを食べてしまったのだ。

でも、あの時には口の中がイガイガしただけでそれ以上のことは起きなかった。


長年農業をしていて、知らないはずはないだろう・・・なぜ真一は黙って見ていたのだろう?


そんな軽い疑問も、いつしか頭の中から消えていった。


1〜2年過ぎた頃、滅多に引き出しの掃除なんてしない私が、気まぐれに茶の間の引き出しの整理をしていた。

いらないメモや期限の終わったチラシなど、ごちゃごちゃ入っている。

一応確認しながらいらないものは捨てていくと、なにやら大事そうな書類が出てきた。

賞状のように縁取りされ紙質もその辺のチラシとは違う。見ると、証券と書いてある。

「!!!」

「生命保険 被保険者 寺川隆子」


期限は切れていたが、その保険期間は私が小学六年生の頃の日付が記入されていた。

謎は解けた。


あの日の真一の不思議なギラギラした視線の。


「あの、オヤジめ!!」

同時に、見てはいけないものを見てしまったような、やり切れない気持ちが湧いてきた。


事故に見せかけて手を下す計画でもしていたのに自分の手を汚すことなく、隆子が勝手に毒を口にして死んでくれるのを、固唾を吞んで見ていたのだろうか。

(考えすぎだろうか)

改めて考えても当時の我が家は貧乏で、無闇にお金を払ってまで子供に生命保険をかける理由など、どこにもなかったのである。

嫌な家庭だったけど、まさかという気持ちだった。


父、真一が帰ると茶の間の引き出しを整理したことを伝えた。

真一は、少し動揺の表情を見せた。

いつもなら、気に入らないと怒り出すのに、何も言わない。

私も、それ以上は言わなかった。


隆子自信は自覚はなかったが姉や叔母が、隆子のことは末子だから可愛がっていると言っていた。

山や川に遊びに連れていってくれたこともある。


中学生の頃に父と二人でどこかのダムを見に行ったことがあった。

父は、釣りをしようと思っていたが何も釣れなかった。

他に真一よりも少し若い男の人が一人きていた。

相手の人が何か言った。

父の声が聞こえた。

「いや。娘だ。」


車に戻ってきた真一は、少し憤慨していた。

「ひとの娘に色目使いやがって!」


父との大半の思い出は「ダメな父親」としてのところですが、時々まともに注意してくれたり、教えてくれることもありました。

「親」の一面と「鬼」の一面

両方を隆子は知っている。

そしてそれ故に、葛藤を抱き続けて苦しんできたのも事実。


姉達は中学校を卒業すると、それぞれ寮生活をするために家からいなくなっていきました。

父、真一。

継母、ミヨ。

そして、隆子。

姉達がいた時とは違う生活。


酒を飲んで腰をおろすと、周りに命令しだす真一。

「おい、隆子。あれ持ってこい。」


家事はほとんどしない、ミヨ。

「隆子、これやって頂戴。」


今までは姉と分担してやっていたようなことが、隆子ひとりに回ってきました。

真一もミヨも、あれも、これも、自分たちがやるのを面倒がって、何でも隆子にやらせようとした。

家の跡取り問題も、誰になるのか解決していない。

家に残っている隆子に、期待が寄せられ始めているようにも感じられた。


隆子は小さい頃から抑圧されて、反抗出来ない環境で来てしまったために、条件反射のように動いてしまうようになって、反抗期さえもなく不満だけを心に抱いて大人へと向かっていました。


渦中にある時には自分も周りの人も実は見えてなくて、その本当の姿は「未熟な人間」。

それを知った時に、もっと大きな目と言いますか愛情ある眼差しが生まれて、人を許したり、ちょうどいい距離の置き方ができるようになったと思います。


何度か「冷たそうな顔をしている」と言われたことがある。

今思えば長い年月、幸福感のような感情は持っていなかったように思う。


本家の後継をお読みいただき、ありがとうございます。

この続きは、また次回に。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?