頭を持ち上げるエクササイズについて①

ピラティスでは、頭を持ち上げるエクササイズがたくさんあります。頭を持ち上げること自体ができないという方は少ないかもしれませんが、頭を持ち上げ続けることだったり、脚を伸ばすシングルレッグストレッチのように動きを伴った中で頭を持ち上げることは簡単ではないと思います。

頭を持ち上げることを難しく感じている人、持ち上げられ続けない人は、ほぼ例外なく、首の筋肉を強張らせています。頭の重さは約5kgもあり、その頭の重さをか細い首で無理をして支えているので、時間の経過と共に苦しくなってきてしまうのです。

ピラティスに限らなくても、頭を持ち上げる腹筋運動(クランチ・シットアップなど)の目的は首の筋肉を強張らせることではありません。首の緊張を可能な限り落とし、頭を持ち上げることができる必要があります。

一般的なトレーニングの場合、腹直筋の強化を目的にしていることが多いようです。この後に紹介する腹横筋に比べて表層にある大きな筋肉です。この筋肉を鍛えることで「シックスパック(腹筋を割る)」を作ることができます。

理由はいくつかあるのですが、ピラティスではこの筋肉をターゲットにして何かのエクササイズをすることはありません。見た目には逞しさを感じさせるのでボディビルなどの外見を競う競技では重要視される筋肉ですが、フィギュアスケートの羽生選手や野球のイチロー選手の腹筋がボディビルダーと同じように割れているでしょうか。身体の本来の機能性に着目すると、実は腹直筋は姿勢を維持するために普段の生活で十分に働いています。ですので、腹直筋にフォーカスを当てて強化することをピラティスではおこないません。

筋肉の繊維は鍛えると、ご存じの通りで太くなっていきます。ですが、太くなると同時に短くなります。ボディビルダーがわきに腕がつかなかったりするのもこのためです。腹直筋は肋骨や骨盤などのないエリアである腹部にある内臓を保護するために、もともと強さのある筋肉です。この筋肉を鍛えて筋繊維が太くなるとどうなるでしょうか。脂肪の量が変わらないのであれば、胴回りは太くなるでしょう。あるいは内臓を圧迫するかもしれません。そして、筋繊維が短くなるとどうなるでしょうか。短くなるということは、下部のろっ骨と恥骨(骨盤の前側)の距離が短くなるということです。猫背になるということです。という訳で、私はこの筋肉は強化するよりも、より筋繊維の長さがあることが美しく機能的な身体にとって必要だろうと考えています。

エクスパンショナルピラティスではより体幹の深層にあるインナーマッスル、腹横筋に着目していきます。

腹横筋はその名前の通り、筋繊維が横に走っています。最初に紹介した腹直筋が筋肉の走行(流れ)が縦に走っているのとは対照的です。この筋肉は筋膜を介して、背骨の深部にある多裂筋という筋肉についています。腹横筋を上手につかって頭を持ち上げることができると、頭を持ち上げるときにお腹がグッと盛り上げるようなことはありません。次回もう少し詳しく説明していきますが、腹横筋は背骨側に筋肉がついているので、頭を持ち上げると少しお腹は薄くなっていきます。

頭を持ち上げる動きのこの使われる筋肉の違いを体感することは、他のトレーニングではなく、ピラティスをすることの醍醐味です。実際にその違いを体感そのためには、動きの質に目を向ける必要があります。

動きの質について考える時に、私は「支点・力点・作用点」の話をします。このてこの絵でいうと作用点側(左)に頭があるという形になります。頭を持ち上げるというよりは、力点側である体幹の腹横筋の収縮が起きれば、自然に頭は持ち上がるとも考えられます。そのために重要なことは「支点はどこであるのか」ということと「どうすれば腹横筋のスイッチがオンになるのか」ということになります。

腹直筋を使って頭を持ち上げる場合にはどこが支点であるかなど、考える必要もないでしょう。ですが、体幹の深層部にある腹横筋を使って頭を持ち上げるにはコツ・テクニックが必要なのです。この続きは、次回。

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