『セクシー田中さん』と芥川龍之介

 「今ごろ気づいたの」って思われそうだけど、『セクシー田中さん』の作者の芦原さんはイジメで自殺したって事だよね。橋本治が「芥川龍之介はイジメで自殺した」って『広告批評の橋本治』で書いてたな。これに岸田秀の『続ものぐさ精神分析』に収録されている『シニシズムの破綻』を足すと、、、

 芥川龍之介は『鼻』が夏目漱石の大絶賛を浴びてデビュー。続けて『羅生門』がベストセラー。それにより他の作家たちの大きな嫉妬を買う。当時の大正文学は私小説の時代だ。「芥川くん、自分のことを書きたまえ」と言われ「私の母は狂人だった」の『点鬼簿』を書く。この頃から芥川は精神的におかしくなっていく。でももしかしたら母の病気など芥川にとっては本当はどうでもいい事だったのかもしれない。もともとあったニヒルさが鬱と共に加速し『侏儒の言葉』になる。今読むと、病んだ人間が書くやたら否定的で冷笑的なネットの書き込みと芥川の『侏儒の言葉』はすごく似ている。人が生きるには信じる価値観が必要だが、人にした批判はそのまま自分に跳ね返ってくる。何もかも冷笑した芥川には信じられる価値観はもうなくなってしまっていて、自殺するしかなかった。

 芥川龍之介の小説を年代順に読んでいくと、イジメられやすい人間の特徴。どういうイジメに遭うか。イジメにあった人間がなにを考えるか。鬱の思考から自殺するまで。イジメられて自殺する人間の典型がどういうものかがわかる。
 でも「いじめ被害者の典型例としての芥川龍之介」みたいな考察ってあんまり聞かないんだよな。

 という訳で岸田秀は芥川に対して批判的に書いていたが、私は同情的である。

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