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ウクライナを見限る高学歴移民~人材流出が欧州の民主化を阻む

エコノミスト 2019年4月6日号
Charlemagne: Eurpe’s other migration crisis

<記事内容紹介>
ウクライナの大統領選は、コメディアンのウォロディミル・ゼレンスキーが現職大統領を破って新大統領となった。元ソ連領だったウクライナは、今は独立して民主主義国家となっているが、寡頭政治と汚職がはびこり、言論・報道の自由が制限されるなどまだ欠陥が多い。

ウクライナでは2013年から2014年にかけてマイダン革命と呼ばれる騒乱が起きたが、これはEU加盟を凍結した当時の政権に対する国民の猛反発から始まった。この騒乱はロシア軍の介入を招いてクリミア侵略に発展したが、このことでウクライナの対ロシア感情は決定的に悪化し、ますます親EU路線に傾いていった。

そのような中、2017年にビザが自由化されて、ウクライナの人々はヨーロッパを自由に旅行できるようになった。ウクライナ人の多くは、文化や言葉の壁が少ないことと経済発展にひかれて隣国ポーランドに行った。ポーランドに住むウクライナ人は、2013年の約20万人から、今は150万人に及んでいる。今のウクライナ人移民は季節労働者等ではなく、若くて教育水準が高く、三分の一が大卒である。

単位は金で買うのが当たり前のウクライナの大学に見切りをつけて、ポーランドの大学で博士号を取る学生もいれば、多くの起業家も、EUの経済の中心ドイツへの踏み石として、ポーランドに移っている。国を変革できる立場にある人々が国外に流出してしまっている現状は、ウクライナにとって致命的だ。そして、ウクライナから移住した高学歴高スキルの若い移民の人たちは、祖国がましな状況になるまで、戻るつもりはないという。

パスポートなしで国を移動でき、航空運賃が安く、英語の使用率が高まり、大学教育が国際化したというEUのメリットのおかげで、今は欧州間の移住が容易になっている。そのメリットをいちばんよくわかっている高学歴移民たちは、しぜん欧州の中心部へと引き寄せられていく。EUの本拠地ブリュッセルでは、欧州議会の外のカフェテラスに大陸じゅうの若手の役人、政治家、アドバイザーたちが集って、欧州の英知について語り合っている。つまり、最も親EU派でそれを祖国に広めるべき人々が、自国を去ってEUの本拠地に来てしまっているということだ。

2016年のEUの調査によると、2000年から始まった東欧からの高スキル移民の流出と、その14年後の東欧諸国の政治の質との間には、著しいマイナスの関係があることがわかったという。近年のこの東欧諸国からの高スキル人材流出の影響が表れるのには、同様にまだ少し時間がかかるだろうが、有能な人材の流出によって、東欧諸国の民主化が遅れることが懸念される。

<comment>
ウクライナその他、東欧諸国に関する問題は日本人にとってはなじみがうすいというか、なかなか理解しにくいですよね。今回の記事も難しかったー。

世界地図を見ると、ウクライナはヨーロッパ大陸のロシアよりの位置にあって、新ロシア派と親EU派がせめぎ合うお国柄なのがわかります。ウクライナはEUにはまだ未加盟ですが、プーチン大統領によるクリミア侵攻という出来事もあり、やはりロシアよりは民主主義のEUのほうがいいな、って、そりゃそう思いますよね。それでマイダン革命が起きたわけですね。

優秀な人材が国外に流出することを、英語でbrain-drain(ブレインドレイン)といいます。ウクライナはまだまだ政治腐敗がひどくて、大学も賄賂で成績買うのが当たり前という質の低さ、それで将来のある若者はみんな国外へ出て行ってしまうわけなんですね。移民=貧しくて困っている人、みたいな先入観を抱きがちですが、高学歴移民も多いのが今の世界です。

リベラルな考えをもった優秀な人材がどんどん国外に流出してしまうと、国内に取り残されるのは、貧しかったり教養がなかったりして、国を変えるほどの力を持てない人々ばかり、そうなってくると、トランプ大統領みたいな、ポピュリズムで民衆を煽るような人が選挙で当選しがちになるわけで、政治の質はますます落ちていきますね。

さて、ウクライナ大統領選で勝利したゼレンスキー氏って、元はテレビで大統領のものまねをしていたコメディアンなのだそうです。その人が本当に大統領になってしまうなんて、すごいですね。それほど前大統領に対する国民の不満が大きかったってことなのでしょう。新大統領の下、ウクライナがどのように変わっていくか注目ですね。ウクライナを出て行った人たちが戻ってきたくなるような社会に近づくといいのですが。

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