見出し画像

ブラジルの政治談議 第1回「三権分裂と自分一人の民主主義」

#ブラジルの政治談議  第1回
#月刊ピンドラーマ  2006年6月号
#高山直巳 (たかやまなおみ) 文

 昨年のブラジルの国会は議員のヤミ資金疑惑で揺れ続け、議員たちは本来の仕事である法案審議をしないまま、とうとう1年が過ぎてしまった。今年は選挙に追われ、またまた国会は空転することになろう。

軍政からの開放

 そもそも国会は立法機関であり、本来の役目は法律の審議・制定であるが、その効率は極めて低い。それは特に民政移管された1985年以降の特徴でもある。

 ブラジルは1985年までは軍事政権であり、それまでは軍人のサーベル(軍刀)の権威で強権政治が行われていた。この時代、政府に対し楯突こうものなら牢屋にぶち込まれたり国外追放された。そのため、法律においても大統領の鶴の一声で、ある日突然、大統領令(Decreto-Lei)が発令され、即刻施行されたものである。

 ところが、1985年民政移管されたことで政治の主役は行政府から立法(国会)に移り、1988年の共和国憲法によって、それは一層強化された。それ以降、軍政から解放されたブラジル国民は誰もが「デモクラシー!デモクラシー!」を叫ぶようになり、政治の表舞台に立った議員たちは誰に臆することなく自由に発言できるようになった。

ブラジルの政治家気質とは?

 民主化は結構だが、問題は政治家たちが口先では天下、国家を論じながらも、その実「自分一人のための民主主義」を謳歌し、個人の利害が国の利害に優先するようになったことである。当然党や国会はまとまるはずはなく、国会は空転するばかりである。最大政党のPMDBは政府支持派と反政府派が混在し、その時々によって与党にも野党にも早変わりする。与党から出馬した候補者が当選後、野党に鞍替えすることも珍しくない。重要法案の投票決議となれば利害関心がさらに鮮明化する。これがブラジルの政治家気質である。

三権分裂⁉

 またこのような混乱は、国会だけにとどまらない。行政府から出された法案が国会でことごとく修正され通過したと思ったら、今後は裁判所(司法)が違憲判決を下すことも珍しくない。これを人は「三権分立」ならぬ「三権分裂」と呼ぶ。一部の歴史家は「ブラジルには近代という時代が欠落している」と論じるが、西欧が数百年の歴史を経て辿り着いた政治体制を、ブラジルは言わば出来合いの箱だけ持ってきて論議しているようなものであるため、至る所にほころびが出てくるのは避けられないということである。

 日本の「政冷経熱」にたとえるならば、2005年のブラジルは「政迷経涼」といったところか。今年は少なくとも政治に邪魔されることなく、順調に経済は成長して欲しいものである。


高山直巳(たかやま なおみ)
日本企業へ政治経済情報を発信するジャパンデスク社代表。
e-mail:jd@nethall.com.br


月刊ピンドラーマ2006年6月号
(写真をクリック)

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?