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2020年のヒット達とコロナ禍

2020年最も聴かれた曲は、Official髭男dismのPretenderだったそうだ。2019年リリースの曲だから二年跨ぎで聴き続けられているということになる。
この曲は、好きな人との恋愛が成就しないことを悟りながらも、想いを捨てきれない男の葛藤を歌っている。両想いで付き合い始めたものの、生活のリズムが違ったり、お互いの人生のタイミングが合わず、好きなのに上手くいかない。そして同時に、そんな状況に置かれながらもなかなか踏ん切りをつけきれない弱さや甘さ、そして人間の優しさを曲の端々から感じることが出来る。そういう恋愛の不条理は、誰もが少なからず経験して来ているだろうから、この曲は多くの人から共感を集めたということなのだろう。

芸能界ではお笑い芸人のぺこぱが、2020年ブレイクタレントランキング1位になった。2019年元旦のテレビ番組おもしろ荘で花開いて以来、ジワジワと認知度が上がり、第七世代の代表として今では観ない日は無い。彼らの漫才スタイルはノリ突っ込まないというもので、シュウペイの訳の分からないボケに松陰寺太夫がノリツッコミの要領で乗っかるが、最終的につっこまずに受け入れる。突っ込まない漫才なんて成立するのか?と思いきや、これが見事に成立していて、突っ込まないことがツッコミになっているという、珍妙なパラドクスがメリハリとなり、ネタの構成も相まって笑いが加速する。
これまでの漫才の構図ではボケ=不条理に対して、ツッコミ=破壊の対立が一般的であったのに対して、ぺこぱの漫才においてはツッコミが許容という役割に変化しており、そこに見出される優しさがみんなの共感を呼んだのだと思う。ここでもPretenderと同様、不条理に対する優しさという構図が共感のファクターになったと言える。

そして2020年最大のコンテンツは間違いなく鬼滅の刃だった。漫画、アニメ、映画という三段構えで、どれをとっても大成功。近年稀に見るコンテンツ主導のムーブメントとなっている。これから観る(読む)人もいるだろうから多くは書かないけど、この作品は不死の人喰い鬼と、死すべき定めの人の子の戦いという古典的な題材を、個性的で魅力的なキャラクター達を通して描いた作品である。
個人的な見解ではあるが、鬼滅の刃と一般的なバトル物作品との違いは、敵である鬼がとにかく強く、最後まで強くあり続けること、対して人間はあくまでも人間のままで、多少強くなってもやっぱりちょっとしたことで身体は欠損するわ、ころっと死ぬわ、なかなかに現実的な点にある。それ故に最後まで目を離すことができないのだ。物語の後半で敵のボスが言うセリフに下のようなものがある。

私に殺されることは大災に遭ったのと同じだと思え

雨が風が山の噴火が大地の揺れがどれだけ人を殺そうとも天変地異に復讐しようという物はいない


鬼は天災なんだから、それに出くわして死んだことを気にしたって仕方ないじゃないかという言い分である。もちろんこの言葉に主人公の炭治郎はブチギレてバトルはより熾烈になるわけだが、このセリフはこの作品の対立構造を明確にしている。つまり鬼=不条理の象徴であり、それに立ち向かう人間達の、何代にも渡って受け継がれ、残り続ける意思こそ、この作品の核となる構図だと言える。

そして鬼滅の刃を特別な作品としているもう一つの要素は、物語全編を一貫して流れている『優しさ』である。この部分が今まで少年誌でヒットしてきたバトル物と一線を画している。優しさとはなんぞや?と言われると具体的にコレであると言えないのがもどかしいのだが、炭治郎を始め主要人物達全員のサブストーリーには優しさが常に寄り添っているように感じる。それは敵である鬼でさえも同様で、描かれる背景には優しさがある。これはもう既に作者の母性のような領域にあるもので、テクニックだとかこの場面が云々だとかそういうことでは語れないのだが、強いていうのであれば丁寧さ、誤解を恐れずに言うと女性の手による丁寧さみたいなものが、作品全体を包み込んでいることが、鬼滅の刃を特別な作品たらしめている。

三者に共通している不条理に対する優しさという構図は、何も2020年に突然現れたものではなく、名だたる文学作品に通底する古典的なテーマである。では何故2020年にここまでバンバンと表出して来たのか考えると、やはりそこにはコロナ禍の影響があるのは間違いない。近年最大のこの不条理に対して、今のところ人間は無力で成す術もなく立ち尽くしている。その中にあっても人は心の炎を絶やさぬよう、人との関わりを通して励まし合い、助け合い、どうにか生活してきた。この現実が先に上げた作品に共通する不条理と優しさに共鳴し、大きなムーブメントとなっているように感じる、というのは言い過ぎだろうか。

2021もこのままいくとこの不条理は続くだろうし、2021年どころかこの先ずっと状況は変わらないかもしれない。そんな不安な状況の中で僕達が戦い続けなきゃいけないとすると、そんな不条理に対抗し得る武器はきっと優しさしかない。

2021年も人にやさしく。

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