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新入生代表挨拶

つい先日まで日ごとに寒さがつのり、冬の訪れを感じていたところだったのですが、気づけば暖かく、柔らかな緑色の風に優しく包まれ、色とりどりの花が咲きそろう季節となりました。

こんな風情のある良き季節に新しく旅路を歩める事ができるのを、心より嬉しく思います。

私たちがこうして新しい旅の入り口に辿り着けたのは、入学試験を突破するために苦汁をなめながら必死にペンを走らせていた過去の私たちが存在したからです。

しかし、それだけではありません。

そこには、勉学に勤しむ私たちを陰ながら支えてくださった親、そして学校の教員を始めとした方々の心労もまた隠れているのです。

さらに、私たちが最も認識しなければならないのは、私たちが勉学に安心して励めるような環境を整えてくれた先人たちがいたということです。

なので、今度は私たちが、後世の人達のために尽力する番なのです。

このようにして人類、いや、生命のバトンは渡されていくのです。

万物は流転するというように、生命もまた長い年月をかけて何度も何度も変化を繰り返し、胡麻よりも遥かに小さな生命から、歩くだけで大地を揺らす程大きな生命にまで至りました。

そしてその生命の変化は、やがて私たち人類にたどり着くのです。

人類は他の生命とは違い、体だけでなく脳も働かせる生命でした。

知恵、努力、忍耐、勇気を持ち、己の夢を、現実に変えてきました。

その中でも数々の偉業を打ち立てた人間は、後の世の人間達から偉人と呼ばれるようになったのです。

また、夜空に煌めく星の数ほど多い偉人の遺した足跡をたどらんとして次世代の芽が育まれ、その芽はやがて大樹へと成長し、萎び、次世代の種子を落とします。

私たちの人生そのものは細流ではありますが、塞がざればやがて大河となる。

それがまた生命の変化の足跡を増やすのです。

こうして積み上げられた人類の弛まぬ研鑽は、長い長い足跡を刻み、その果てで、私たちに電波を与えました。

突如として現れた世界の常識を一変させる程のこの概念は、今日もまた遥か遠くに見える地平線をも超えて、見知らぬ土地の誰かの元へと運ばれて行きます。

文字の羅列から成っているだけの私たちが所属するこの単純な電波の世界では、すでに社会が完成しつつあり、さらに社会の秩序を保つための法律までもが存在しています。

ここがこれからの人類の生きる世界となる日もきっとそう遠くはないでしょう。これもまた流転の一部であると言えます。

この電波の世界では、声の大小や容姿を気にすることなく自由に言葉を放る事が許されています。

そのため、現実世界では陽の光を浴びる事のなかった人たちが、冬眠から覚めた蛙が如く地中からモゾモゾとはい出てくるようになり、現実世界で現す事が出来なかった頭角を現すようになったのです。

そんな頭角を現した蛙のうちの一匹に、彼はいました。

しかし蛙と言ってもテツカブラ、蛙の中でも秀でた才能を持つ者として電波の世界に悠然と君臨しており、発見されて間もない電波の世界において既に並々ならぬ存在感を放ち、そして数々の格言を残したのです。

今日は果てしなく広がる砂漠の砂粒の数よりも多い電波人の中から一人、私の敬愛する彼の事を、紹介しようと思います。


彼は挑戦者でした。

何度も何度も心を折られようとも、聖地エルサレムの奪還を目指し何度も何度も進軍した十字軍が如く、憧れである東京大学理科三類に挑み続けました。

何度も何度も立ち上がり、空の彼方に浮遊する東京大学の中でも最も狭き門である理科三類を、蝋で出来た今にも崩れ落ちそうな翼で目指し続けたのです。

そして彼の知恵、努力、忍耐、勇気がもたらしたのか、いつしか彼は憧れの大地、東京大学理科三類という大地を踏むことが許されたのです。

しかし、彼はかの憧れの大地に辿り着いてからも、なぜか挑戦者のままでした。

悠久の時を高校範囲と過ごし、同期が立派な医者になり、自身の人生に集中する傍らで、彼はすでに合格しているはずの東京大学と、誰もいないところで1人戦い続けているのでした。


彼の心臓は鋼で出来ていました。

どれだけ矢を浴びようとも屈する事はありませんでした。その矢の中には、彼の心臓を貫かんとするものもありました。

ただ彼は鋼で出来た心臓を持っているため、その矢をなんなく防ぐことができたのです。

そして鋼で出来ていない心臓以外の部分に矢の刺さった無惨な体を必死に動かし、彼は「お前らの矢は全く効いていない」、と大衆に向け唾を吐きかけるのです。

身体の至るところに深く矢じりが突き刺さり、彼はそれらを引き抜くごとに大量の血を流すことになりました。

それでも彼は、血を流す程に自らを鼓舞し、血を血で拭い、戦い続けました。あまたの人たちから後ろ指をさされ、嘲笑されようとも、戦い続けました。その姿はまさに戦いを好む神である「阿修羅」のようでした。


彼は漫才師でもありました。

毎日毎日中身のない言葉を大衆に向け発信し続けては、人々を笑わせていました。

最初はみな、それらがとても20代後半の者の言葉とは思えなかったので、見た者はただただ身の毛がよだつだけでした。

しかし、それにも関わらず、毎日毎日言葉を発信し続けるので、大衆はやがて、ネタでやっているのではないか?と思い始めるようになり、その言葉は次第に人々の笑いを誘い、やがて彼は大衆から漫才師として脳裏に刻まれる事となったのです。

これだけ書き連ねようとも全く足りない彼の生き様は、本人の意思とは裏腹に、私を始め、多くの人々に笑顔を届け、そしてまた、多くの人々の琴線に触れました。

彼は電波の世界にいる子供たちに笑顔を届ける、そう、きっと彼は季節外れのサンタクロースだったのです。

そんなサンタクロースですが、時には彼の持つ自慢の杖を大衆の前に晒され、そのあまりの陳腐さに笑われたこともありました。

時には10歳年下の受験生にマウントを取るさまを笑われたこともありました。

彼はそこで

「俺は自分の杖よりも、B判定の模試を晒される方が恥ずかしい」

「勝負の世界で目上の者によく敬語を使わずにいられるものだ」

と呟くのです。

自身の陳腐な杖を露出させながら声を大にして大衆に向け言葉を投げかけているあまりに説得力のない滑稽なこの姿に、私の腹筋が部位破壊されたのはいうまでもないでしょう。


しかし、どれだけ凄まじい物でも、始まりがあれば終わりもあります。盛者必衰。

いくら彼という豪傑であろうとも、四面から楚の歌が鳴り響く中で、動くたびに手足を射られ続けられるのには耐えられなかったようです。

そんな彼はやがて全身青あざ塗れのグロテスクフロッグと大衆からレッテルを貼られ、その後は自ら電波の世界から絶ったのです。

流石の彼もあの総攻撃を耐え抜くことはできなかったか…誰もがそう考えました。

しかし数日後、Xを開いた皆の目に飛び込んできたのは、何事もなかったかのように電波の世界へと舞い戻ってきて、何食わぬ顔でポエムを書き散らしている彼の姿でした。


そして彼はまたこう呟くのです。

「俺は理科三類の首席点を超える点数を取る男だ」

この流れを繰り返していく内に、彼の明るく前向きな思考は、彼の姿形をも変化させ、蛙はやがて二足歩行をし始めます。猿が人類になるまでの過程を1人で体現した彼はさながらシンゴジラのよう。

ゴジラ級の面の皮の厚さと、ポエム書いて誤魔化しときゃ誰も追及しないだろ、といった良くできた考察を掲げて、彼は何度も電波の世界から飛び立ち、何度も電波の世界に舞い戻ってくるのです。

こうして彼はどんなに白い目で見られようと放射能を撒き散らすことをやめず、10歳年下の受験生に対して内閣総辞職ビームを放つカスのシンゴジラと化したのでした。

そしてつい先日、彼は2024年の東京大学の入学試験が終わった直後、また忽然と姿を消してしまいました。

どうせいつも通りすぐ戻って来るだろ、と皆考えていました。

しかし、今まで彼が入試終了直後に東京大学の入学試験の問題の講評をしなかった年はありません。

それを思い出した皆はこう考えました。

「ひょっとして彼はもう、受験についてのポストをしなくなってしまったのではないか。だからもう戻ってくることはないのではないか。」

彼は今度こそ本当に消えてしまったのでしょうか。

理科三類の試験会場で友人達と談笑していた彼の姿はもうどこにもいなくなってしまったのでしょうか。

ルシファーと同レベルと言われ、鍵垢にてルシファーに対する呪詛のような文言を書き連ねた彼はもうどこにもいなくなってしまったのでしょうか。

彼のような偉人が電波界を去る事を望まない人は私だけではありません。

きっと彼は、サクラサク入試成績の開示の日に何事もなかったかのように、大した事のない成績を貼り付けながら何喰わぬ顔でポエムを綴る事でしょう。私はそう信じています。

仮に消えてしまったとしても、彼は、間違いなくこれから長く続くであろう電波世界史の黎明期に名を深く刻むことができた1人であることは間違いないでしょう。電波界のアイスキュロスであります。



この話を聞いた皆様がこの話をどのように受け止めるかは自由です。

しかし、彼のような偉大な人間が過去にもたくさんいたからこそ、私たちは今このようにして大学入試を受け、大学に入学できているのかもしれないということを、私たちは忘れてはなりません。

皆様のようなカス人間が輝ける場所を作り上げることが出来たのも、このような偉人が血反吐を吐く思いで必死に努力してきたからなのかもしれませんね。

私は私たちの生活が過去の偉人達の弛まぬ努力の上に成り立っているということに日頃から感謝し、入学後も自分のため、自分の身の回りのため、そして後世の人たちのために勉学に励んでいくことを、新入生を代表し、ここに宣言します。



2024年4月1日

新入生代表 平和

p.s.

このように何度も受験している彼ですが、実は将来の夢は格ゲーマーである。という噂が立っています。本当かどうかは神、いや、それこそ阿修羅のみぞ知ることなんでしょうね。

はて、何故私の口からはただの「神」ではなく、インドの神「阿修羅」が出てきたんでしょうね。不思議な事もあるもんですなぁ。永遠の謎となることでしょう。



※この話はフィクションであり、実在の人物・団体・出来事などとは多分一切関係ありません。








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