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2020/03/26 《改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン》@紀伊國屋ホール

出ている俳優だけで観ることを決めた作品。あえて梗概も読まず、まっさらな状態で臨む。
キッチュでゴージャスで、もう最高だった。

2020年はつかこうへい没後10年にして、つか作品が次々と上演されるのだという。そのうちのひとつが、本作「熱海殺人事件」だ。つか氏自身による異本が複数ある作品だそうで、部長刑事・木村伝兵衛も様々な性質の人物として描かれているそうだ。今日観た「モンテカルロ・イリュージョン」版の木村(多和田任益)は同性愛者として登場する。

オリンピック出場予定だった人物たちが関わる二つの殺人事件の物語は、登場人物それぞれの素性や背景が明らかになるにつれて二転三転する。そこにたくさんの歌(これが全部子供の時分に馴染んだ1980年代の懐かしい曲ばかり)が絡まり、混迷を極める。でも、それがいい。いちいちが馬鹿馬鹿しくて悪趣味で、それでいて、否、だからこそおもしろい。

別に演劇をたくさん観ているわけでも詳しいわけでもないけれど、自分の想像力とか先入観とかそういうものを一切合切吹き飛ばしてくれるのが演劇のおもしろさだと思っている。それを目の前で生身の人間によってなされていることが、本当に凄い。以前も書いたけれど、演劇は現実にある魔法だ。

舞台は一幕、4人だけの芝居。熱演に次ぐ熱演。
美しいものも、醜いものも全部全開。
まさに「きれいはきたない、きたないはきれい」だ。
見えてくるのは、それぞれの愛のありかた。

カーテンコールは繰り返され、終演のアナウンスが流れても拍手は止まず。スタンディングオベーション。

これを書いている22時35分の少し前、東京都による外出自粛要請を受けて28日(土)・29日(日)の休演告知が出ていた。公演後に発表されたらしい。
《モンテカルロ・イリュージョン》は異本《ザ・ロンゲストスプリング》と2本立てで上演されているのだが、この休演決定により、結果として今夜の《モンテカルロ・イリュージョン》が東京千穐楽公演となった。

開演前、多和田任益さんがTwitterで「舞台に立てることは当たり前じゃない、そして皆さんの健康も当たり前じゃない。今日もこれからも一日一日大切に、板に向かいます。」と書いているのを読んでいた。本当に今は、どういう状況になるのか分からない。休演の知らせで改めてそう思う。

そして、今日《モンテカルロ・イリュージョン》を観に来てよかったとも思う。大阪には《ザ・ロンゲストスプリング》しか上演予定がなく、東京の次の《モンテカルロ・イリュージョン》は福岡公演しかない。とはいえ、世の中の状況を考えると軽率だと思わないでもない。実際、チケットは売れているのに客席には空席も見られた。しかし、音楽や演劇などの分野の苦境を思うと、中止や延期が決まったものはどうしようもないが、幕が上がるのならば応援したいと思ってしまったのだ。

次は来週末、大阪で《ザ・ロンゲストスプリング》。無事、幕が上がりますように。

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《2020/03/26 補記》
つかこうへい演劇館では、本作《モンテカルロ・イリュージョン》の脚本が公開されていました。帰ったら、読んでみようと思います。楽しみ。


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