縁者な僕ら
「あ~もうイライラするなぁ~なんで女ってあんなに責任感ないの?」
私が愚痴を聞かせるために呼び出した男友達は、
「まあ、そんなもんでしょ、女子は。」
とさらっと話を終わらせた。
居酒屋の目の前に置かれたメニュー札に、
『おかげさまで3周年!最初の1杯すべて半額』と書いてある文字を見て、
私はふと思い出す。
「ね、そういえば、もうすぐ誕生日だっけ?」
「あ、そうだよ。覚えてたんだ?僕の誕生日。」
「ううん、日にちは覚えてない。」
「えー、9日だよ。」
「てか、何歳になるんだっけ?」
「え?4回目の8歳。」
「何それ。」
「32歳。」
「げ!」
「何、げ!って」
「すっかりおじさんだなーと思ってさ。」
「あなたも変わんないでしょ。」
「だから、げ!なんじゃん!違う、学年だと一つ下だもん!しかも2月生まれだもんね~!しばらく30歳」
「つまり今は3回目の10歳だね、おねえちゃーん!」
「なんでやねん。」
「なら3歳の10回目でもいいでちゅよ?」
「ちょっと飲んでる時にやめて!吹き出す!3歳を10回って辛すぎるわ、何回トイレトレーニングしなきゃいかんのよ。」
「じゃやっぱ3回目の10歳にしといたら。」
「よくわからんけどそうする。でもさぁ、実は30なのにもし自分が10歳の女の子って思ったらやたらエロくない?私クラスの男子よりお使い先の魚屋のイケメンのお兄さんとかに恋しちゃいそう。」
「君、幹部クラスの男子狙ってるじゃん。」
「うますぎるな。」
「ニヤリ。さすがだろう。」
「魚屋のお兄さんに恋した実は30の私がさ、10歳のふりでお魚さばくの教えておにいちゃん〜とか言ってさ、貝とか見て顔を赤らめるの、うひゃひゃ。」
「突然下ネタぶっこむな。君はそんなこと言うてるから結婚できないのかもだぞ?」
「いいの、私まだ3回目の10歳だから結婚しなくて。」
「ぐぬう、そうだった。」
「魚屋のお兄さんを好きすぎて、私はやがて魚になりたくなるのよ、私をさばいてー!みたいな。」
「まだ魚屋の話続けるのかよ。んじゃ願いがかなって魚になったはいいが、市場で彼に仕入れてもらえなかったらどうするんだ?脂ぎった禿親父が買うかもしれないぜ?『へへへ、うまそうな子だ、どう料理しようか』とか言ってさ。」
「いきなり下ネタぶっこむね。」
「それは君でしょうが。」
「あー禿親父はいやだー!何のために私は魚になったの?!」
「そうか嫌か。じゃあチャンスをやろう。そこに魔女が現れる。人魚姫みたいに。この短剣で自分の胸を刺せば、元に戻れるよとか言うて。」
「何よ結局捌くのね、しかも自分で。」
「魚だからな。」
「ああ、でも私にはできないわ!だって、もう魚よ?ヒレで短剣持てないし。」
「そうして、君は暴れてそのまま海に帰り、彼を思いながら岩陰で暮らしましたとさ。」
「おわり。」
「魚屋さんとの恋は悲恋で終わったね。」
「まあ、どうでもいい妄想話だったな」
「うん、何の役にもたたないけど酒はすすんだかも。」
「明日も仕事だし、そろそろ帰るか?」
「そだね・・・あれ?」
「どした?」
「財布・・・会社に忘れたみたい!ない!やばい!」
「ああ、だいたいのことの犯人は主に…僕です」
「ぐふっ・・・ちょっともうー!やめて」
「てことで、僕が今日は払いましょう」
「うー・・・ありがとう、ついでに電車賃貸して。」
「僕の家ならここから一駅だぜ、しかも宿泊無料!安くつきますぜ姉さん。」
「電車賃貸して。」
「はい。」
店を出て、駅でそれぞれの電車のホームに向かう。
私は階段を下りる前に、いつも振り返る。
反対側の降り口に消えるあなたの姿に、ちょっとだけ名残惜しさを感じる。
いつも冗談ばっかりだから、 さっきのも冗談扱いにしちゃったよ。
あそこはちゃかさずに真剣に誘ってよね。
でも、この距離がきっと一番楽しいんだ。今日も、本当にありがとう。
きっと君は一度振り返る。
照れくさいから、そのまま気づかないふりをする。
そうして君が階段を降りだすと、 僕は急いで階段を上って、
君が反対側の階段を下りる姿を見つめている。
今はこれでいいんだ。
君が二度目に振り返る時が、いつか来るかな。
いつも冗談ばっかりしか言えないけれど、
今日も、君を笑わせることができてよかった。
次は、肝心なところで冗談を言わない勇気が持てますように。
『今日も、あなたが笑っていてよかった。』
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