もも

趣味は旅行。お仕事は文書を書いたり読んだり。

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心で見る景色

「きれいな景色を見せてあげる」 旅先で知り合った彼は言った。 彼は現地の男の子。 彼と私は夕暮れの中を歩き出す。 彼の歩くスピードはとても速い。 こっちの人は健脚なのかな、なんて思いながら必死で彼に付いていく。 彼は湖の畔をどんどん先へ進む。 徐々に陽は沈む。 もう何十分歩いただろうか。 辺りは真っ暗。 ここはネパールの田舎町。 もちろん街灯は皆無。 足元も見えぬまま、連れられてひたすら歩く。 ふいに彼が立ち止まった。 「ほら、きれいだろう?」 私には暗闇しか

    • 海を望む柑橘の街 ~已己巳己~

      「この街に住みたいな」 丘の上で一人呟いた。 背後には、宇和島城。 目の前には、キラキラ光る宇和海。 海沿いのその街はなぜか私のお気に入りで、幾度となく訪れている。 これだけ好きなのだから、移住するのもいいかもしれない。  愛媛は柑橘が有名だから、農業に関わったら楽しいかな?  美味しい宇和島鯛めしは日本酒に合うよね。漁業もアリかな?  じゃこ天はビールと最高のマリアージュ。 海を見ながらとりとめもなく考える。 でも、なんで私はこの街がそんなに好きなんだろう? 景色

      • 共同作業 ~袖摺れ~

        ガタンゴトン。 マッチ箱のような木製貨車に揺られる。 貨車の側面には雨除けのビニールカーテン。 滴る雨粒で視界はゼロ、体感湿度は100%。 厚いビニールの端を摘み、少しだけ捲り上げてみる。 隙間から吹く風が心地良い。 眼下に望むは高知の清流・四万十川。 意外に軽く、きれいに捲れたなと思ったら 向かいに座る男性も同時にカーテンを掴んでいた。 彼と目が合い、微笑み合う。 考えることは一緒だね。 「進行方向左には沈下橋が…」 観光案内に誘われ、またカーテンを捲る。 四

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          54字の物語(お題:都道府県):2020/10 Twitter応募済作品群

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        心で見る景色

          うちの主人が怪しい

          今日は休日。 休日の主人はいつも昼過ぎまでゴロゴロしていて、私が起こしてやっと起きる。 今日は誰かからの電話を受けると、寝たふりをしている私を横目にいそいそと出かけて行った。 昨年私のためにプレゼントしてくれた可愛いバッグを持って。 私は気に入らなかったら一切使わなかったとはいえ、そのバッグをどうするつもり? 私は耳がいいから、電話の向こうで女の声がしていたの、聞こえてるのよ? 私が主人と出会ったのは3年前。 街中で声をかけてきたのは主人から。 その後すぐに一緒に暮らし始

          うちの主人が怪しい

          アーモンド

          日本はまだ肌寒い3月、休暇である国を訪れた。 紛争、侵攻、爆撃、難民など、日常では縁遠いキーワードで 連日ニュースに上る国。 訪れる前は少しだけ警戒していた。 でも現地の印象は違った。 きれいに整備された公園には桜と見紛うような桃色の花が咲き乱れる。 満開の木の下では、幼児連れの家族やご老人が木を見上げてくつろぐ。 暖かな日差しの下、持参したごはんを食べながら。 あ、日本のお花見と同じだ、日本と同じ平和な国なんだな。 そのときは思った。 でも、日本に戻ってきてみれば

          アーモンド

          幸せの連鎖

          こどもは嫌いだった。 騒がしくて、理不尽で、話が通じない。 自分の人生に不必要な存在。 でも、独りの人生を虚しく感じていたとき、 「こどもがいる人生もいいかもしれない」とふと魔が差した。 パートナーと旅に出た、古いビジネスホテルでの夜だった。 旅の魔物に取り込まれたのかもしれない。 そして今、腕の中に新生児の息子がいる。 思っていた通り、四六時中騒がしく、理不尽で、話は通じない。 きちんと面倒はみている。 ただ、まだかわいいと思えないことが多い。 母乳とミルクを与え

          幸せの連鎖

          ウイークリーマンション

          京都の裏路地を歩き回って見つけたのはごく普通のマンション。 このマンションを十数年前に仕事で一週間利用した。 当時はウイークリーマンション。 付き合いたての職場の先輩と一緒だった。 錦市場で買い物をして夕飯を作って食べた。 夜は時間を持て余して色々な話をした。 同棲気分で楽しくて、私はこの人と結婚するな、と漠然と思った。 それから数年後、私たちは本当に結婚した。 さらに十年後の先日、私たちは離婚した。 思い出を整理している中、ここを思い出し、朧気な記憶を頼りにやっと

          ウイークリーマンション

          出発

          僕はこれから長い長い旅に出る。 ここまで10ヶ月かけて万全の準備を整えてきた。 抜かりはないはずだ。 えい!と足を踏ん張り、小さな一歩で前へ進む。 進む道は暗く狭い。 出発してからもう何時間が経過しただろうか。 全然進めていないことに僕は焦る。 道はさらに狭くなり、全身が締め付けられている気分だ。 苦しい、つらい、早くここを抜けたい。 さらに何時間もが経った後、声が聞こえてきた。 道を抜けた先にはたくさんの人がいるようだ。 僕は最後の力を振り絞って前に進む。 あ!

          旅する目的

          私は日常の変化が嫌いだ。 食事の予定があれば何日も前から憂鬱。 月に2回の不燃ごみの日ですら憂鬱の種。 そもそも予定があることが嫌。 スケジュールに書かれた予定は、安らかな心を掻き乱すイレギュラー。 だからスケジュールは白ければ白い方がいい。 つまらない人生を送っているな、と我ながら思う。 小さな世界の中で、平凡な日常を繰り返すだけ。 そんな私は休み毎にひとりで海外旅行に行く。 行き先はマイナーな国。個人旅行のフリープラン。 旅先では非日常の連続で、イレギュラーなこと

          旅する目的