カジノ誘致問題とシンガポールのソーシャルセーフガードについて

横浜がカジノ誘致の問題について揺れています。横浜の後は、大阪、沖縄も控えているとのことで、日本もカジノでお金を落としてもらう国になろうとしているようです。シンガポールにもカジノ、もとい総合型リゾート(IR)がありまして、2010年のオープンからこれまで継続的に収益を得ています。しかし日本とシンガポールを単純に比べることはできません。シンガポールがどういった経緯でカジノ誘致に踏み切ったのか、また国民の依存症対と経済破綻のリスクに対してどういった対策を取っているのか、簡単ですがまとめておきたいと思います。

1. シンガポールIR開設まで

2005年4月18日付のリーシェンロン首相のスピーチに、政府がそれまで反対の姿勢を取っていたカジノ誘致に大きく舵を切った経緯が記されています。まず最初にセントーサ島にカジノを作るアイデアが政府に出されたのが1985年。それまでに何度かの不況を乗り越えてきた当国に、新しい経済戦略の一環として提案されたものでした。が、当時は全く取り合われず。次に観光グループ(tourism working group)より改めて提案されたのが2002年。この時もあえなく却下されました。が、2年後の2004年に通商産業省からの呼びかけで一気に建設が現実化しました。そして首相のスピーチが2005年。2010年には2つのカジノ、リゾートワールドセントーサとお船のランドマークが有名なマリーナベイサンズの2箇所がオープンしました。(http://www.nas.gov.sg/archivesonline/speeches/view-html?filename=2005041803.htm)

これだけ見ると数年の間にあれよあれよと決められて行ったように見えますが、とりあえず種の撒かれた1985年頃から緩急はあれど、協議が重ねられて行ったのではないでしょうか。(ソースはないので印象ですが)

2. なぜカジノだったのか

なぜシンガポールではカジノだったのか?といえば、これは私の勝手な意見ですが、シンガポールにとってはこれがこの時、ベストな選択だったからだと思います。上記の首相スピーチには、他のアジア諸国にどんどん観光客が流れて行ってしまう時代、どうやってシンガポールが独自の魅力を持って競争力を保つべきかと言う内容が述べられていました。シンガポールには、広大な国土も、資源も、マンパワーとなる人口も、なんなら十分な水源さえありません。最近は日本でもインバウンド消費云々などと言われているようですが、シンガポールにとっては云々どころではないメイン財源のひとつです。2つのカジノからは2010年開設当時で60億USドルの収益。そして9年経った今でも59億ドルの収益をあげています。

3. シンガポールのソーシャルセーフガード

スマートにギャンブルを楽しめる人たちにはギャンブル=依存症と決めつけられるのは納得いかないかもしれません。でもでもやっぱり問題にせざるを得ない。。そんなギャンブル依存症やギャンブルによる個人や家庭の経済破綻をシンガポールがどうやって防ごうとしているのかについて。これは日本のIR法施行の中でもすでにだいぶ参考にされていて、入場料や入場日数期限を設けたり、なんとか規制しようとしているようです。

シンガポールさすがと思うのは、とても目的がハッキリしていることです。なぜカジノなのか?それは外貨を稼ぎたいから。なので、なんならシンガポール市民と永住者は入場できないようにするか⁉︎という議論まであったそうです。(聞いた話なのでソースはないですが、反対団体の意見だったかもしれません) いくらなんでもそれはないだろうということで、折衷策としてシンガポール市民ならびに永住者は入場料(levy - 直訳だと徴収、徴税)を支払うことになりました。

開設当初一日パスが100シンガポールドル(7600円)、年間パスが2000ドル(15万2000円)だったのが、今年から1日パス150ドル(1万1400円)、年間パス3000ドル(23万円)になりました。あと次のパスが買えるのがパスの切れる6時間前というルールもあって、パスの大量購入が規制されています。

入場料にはソーシャルセーフガードとして一定の効果があるようで、今年5月の議会における人財省大臣ジェセフィーヌ テオ氏の答弁によると、2010年から2018年の間にシンガポール市民と永住者の入場は50%下落したとのことです。

日本と今のところ大きく違うのが、シンガポールにおいては日本でいうマイナンバーに当たるNRIC (National Registration Identification Card) が必携で、パスを購入する時もNRICの提示が求められます。つまり入場の頻度は筒抜け(なはず)。それが具体的に使われて止められた…という話は聞きませんが、可能ではある(はず)。また社会・家庭振興担当国務省はカジノオペレーターと協働で、依存症者発見のトレーニングなども実施しています。

ギャンブル問題国家委員会(The National Council on Problem Gambling)によると、2010年に2.6% であった潜在的、病理的ギャンブル問題は、2017年には0.9%に低下したとのこと。借金に苦しむ市民を救済する団体 Blessed Grace Social Service のビリー リー牧師は、入場料の値上げは新規参入ギャンブラーの数を減らしはするだろうが、今本当にシンガポール人を苦しめているのはカジノではなくオンラインギャンブルである…とのことでした。(https://www.straitstimes.com/singapore/new-rules-on-advance-payment-of-entry-levies-from-august)

4. なぜカジノではないのか

翻ってなぜ日本ではカジノではないのか?全くの個人的意見ですが、まず思うに、シンガポールの(マカオやモナコなんかもそうだと思いますが)カジノは外貨獲得装置です。カジノは利益を上げていますが、シンガポールの場合取り分としては7:3でアメリカのオーナーが7です。国家としては税金もかけるし、雇用も創出してもらうけど、自国民に依存症になられて社会保障を賄うとなったら、個人にとっても国家にとってもリスクが高い。だから規制は厳しくします。でも日本でのカジノ議論を見ていると、日本人からもというかむしろ、“から”お金を吸い上げようとしているように見えます。(外国人だったら吸い上げていいとは言いませんが、海外で遊ぶのと、自国で簡単にアクセスできるのはやはり違うと思うので)

純粋にインバウンド消費を狙うなら、どこの国に行っても同じような“ザ・ラスベガス”なカジノよりももっと日本独自のサービスや物品を開発する余地があるのではないでしょうか?(花札とか🎴?嘘です)

それからこれはただの勘、というか感覚なのですが、カジノという装置自体もう時代遅れになっていくのではないかという気がします。総合型リゾート…とかも意外と寿命が短いですよね、人は飽きるので。奇しくもシンガポールでもギャンブル依存はオンラインになっているとの牧師さんの言葉もありましたが、ギャンブル活動そのものもオンライン化、仮想現実化していくかもしれません。

先発のシンガポールは今年、2030年までカジノオペレーター、ラスベガスサンズのライセンスを延長し、さらに90億シンガポールドルの追加投資を取り付けたとのことです。先を見据えつつ後10年、という感じでしょうか。

後もう一つ、日本はカジノやめておけ…と思うのは、日本にはパチンコ依存症をどうにもできていないという現実があるからです。パチンコでできなかったことが、なぜ規模も額も巨大になるカジノでできるようになるんだろうか?IR法ができたから国家が介入して規制するのでしょうか?謎です。

5. 最後に

横浜にカジノ誘致…というニュースを見て、なんだか心がざわざわして気持ちをまとめるためにもnoteを書いてみました。でもシンガポールにはあるじゃん、ということで比較のためにシンガポールのカジノ事例を調べつつ書いてみたのですが、やっぱりシンガポールとは比べられないな…という(ここまで書いておいて)感想です。日本とシンガポールはいろいろ違いすぎます。国の大きさ、人口、管理の度合い、リスクに対する規制力などなど。カジノ推進派の人たちがシンガポールではうまくいっている!と言ったら、ちょっと落ち着いて、もっと日本に近い事例、韓国やフィリピンを調べてみるといいかもしれません。





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Pirica

東南アジア〜南アジア近辺生息。現バングラデシュ在住。元エイドワーカー、現スケッチ魔。絵、夢、旅、星、政治、社会などについて書きます。
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