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愛ゆえに俺は厨房を去らねばならぬ!!

料理がやっぱ好きやねん

前回のnoteでも言いましたが、とにかくぼくは料理が好きです。

毎日毎日、毎秒毎秒、料理のことを考えている。夢に出てくることもしょっちゅうですし、脳内ではつねに新しいメニューを生み出しています。

やしきたかじんじゃないけど「やっぱ好きやねん」みたいな感情が、ずっと胸のうちにあるのです。

しかし、だからこそ、
ぼくは最近、厨房に立たないようにしています。

自分のお店で料理をつくらないのです。コースのうちの1品をたまにつくることはありますが、それ以外はぜんぜんつくっていません。

それは、料理が好きだからです。
料理を愛しているからこそ、ぼくは厨房を去ろうと決めたのです。

「料理が好きすぎて厨房を去る」という選択をするシェフは、なかなかいないでしょう。今日はそのジレンマについて知ってもらえるとすごくうれしいな、と思って記事を書いています。暑苦しいnoteになるかもしれません。すみません。最初にあやまっておきます。

「料理が好きすぎて厨房を去る」……ちょっと何言ってるかわからないと思うので、もうちょっと説明します。

レストランにシェフがいることで失うもの

「レストランにシェフがいない」というのは、日本では特にマイナスのイメージが大きいです。なにか無責任な感覚がするのでしょう。「ちゃんとおいしいのかな?」と思われてしまいますし、「シェフに会いたい」というお客さんの期待に沿えなかったりもします。

ただ、「シェフがつねにお店にいなくてはいけない」となると、単純にシェフは「お店の中でできる範囲のこと」しかできません。海外を視察することもできませんし、より大きなビジョンを描くこともできない。

感動させられるお客さまの人数も1日にせいぜい数十名くらいです。しかもシェフが厨房を独占しているので、若いスタッフはいつまでたっても料理がつくれるようになりません。

それじゃダメなんです!!!

もっともっと多くのお客さまを感動させたい。もっともっと大きな舞台で勝負したい。だから、このままではいけないのです。

お店に「イズム」を宿す

ぼくはこれからのお店は「シェフがいる」のではなく「イズムがきちんと残る」ことが望ましいと思っています。その「イズム」を体感しにお客さまが押し寄せる。それが理想です。

シェフである鳥羽周作という「個人」が評価されることよりも、鳥羽周作の考えを受け継いだ「みんなのお店」が評価されることが大事なのです。

たとえば「創業100年の醤油」は、すでに創業者がいない状態でも代々ずっと受け継がれています。それもやはり「イズム」だと思います。醤油の蔵のイズムが受け継がれてきている。これをレストランでもやれるはずです。

それがあたりまえになって、いろんなシェフが外で活躍できることがあたりまえになっていけば、料理の世界はもっともっと魅力的になる。ぼくはそういう世界を望んでいます。

「自分のお店の料理が好き」ではなく「料理が好き」

ぼくは「料理が好き」と言いました。

ただその「料理が好き」というのは「自分のお店の料理が好き」というわけではありません。「料理業界が好き」というのとも違う。それよりも「料理の世界全体が好き」なのです。

料理が好きだからこそ、料理をしない。それは断腸の思いです。「好きな仕事をしない」というのは、誰にとってもつらいことでしょう。みんなプレイヤーでいたいはずです。でもぼくは、料理の世界全体が好き、料理のシーンが好きだから、そのために「今は自分が料理をしない」という選択をとっているのです。

おそらく長い目で見れば「料理が好き」という部分で、きちんと整合性がとれているはずです。「料理をしない」という方法は、本当に料理が好きじゃないとできない選択だと思います。

ぼくはすごく早いタイミングで、次の世代を育てようとしています。なぜここまで早くやるかというと、自分が死ぬまでに料理を作れる回数が決まっているからです。人生は有限です。最終的にぼくが思い描く世界から逆算していくと、今これをやらないと間に合わないのです。

口を出さずに「任せきる」

シェフはお店で料理をしない。そのことで後進を育て、イズムをつくっていきたいと思っています。

では、具体的にどうすればいいのでしょうか?

人に任せるとクオリティが下がる恐怖があります。「ここで期待に応えられなかったら、もう二度と来ていただけなくなるのではないか」という怖さがある。

ぼくらも最初のお店をオープンして3カ月間くらいは、その不安がむちゃくちゃありました。任されている側もそのプレッシャーに耐え兼ねて「いや、無理です」みたいなことを言っていました。

それでもやっぱり、ぼくは「任せ切る」ことが大切だと思うのです。そしてスタッフにも「任せる」というスタンスをきちっと表明します。任せると決めて、あとは静観する。途中で口を出しません。もちろん最後にケツは拭きますが、ギリギリまで絶対に口は出さないのです。

そうすることで失敗したことも当然あります。ちょうど一昨日も、めっちゃ任せていたので、失敗して大変でした。でも、それでも、次にまた任せるのをやめたりはしません。任せ始めたら、途中では絶対に取り上げない。ずっと任せると決めているのです。

「80点のライン」は死守する

まだスタッフが未熟な状態で任せると、お客さんがガッカリして帰ってしまう危険性もあります。ありますが、ここがすごく重要で、実は「お客さんが求めている合格ライン」と「ぼくが求めてる合格ライン」にはけっこう差があるんです。

ぼくが見ていてダメだなと感じるのは、100点のうちの上の20点の部分です。トータルで見ると80点以上は出ているのです。「まだ90点だから、ここは改善できるよね」ということです。ただ、料理人ではない普通の人からしたら、80点が出ていれば絶対に「おいしい」と思ってくださるはずです。

まずは、きちんと80点を担保すること。80点が担保できる料理はかならず出せる状態にします。そこは実は、そんなに難しくありません。多くの人が「おいしいな」と感じる部分をつくりあげる。そこから上の20%の難しい部分を、つねにコミュニケーションしながら作り上げていくのです。よって丸投げはしているものの、最初から「負け試合」みたいな料理はないのです。

お客さまに育てていただく

後進を育て、イズムをつくっていくためのポイントは「とにかくスタッフに任せきる」ということ。もうひとつ、これも超大事なのですが、「お客さんとの信頼関係をつくりあげる」ということです。

たとえばこのnoteを読んでくれたお客さまは「鳥羽さんは若い子に席を譲ってチャレンジさせてるんだな」と感じてくださるでしょう。だからもしかしたら、お店に来ていただいても「いつもの鳥羽さんがつくるのとは、ちょっと違うかな?」と思われるかもしれません。

でも、それも含めて「sioを応援しよう」と思っていただきたいのです。「完ぺきな状態のsio」を楽しんでもらうというより「一緒に育てていく」。本当にわがままかもしれませんが、そういうお客さまに来ていただきたいなと思っています。

sioはそういう意味で、最初にお客さんに応援され、任せることができたので、ひとつの山をグッと越えることができました。やっぱり懐の深いお客さまに支えられている。正直、そこがとても大きいのです。本当にその部分は感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。

「吉野家の牛丼の玉ねぎの感じがめっちゃいい」

いまぼくのお店は、かなり「イズム」が浸透しています。だからガッカリさせることはないはずです。そしてぼく自身、さらに先のビジョンに向かって突き進むことができています。

イズムが浸透するとスタッフのあいだで「鳥羽シェフはこういうことを言うだろうな」「シェフはこういう感じは嫌いだろうな」という共通認識が生まれます。これがsioの強さの秘密です。

ではそういうイズムをつくるためにどうしてきたか? 主に「最初の3カ月」でどんなことをしてきたかをお話しします。

大切なのは、ぼくの「○✕」をきちんと伝えることです。自分の「好き嫌い」をすごくオーバー気味に伝えていくのです。

たとえば、みんなで吉野家の牛丼を食ったときに、ちょっとオーバー気味に「なんか、このね、玉ねぎのしみ具合が、俺はめっちゃ好きなんだ!」みたいな話を毎回言うのです。すると、みんなの中で「シェフはああいうのが好きなんだな」みたいな話になります。そういう好みを全体に向けて伝えるわけです。

お店としての「ありか、なしか」の判断は、基本的にはぼくが決めることです。よって、その判断の基準を日々の生活のちょっとしたシーンで、ちょこちょこと出していくのです。それがだんだんと店の「イズム」へと育っていきます。

好き嫌いを伝えるとはいえ「これは絶対やめて!」みたいな言い方はしません。あくまでも好みのスタイルの話です。パスタの麺でも「このかたさ、やっぱいいよなあ」みたいに伝える。ぼくが思う「こっちのほうがいい」をみんなと共有するのです。

これは本当にしょっちゅう言っています。細かく指摘するという感じではなく、なんとなく「この感じで」っていう言い方をするのです。

ぼくの「コピー」をつくりたいわけではない

大切なのは「余白」をつくっておくということです。

指摘をあまりにも細かく言いすぎると、応用が利かなくなります。1から100までみっちり教えてしまうと「余白」がなくなるのです。

大切なのは、すべて「余白」なんです。「ポテンシャル」とも「伸びしろ」とも言いかえられるかもしれませんが、とにかく余白をつくるのは超大事です。

たとえば文章でも、言語化するのがむずかしい「このなめらかさ」「このグッとくる感じ」みたいなものがあるでしょう。ぼくだったら、つねに一緒に読んで感覚を共有します。「そうそう、この感じ、この感じがいいんだよ!」と。「ここの文章がここで終わって、すぐにここでもう1回おもしろい話来るじゃん。ここだよ!」みたいなことを軽く解説する。あとは、細かくは言いません。

ぼくは、お店に「ぼくのコピー」をつくりたいわけではないのです。「イズム」を持った集団をつくりたいだけなのです。そして、そのイズムが定着して「カルチャー」になっていくのです。

ただの「コピー」だと飽きられてしまいます。でも、個性に「イズム」がプラスされると、カラーが出ます。それぞれのスタッフに、同じ「鳥羽イズム」みたいなのを感じられる。それが最高です。

全部ぼくと同じようにやるような集団はつまらないし、ぼくのようにやるのはそもそも無理です。生まれ変わらないと無理。絶対に同じようにはつくれません。だから、80%の「イズム」を注入して、残りの20%で色づけするのがいいんです。

人が増えたから、お店を増やす

最後に「採用」についての話をします。

そうはいっても、優秀な人を集めてるんじゃないの? もともと経験のある人を集めてるからイズムができるんじゃないの? と思われるかもしれません。まったく違います。

実はスタッフの採用基準みたいなものはぜんぜんありません。

もともと素質がある人を入れるわけでもないです。素質のあるなしは気にしません。キャリアもまったく見ません。「どこどこレストラン歴10年」とかはぜんぜん気にならないし、求めていません。

見ているのは、やっぱり「芯の強さ」です。

ぼくは面接で「だいたいさあ、お前なんかにはムリだよ」みたいな雰囲気を一度出します。それでも食いついてくるかどうか。そこを見ています。感性や人間性、気を使えるかどうかも見ますが、いちばんは「あきらめの悪さ」だったりします。断られても食らいついてくる。結局、今お店に残ってるやつはみんなあきらめの悪いやつです。うちは全員しつこくて、あっさりなタイプはいません。

このあいだはIT系の仕事を辞めて、栄養士をやってる22歳くらいのやつがメールを送ってきました。「ぼくだったら『sio』の役に立ちます!」みたいメールで、けっこう強気なやつが来たので「今度1回働けば」みたいな感じで迎え入れました。

で、だいたいそのまま居座ってしまうやつが多いです。みんなとLINEを交換して、忍び寄ってきて、勝手に仲よくなっています。超ズルい。生意気なくらい強気なんです。

ぼくは「どうしても」というやつは、全員迎えるという気持ちでいます。基本みんな採ってるので、逆にみんなから「え、大丈夫ですか?」って心配されるくらいです。

そうやって人が増えてしまって、場所がないんです。だから、新しいお店をオープンします。場所がないから、新しく場所をつくるのです。店舗を増やしたいから人を採るのではなくて、人が増えてしまっているから人に合わせて店舗を増やすわけです。

駆け込み寺のように「sioに行けばなんとかなる」みたいな場所にしていきたい。今まで料理をやっていなかったやつでも、料理をやっていたやつでも、誰が来てもなんとかなる、みたいな場所です。

そうやって来てくれる人がいると、ぼくはうれしいんです。そういうやつの面倒をみてあげたい。そうするためにも、やっぱり「イズム」をもっともと追求していきたいと思っています。

というわけで!!

本日10月10日夜営業からsioの2号店「o/sio」がオープンします。

sioの2号店ですが、sioの料理をリーズナブルでお出しする、というようなお店ではありません。もちろんsioでお出ししている料理も、いくつかお出ししていきます。しかし「o/sio」でぼくがみなさんに食べていただきたい料理は別にあります。

ぼくはナポリタンやからあげなどが好きです。家庭の食卓に上がるもの、ファミレスやデパートで食べたりするもの。そんなナポリタンやからあげなどを奇をてらわず、直球で、お出ししたい。素朴で身近な料理を、いちばんおいしく提供したいと思うのです。

ランチは定食メインです。これも「ぼくがおいしい定食屋をやってみたら……」というメニューになっています。

sioでの料理のイメージを持った方が、「o/sio」に行かれると、もしかしたら戸惑われるかもしれません。しかしながら、どちらもぼくの大好きな料理なんです。

o/sioは毎日食べても飽きない、究極の普段使いのお店を目指しています。特にナポリタンは、我ながら「ナポリタンを超えたナポリタン」だと思っています。ぜひ、お楽しみください!

また、sio、o/sioとも厨房、ホールのスタッフを募集しています。熱く一緒に働きましょう!

よろしくお願いいたします!!!

o/sio(オシオ)

住所:東京都千代田区丸の内2-6-1丸の内ブリックスクエアB1

営業時間:
平日・土曜 11:00~23:00
日曜・祝日 11:00~22:00(丸の内ブリックスクエアの営業日に準じます)



編集協力:WORDS

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鳥羽周作 「sio」オーナーシェフ

代々木上原のレストラン「sio」オーナーシェフ。サッカー選手、小学校教員を経て、32歳で料理の世界に飛び込む。「DIRITTO」「Florilege」「Aria di Tacubo」などで研鑽を積み「Gris」のシェフに就任。2018年7月、「sio」をオープン。 41歳。

#フード 記事まとめ

レシピやグルメ情報、料理や食文化に関する考察など、食にまつわる記事をまとめていきます。
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コメント1件

いやほんと、まさにおっしゃる通り。
「後継を育てる」事に苦労されてる方は、このイズムがほったらかしのような気がします。それは、お店や会社等の仕事面だけではなくて、親子の関係、先輩後輩の関係にもつながる事でしょう。
私も自分のイズムを磨きます。何だか元気でました。ありがとう。
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