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緩和ケア医を育てるには~年末に想う

2022年も、あと6時間ちょっとで終わります。さて、年末にマガジン用に少し固い話題を…(^^;
2年に1度、医師は医師法に基づいて、現況報告というか、「今どこでなにやってるの?」ということを、厚労省に提出しないといけません。それが医療統計にもなっているし、どこを重点的に充実させる必要があるか、などの医療政策の資料にするためだとも思うのですが…
 
ここで認定医、専門医、指導医、という言葉があります。
認定医というのは、〇〇学会などの学術団体が、その分野の医師を名乗っていいだけの力量がある、と認めた、その証明としてもらえるものです。
専門医というのは、より専門性の高いことがらまでスキルなり知識なりを充足していることを、試験や業績で判断して受ける評価です。
指導医というのは、認定医などその分野を専攻する医師を指導する力量まで十分であることを証明され授かるものです。
 
さて、話を最初に戻しますが。
 
医師は医師法に基づいて、どこでどんな医療をやっているかを厚労省に提出しないといけない。その「どんな」のところに関わってくるのがこの「認定医」「専門医」「指導医」といったものです。要は、内科の医師でござい、ということは言ってもいいが、日本内科学会の総合内科専門医です、と言えば通りもよいし、評価の根拠がある、ということです。
 
さ、僕は緩和ケア医だから、緩和ケア、緩和ケア・・・かん・・わ・・
 
ない。
 
そう、緩和ケア科、緩和ケア内科、などといった選択肢が、この現況届にはないのです。なぜか。
 
現況届で記載する上記の資格・認定というものは、1つは①国家認定のもの。次に➁学会等団体認定のもの③それ以外、に分けられるのですが、それらを通しても緩和ケア医師という選択肢はないのです。仕方ないので、『その他(緩和ケア医)』と書くしかない。
 
「一般社団法人日本専門医機構」https://jmsb.or.jp/ というのがあって、学会等の認定医・専門医というものは、この機構に認定されたものに統合されつつあります。(一部を除く)
 
基本領域(内科・外科など19領域)サブスペシャリティ領域(基本領域の取得の上でなりたつ23領域)それ以外の広告可能な領域(整形外科学会など59?領域)があって、
そのどれかに当てはまるか、という話なんですが…僕は認定内科医しか当てはまらない。
緩和も栄養も、学会がこの専門医機構の基準を満たしていないため、広告としても出せないのです。
 
だから、僕はいわば“自称”緩和ケア認定医みたいに扱われることになる。
でもこれは正直まずい状態。だって、厚労省としても、「診断されてからなるべく早く緩和ケアに」なんて言ってるのに、がん診療連携拠点病院の指定要件に「緩和ケアチームがあること」などというのがあるのに、肝心の緩和ケア領域の専門医というものが、あってないようなものになっている状況は何とかしたい。
 
そんなわけで日本緩和医療学会もようやく制度改革を始めだして数年、来年度から「新」専門医制度、指導医制度のカリキュラムを示した。
 
あーよかった、でもないのです。これがまたなかなかに面倒臭い。
 
まず現行、「学会が」認定している緩和ケア専門医、という人たちがおられます。もちろん専門的知識を有する優秀な先生方だと思いますが、この数が非常に少ない。なぜなら、評価方法が実に厳しかった。書類の1次選考、試験の2次選考、口頭試問の3次選考とあり、初期の頃など、本当に合格者が少なかったり何度も落ちたりということがあったといいます。そこで数年前から少し易しめの緩和ケア認定医を作り、これが数百名まで増えました。ですが、ここでねじれ現象が起きた。通常の医師の学会では、専攻医(その領域を極めることに決めて、その学術団体に登録し研修を始めた医師)の指導を行うのは、指導医、専門医なのです。それが緩和医療学会では認定医も、指導ができることになってしまっている。専門医よりもレベルの低いひとが、専門医を目指すひとを指導できる、という矛盾が生じたわけです。
 とはいえ、なんでそんなに専門医が厳しいの?という話にもなった。そもそも指導医レベルのことを専門医に求めすぎてないか、と。
 そこで今回「新」専門医制度を作り、是正していって、今後は専門医と指導医のみが指導ができるようにする、という制度にしたわけです。
 
 これで、解決!でも全然ない。なぜなら、現行の認定医→「新」専門医になれるように、少し移行期間ならではの優遇制度があるのですが、これも意外に厳しい。特に、来年度認定医の年限が切れる人が、移行制度の審査を受けて落ちてしまったら、まったく何にもなくなってしまう。そうなると、今までの研修関連施設としての資格も失われる可能性がある。そもそも研修施設が全国にどのくらいあるのでしょう。500件超あります。ただこの中で今後区別される、研修認定施設(カリキュラムも自前で作って出来るところ)と研修関連施設(研修認定施設と組んでしか、教育が出来ない施設)に分けたとき、後者に値するところは、自施設の認定医が「新」専門医に上がらないと、その資格を失う恐れがあるわけです。
 これに関しても2029年までの移行期間は設けてあるようですが、ものすごく若い緩和ケア専門医、という方は決して多くはなくて、新しく試験を受けられる人を教えるひとと、受けるひとの数がちゃんとバランス取れてるのか非常に不安です。僕もなんだかんだで50代、あと5年もたてば厳しくなってくるんじゃないかなぁ…
 
ということでまずは来年、そしてこの数年で頑張って勉強しなくてわいけないのです。それは自分のため、というよりは、恐らく今後の地域医療で緩和医療を維持するためにも、必要なことだと思いますが、それにしても綱渡りな感じがして、ひーーー。
ではでは、皆さま良いお年をー。